2023年03月20日

東南アジア経済の見通し~輸出低迷や金融引き締めにより景気減速へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.東南アジア経済の概況と見通し

(図表1)実質GDP成長率 (経済概況:経済活動の正常化により概ね順調に回復)
東南アジア5カ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)はコロナ禍からの経済回復が続いている。昨年、オミクロン株の感染拡大に対する警戒感が和らぐと、各国政府は活動制限措置や入国規制(隔離措置や陰性証明書の提出など)を段階的に緩和した。経済活動の正常化が進むなか、ペントアップ需要が顕在化しているほか、観光関連産業を中心にサービス業が持ち直して雇用環境が改善している。各国の物価高と金利上昇は家計や企業を圧迫しているものの、10-12月期も内需は堅調に推移した。外需は7-9月期までは好調だったが、10-12月期は海外経済の減速により財貨輸出の鈍化傾向が目立った。一方、サービス輸出は外国人観光客数の回復により大幅な増加が続いた。

2022年10-12月期の実質GDP成長率(前年同期比)はフィリピン(同+7.2%)、マレーシア(同+7.0%)、ベトナム(同+5.9%)、インドネシア(同+5.0%)、タイ(同+1.4%)の5カ国が揃って7-9月期から低下した(図表1)。7-9月期は前年がデルタ株の感染拡大と活動制限措置の影響で実質GDPが落ち込み、成長率が高かっただけに、10-12月期の成長率低下は予想通りの結果だった。コロナ禍前の成長ペースを踏まえると、フィリピンとマレーシア、ベトナム、インドネシアは堅調な伸びが続いたと言えるが、タイは財貨輸出が急減した影響が大きく低成長となった。
(図表2)消費者物価上昇率 (物価:エネルギー価格の低下によりインフレ圧力後退、年後半に落ち着く見通し)
東南アジア5カ国の消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は高水準にあるが、ピークアウトしつつある(図表2)。昨年はロシアのウクライナ侵攻を背景に燃料や食品、金属など商品価格が幅広く上昇、また米国の利上げ開始により東南アジア通貨の減価傾向が強まり輸入物価が上昇するなか、国内では経済活動の正常化が進み需要面からの物価押し上げ圧力も働き物価上昇が続いた。昨年後半には資源高の一服によりタイやインドネシア、マレーシアではインフレ率がピークアウトしつつある様子が窺えるが、消費需要の強いフィリピンは台風による農作物被害の影響も加わりインフレの加速が続いた。

先行きのインフレ率は、当面は足元のエネルギー価格の低下や各国中銀の金融引き締め策の影響により低下傾向を辿るものの、需要面からのインフレ圧力は続くため高めの水準で推移するだろう。しかし、その後はペントアップ需要の一服や米国の利上げ打ち止めによる自国通貨の減価圧力が緩和してインフレ率が各国の物価目標圏内まで低下し、年後半には落ち着きを取り戻すと予想する。
(図表3)政策金利の見通し (金融政策:2023年前半までに利上げ打ち止め)
東南アジア5カ国の金融政策は昨年、コロナ禍からの国内経済の回復とインフレの加速、米国の利上げによる自国通貨安を受けて金融引き締めを行った(図表3)。しかし、直近の金融政策会合では、インドネシアとマレーシアが物価上昇圧力の後退を受けて政策金利を据え置いており、またベトナムが景気下支えのために主要政策金利である公定歩合を1%引き下げる(リファイナンスレートは据え置き)など、金融引き締め姿勢を転換する動きがみられる。なお、昨年からの累計利上げ幅は未だインフレの加速が続くフィリピンが+4.0%と積極的な利上げを実施、続いてインドネシアが+2.25%、ベトナム(リファイナンスレ―ト)が+2.0%、マレーシアとタイ、ベトナムが+1.0%となっている。

先行きについては、各国が2023年前半までに金融引き締めを終了すると予想する。今年景気回復が見込まれるタイは3月の金融政策会合まで0.25%の利上げを実施、フィリピンは足元の物価高や通貨安を警戒して金融引き締め姿勢を続けるだろうが、今後はエネルギー価格の低下によりインフレ率が低下傾向を辿るほか、2023年6月に米国の利上げが打ち止めになると自国通貨の減価圧力が和らぐため、各国中銀は金融引き締めを終了するものと予想する。もっとも足元では米国の利上げ長期化観測が浮上しており、米国の金融政策の動きに左右される状況は続きそうだ。また既に公定歩合を引き下げているベトナムはドン安圧力が緩和したタイミングでファイナンスレートの引き下げに踏み切ると予想する。
(経済見通し:輸出低迷により成長鈍化も、観光関連産業の回復により底堅い成長が続く)
東南アジア5カ国の経済は、当面は世界経済の悪化による輸出低迷や金融政策の引き締めの影響により成長ペースが鈍化するだろうが、観光関連産業の回復が続いて内需を中心に底堅い成長が続くと予想する。

外需はサービス輸出の好調が続く一方、財貨輸出の低迷により経済成長の牽引力が弱まるだろう。財貨輸出は世界的な金融引き締めにより海外経済が悪化するため暫くは低迷するが、ゼロコロナ政策の転換により内需回復が見込まれる中国向けの輸出が増加して徐々に持ち直へ向かうものとみられる。一方、サービス輸出は主に中国からの外国人観光客が回復していくためインバウンド需要が順調に増加して引き続き景気のけん引役となるだろう。
(図表4)実質GDP成長率の見通し 内需は堅調な伸びを維持すると予想する。インフレ率は比較的高い状態が続いて家計の購買力を下押しするものの、観光関連産業の回復によりサービス業の労働需要が増加するため良好な雇用環境が続くほか、当面はペントアップ需要の顕現化が見込まれるため、民間消費は堅調な伸びを維持すると予想する。また投資は昨年からの金融引締めによる資金調達コストの増加や輸出型製造業の設備投資の停滞が重石となり、2022年と比べて増勢が鈍化するだろう。しかしながら、消費需要拡大による企業収益の増加やコロナ禍で遅れていたインフラ整備計画の加速、そして中国からの生産移転による東南アジアへの直接投資の流入が下支えとなり投資は底堅い伸びを保つと予想する。

以上の結果、2023年は財貨輸出の低迷や金融引き締めの影響などより、コロナ禍の反動で高成長だった2022年から成長率が低下するが国が多くなると予想する(図表4)。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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