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年金不安の影で増加する金融トラブル-投資勧誘より優先すべき金融知識の向上に向けた取り組み
井上 智紀
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1――はじめに
そこで本稿では、こうした指摘への対応として、現在の高齢者世帯における家計収支の状況を世帯主の年齢や資産階級により細分化してみることで金融庁報告書の内容を補足するとともに、家計に貯蓄・投資を促す上での課題を示す。
2――世帯主の年齢や貯蓄高により区々に異なる高齢者世帯の家計収支
2014年の総務省統計局「全国消費実態調査」から、世帯主が65歳以上の無職世帯(世帯員2人以上)における1世帯あたり1か月の収入と支出についてみると、実収入は239,545円、実支出は273,643円と収支差は-34,098円の赤字となっている(図表1)。金融庁報告書と同様、この不足額が毎月発生する場合には、30年で約1,200万円の取り崩しが必要になることになる。しかし、これをさらに世帯主の年齢階級別に細分化してみると、1か月あたりの収支差は65~69歳では-60,275円と大幅な赤字となっているものの、70~74歳では-42,873円、75~79歳では-17,035円と徐々に縮小し、85歳以上では9,330円と加齢とともに支出が減少することで逆に黒字となっていることがわかる。このことは、これら年齢階級別の収支差からみれば、30年分の不足額は約1,000万円に留まることを意味している。このように毎月発生する不足額への対応は、自助努力により積み上げた資産の取り崩しに頼ることになることから、同じく世帯主65歳以上の無職世帯について貯蓄現在高階級別の収支差についてみると、1か月あたりの収支差は貯蓄現在高150~900万円の世帯では-12,952円~-18,548円と1万円台の赤字に留まっており、金融庁報告書と同様不足額が5万円前後に達する世帯は貯蓄現在高3,000万円以上に限られていることがわかる。
3――貯蓄・投資への取組促進の影で増える金融トラブル
国民生活センターのデータベース(PIO-NET)から金融・保険関連の相談件数の推移をみると、「株」や「投資信託」、「生命保険」などの相談件数が概ね横ばいないし微減で推移しているのに対し、「ファンド型投資商品」では2017年度から2018年度にかけて急増している様がみてとれる。急増する「ファンド型投資商品」の2018年度の結果を契約当事者の年齢別構成比としてみると、70歳以上が41%を占めて最も多く、60歳代(20%)、50歳代(11%)の順で続いており、50歳以上の高齢層が7割を占める結果となっている。
2019年度までの推移を1か月あたりの件数に換算してみると、「ファンド型投資商品」は2019年度では390件/月と減少しているものの年齢別構成比では、20歳代(18%)や40歳代(10%)が1割を超えるなど、相談や苦情につながる販売が若年層にも拡がっている様がみてとれる1。
4――若年から高齢者まで、幅広く適切な金融知識取得の促進を
(2019年09月06日「研究員の眼」)
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