2024年03月07日

4つの志向で読み解く消費行動-若者は「所有より利用」志向、女性やシニアは「慎重消費」志向

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.324]

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

生活研究部 井上 智紀

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1―消費者の持つ4つの志向

消費行動がコロナ禍前の形へ回復しつつある中、価値観やライフスタイルなどの消費者が本来持つ消費志向の特徴を把握することが一層、重要となっている。

ニッセイ基礎研究所が20~74歳を対象に実施した調査*を用いて、消費行動を構成する要因(志向)を分析したところ、「慎重消費」「所有より利用」「顕示的消費」「C2C(個人間売買)・中古品受容」の4つの志向に要約されることが示された[図表1]。なお、各志向は、それぞれを構成する主な変数から命名しており、例えば「慎重消費」は影響の大きな変数にコストパフォーマンスの検討や事前の十分な情報収集などがある。
[図表1]消費行動についての因子分析結果(n=2,550)
 
* 「生活に関する調査」、調査時期は2023年8月17日~23日、調査対象は全国に住む20~74歳、インターネット調査、株式会社マクロミルモニターを利用、有効回答2,550

2―属性による4つ志向の高さの違い

4つの志向について性年代別の特徴を見ると、男性の方が「所有より利用」や「C2C・中古品受容」志向が、女性の方が「慎重消費」や「顕示的消費」志向が高い傾向がある[図表2]。年齢が高いほど「慎重消費」志向が、若いほど「所有より利用」や「C2C・中古品受容」志向が高い傾向がある。また、70~74歳では「顕示的消費」志向が高い(やや20歳代も)。
[図表2]属性別に見た消費行動の傾向
属性別の特徴の詳細については後述するが、家計への関心が高いと見られる女性やシニアでコストパフォーマンスを意識して慎重に買い物をする傾向や、モノの所有よりもコト(サービス)消費への関心が高く、デジタルネイティブの若者でレンタルやサブスクリプションサービス、フリマアプリの利用に積極的な傾向は、日頃の印象通りではないだろうか。

消費行動のモノ→コト・シフトは、最近では幅広い年代でみられるが、特に合理的に消費をする意識の強い若者で、よく見られるようだ。

今の20・30歳代はデジタル化が進展し、成熟した消費社会、すなわち、安価、あるいは無料の高品質な商品・サービスがあふれ、お金をかけなくても質の高い消費生活が可能な社会で育ち、消費に関わる価値観を形成しているため、かつてのように「高級品を持つこと=すごいこと」といった物差しではなくなっている。

さらに、少子高齢化の進行で将来の負担が増し、経済不安が強まる中では、堅実に資産形成をしながら、必要な時に必要な量だけ商品・サービスを利用する方がスマートであるという考え方が主流になっているのだろう。

一方、70~74歳では「顕示的消費」志向が高いが、それは経済的余裕に加えて、インターネット調査の特性から、調査対象に消費行動をはじめ何事にも積極的なアクティブシニアが多い可能性もある。

なお、図表は省略しているが、職業別や世帯年収、世帯金融資産別に見られる特徴は各層を構成する年代分布の影響が大きい(例えば、無職・その他にはシニアや女性が多いため、これらの特徴があらわれやすい)。

3―属性別による各志向の特徴の違い

属性による各志向を構成する変数の影響度合いの違いから、その特徴を深堀することができる。

例えば、「慎重消費」志向を構成する変数について、あてはまる割合(「あてはまる」+「ややあてはまる」)を見ると、いずれも女性が男性を上回り、特に「ものをなるべく持たないシンプルな生活を送りたい」や「ものを買う時は、品質や成分表示を十分に確認する」では女性が男性を大幅に上回る[図表3]。つまり、女性は「慎重消費」志向が高いが、特に(不要に)モノを増やさないことや品質の十分な確認には慎重であるようだ。

同様に年代別には、おおむね年齢が高いほど、あてはまる割合が高い傾向があり、特に「ものを買う時は、品質や成分表示を十分に確認する」や「できるだけ長く使えるものを買う」、「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する」で目立つ。つまり、年齢が高いほど「慎重消費」志向が高く、シニアでは特に品質の十分な確認やコストパフォーマンスに対する意識が強いようだ。

「所有より利用」志向については、男性は「ものを買って所有するよりも、できるだけレンタルやサブスクリプションサービスなどを利用したい」や「まとまった借金(住宅ローン等を除く)をすることに抵抗はない」で、女性は「フリマアプリやリサイクルショップなどで、不要品を積極的に売りたい」で、あてはまる割合が高い[図表4]。

つまり、男性の方が「所有より利用」志向は高いが、女性に比べ(モノを売ることよりも)モノを利用する意向が強い。一方、女性は「所有より利用」志向は低いが、男性と比べてモノ(不要品)を売る意向は強い。

年代別には、いずれも若いほど、あてはまる割合が高い傾向があり、売る意向も利用する意向も強い。ここからも、若者では「必要な時に必要な量だけ利用する」という価値観が消費行動の土台となっている様子がよく分かる。

「顕示的消費」志向については、男性は「人より先に新しい商品を買いたい」や「既製品より、自分の好みや体型などにあったパーソナルオーダー品を買いたい」で、女性は「いつも予定より多く買い物をしてしまう」で、あてはまる割合が高い[図表5]。

つまり、女性の方が「顕示的消費」志向が高く男性に比べ量を買ってしまう傾向が強い一方、男性の方が「顕示的消費」志向は低いが、新製品やオーダー品の購入意向は女性より強い。

年代別には、若いほど「計画的に買い物をするより、衝動買いをよくする」や「人より先に新しい商品を買いたい」、「既製品より、自分の好みや体型などにあったパーソナルオーダー品を買いたい」で、あてはまる割合が高い傾向がある。また、20歳代と70~74歳では「無名なメーカーよりは有名なメーカーのものを買う」や「普及品より、多少値段がはってもちょっといいものが欲しい」で他年代と比べてやや高い。

つまり、「顕示的消費」志向はシニアと若者で高いが、シニアでは名のある高級品に、若者では新製品などの衝動買いやオーダー品に、それぞれ消費する価値を求める傾向にあるといえる。

「C2C(個人間売買)・中古品受容」志向を構成する変数は2つであり、あてはまる割合は、いずれの属性でも、2つとも同程度である(図表略)。
[図表3]属性別に見た「慎重消費」志向を構成する変数のあてはまる割合(「あてはまる」+「ややあてはまる」)/[図表4]属性別に見た「所有より利用」志向を構成する変数のあてはまる割合(「あてはまる」+「ややあてはまる」)/[図表5]属性別に見た「顕示的消費」志向を構成する変数のあてはまる割合(「あてはまる」+「ややあてはまる」)

4―一層、きめ細やかな商品設計を

2024年は本格的に個人消費の回復が期待される。今後は消費動向を見通す上で、価値観やライフスタイルなど、消費者が本来持つ消費志向の特徴を把握することが一層、重要となっていく。

高品質な商品やサービスがあふれた成熟した消費社会では、1つの商品が爆発的にヒットするような大きなトレンドは生じにくい。よって、それぞれの消費者層の志向の特徴を丁寧に捉えた上で、きめ細やかに商品を設計し、販売促進計画を練る必要があるだろう。
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(2024年03月07日「基礎研マンスリー」)

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