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いま振り返るベヴァリッジ報告-少子化対策も組み込んだ80年前の社会保障計画-

保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴
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第2次世界大戦中の英国で「社会保険および関連サービス」と題する報告書が公表された。戦前とは異なる戦後の英国のあり様を示すという革新的な目的の下、ベヴァリッジただ1人の責任で書き上げられたこの報告書は一般にベヴァリッジ報告と呼ばれる。国民の幅広い支持を得たベヴァリッジ報告は、その実現を公約に掲げた労働党政権を誕生させ、戦勝を導いた保守党のチャーチルを首相の座から引きずり下ろした。
ベヴァリッジの思い描いた社会像は(1)自由主義経済、(2)5つの巨悪(欠乏、疾病、無知、不潔、無為)からの解放、(3)人口維持であった。そして5つの巨悪のうち主に欠乏に対処するものとして社会保障制度を位置付けた。
手法としては(1)国民が屈辱感を覚えず権利として受給できるよう同一給付同一保険料の原則に基づく社会保険を導入し、(2)低所得層に対しては資力調査などを経ての公的扶助、(3)高所得層へは任意保険による自助努力の推奨を行うものであった。
中心となる社会保険による所得補償については、最低生活水準を確保するためのナショナル・ミニマムとそれに応じた保険料を算出した。年金給付条件を単なる加齢ではなく老齢後の退職に設定したことは、個体差の大きい高齢者の健康状態を勘案すれば合理的と言えよう。また、個人が主に簡易生命保険で準備していた葬祭一時金を社会保険の対象に加えたことからは、全国民共通のニーズは最も費用効率のよい国家制度で対処するという徹底した合理主義が伺える。
その社会保険が機能するための前提である(1)児童手当の支給、(2)包括的な保健およびリハビリテーション・サービス制度、(3)雇用の維持(大量失業の回避)について、租税を財源とする公的扶助によって実施することを掲げている。(1)児童手当は当時から懸念されていた少子化への対策でもあった。
他方、ベヴァリッジは専業主婦の労働を評価し手厚い保障を設計したものの、後世では妻の専業主婦化を固定したという批判を受けた。社会保障制度への評価は世のあり方に応じて厳しく変動するものと言えよう。
このように首尾一貫した合理性を持つベヴァリッジ報告は、わが国の今後の社会保障制度改革においても参考に値する点が多々あるものと思われる。
■目次
1――はじめに
2――ベヴァリッジ報告の作成経緯と反響
3――あるべき社会像
1)自由主義経済
2)5つの巨悪からの解放
3)人口維持
4――手法の棲み分け
1)屈辱感なく受給するための社会保険
2)低所得層のための公的扶助
3)高所得層は任意保険を活用
5――所得補償のための社会保険
1)ナショナル・ミニマムの保障
2)老齢年金ではなく老齢後の退職年金
3)葬祭一時金の組み込み
6――前提を整えるための公的扶助
1)児童手当の支給
2)包括的な保健およびリハビリテーション・サービス制度
3)雇用の維持(大量失業の回避)
7――妻の位置付け
8――おわりに
(2025年05月15日「基礎研レポート」)

03-3512-1789
- 【職歴】
1990年 日本生命保険相互会社に入社。
通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。
【加入団体等】
日本FP協会(CFP)
生命保険経営学会
一般社団法人 アフリカ協会
一般社団法人 ジャパン・リスク・フォーラム
2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版
磯部 広貴のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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