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少子化の一因となった子育てのゴール変更を生命保険から考える
保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴
1――日本は子供を育てられないほど衰えたのか
数年前、某テレビドラマでシングルファーザーの主人公が息子に対し「心配するな。大学はちゃんと出させてやる」と諭すシーンがあった。それが現在の子育てに関するスタンダードな目標とまでは言えないかもしれないが、逆に少子化以前の日本国民のどれほどが子育てのゴールを大学卒業までとしていたであろうか。
2――末子を養うに必要と思う期間が70年代以降伸びてきた
現在であれば極論に聞こえるかもしれないが、実のところ1930年代生まれで自営業であった私の父は多分にそのような考えの持ち主であった。とはいえ高度経済成長期に多くの人が豊かになったことは疑いなく、実際には子供たちを大学まで卒業させてくれたものの、産む段階でそれを予見していたわけではない。
逆に子育てのゴールは大学を卒業させること、加えて東京に下宿して私立大学に通うことになったら毎月いくらかかるのだろうか、などと考え出したなら、団塊の世代が誕生した昭和20年代ですら多くの人が子供を産むことを躊躇したのではあるまいか。
3――子育てのゴール変更が生保の追い風となったのは90年代前半まで
ピーク後の推移は様相が異なる。コロナ前の2019年で見た場合、落ち込んだとはいえ出生数は前回ピークである1973年の4割強の水準を維持した(86.5万人)ものの、生命保険の新規契約高は同じくピークである1991年の4分の1を割り込んだ(49.7兆円)。
インフレがほぼなかった期間であることを割り引いても、後者の急減を少子化だけで説明することは困難であるが、この時期では子育てのゴール変更という追い風効果がなかったことは間違いないだろう。図表1に戻っていただきたい。自分に万が一のことがあった場合に残すべき生活資金について、既に1991年の回答で20.0年分に到達し、以後は20年分前後で安定的に推移している。子育てのゴール変更は1990年代前半には完了していたとみられる。
4――おわりに(少子化と生命保険)
岸田政権が「異次元の少子化対策」と強調してたたき台を提示した通り、少子化は日本の政治経済全般に影響を与えるものである。少子化対策の前提となる分析は多面的な角度からなされる必要があるが、生命保険で守るべき子供が減少するという意味で、少子化の影響が直撃する生命保険に関する情報は分析の一助となるであろう。
引き続き生命保険から少子化を考察し発信していきたい。
03-3512-1789
- 【職歴】
1990年 日本生命保険相互会社に入社。
通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。
【加入団体等】
日本FP協会(CFP)
生命保険経営学会
一般社団法人アフリカ協会
2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版
(2023年04月11日「基礎研レター」)
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