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投資経験の拡がりと今後の意向-経験者は増えるものの課題はリテラシーの向上

井上 智紀
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NISA・つみたてNISAの口座数、買付額は順調に伸びており、足元では若年層においても資産形成に向けた動きが拡がっているように見受けられる。
一方、マクロに視点を移して2022年末に史上初めて2,000兆円を超えた家計金融資産の種類別構成比をみると、「株式・投信等」は2015年以降、概ね15%前後の横ばいで推移しており、NISA口座数やNISA口座における投資拡大の影響は埋もれてしまっているようにも思われる。実際のところ、NISAやiDeCoなどの制度の導入や、コロナ禍の自粛生活を通じて、投資経験はどのような層にどの程度拡がっているのだろうか。本稿では、弊社が2023年3月末に実施した「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」の個票データを用いて、投資経験の状況や今後の意向について尋ねた結果を概観した。
その結果、全体では投資の経験はなく、今後の意向もない者が半数近くを占めて最も多く、コロナ禍に入ってから投資を始めた投資経験3年未満の者と、今後始めたいとする者はそれぞれ1割程度に留まることが明らかとなった。また、投資経験がある者の投資先では、「株式」、「株式投信・ETF」の順に多く、NISA制度の利用はそれぞれ3割前後となっており、投資経験が浅い者では「つみたてNISA」が高く、5年以上の経験がある者では「株式」が突出して高くなっているほか、「株式投信・ETF」、「一般NISA」も高いなど、投資経験の程度により投資先や制度の利用状況に差異があることも明らかとなった。同様に今後利用してみたい投資先・制度では、「株式」、「つみたてNISA」、「一般NISA」の順に多くなっているものの、3年未満および今後始めたい者では、「つみたてNISA」が高く、投資経験が3年以上の者では「株式」、「一般NISA」、「株式投信・ETF」が高いほか、2~5年未満では「仮想通貨」も高くなっているなど、今後の投資先や制度の利用状況も投資経験・意向により異なることが示された。
これらの結果が示すように、コロナ禍にあった3年間、投資経験者の裾野は若年層を中心に着実に拡がっており、こうした裾野の拡大には、つみたてNISAの寄与があったことは間違いないように思われる。しかし、投資経験や投資先・制度の利用状況、今後の意向については属性によっても差がある上、投資経験の浅い層においては、必ずしも十分な金融リテラシーを有しているとはいえない状況にある可能性も考えられる。このように十分な金融リテラシーもないまま、仮想通貨などボラティリティの高い金融商品を投資先とすることは、家計にとって深刻なダメージをもたらすリスクを抱え込むことを意味している。若年層を中心とする新たに投資を始めようとする者にとって、つみたてNISAが有用な受け皿となることは言を俟たないものの、制度の仕組み上、口座開設時やNISA口座内で購入する金融商品を選択する際を除けば、殊更に投資に伴うリスクを意識する必要がなく、金融リテラシーを高める機会も得られない。数年の投資経験を経る中で、多様な商品への投資にも関心を寄せるようになることを前提とすれば、つみたてNISAの枠外にある多様な金融商品・投資先に関する知識を含めて、少しずつでも金融リテラシーを身につけていけるような仕組みも考えておく必要があるのではないだろうか。
■目次
1――はじめに
2――投資経験の有無と意向
3――投資先および利用している制度と今後の利用意向
1|投資先および利用している制度
2|今後の利用意向
4――分析結果の総括とインプリケーション
(2023年04月27日「基礎研レポート」)
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