2023年02月10日

マレーシア経済:22年10-12月期の成長率は前年同期比+7.0% ~内需拡大が続き22年は2000年以来の高成長を記録

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

2022年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比7.0%増1 (前期:同14.2%増)と低下したものの、市場予想2(同6.7%増)を上回る結果となった(図表1)。
なお、2022 年通年の成長率は前年比8.7%増(2021年:同3.1%増)と上昇し、政府予測の6.5%~7.0%を上回った。

 

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の拡大が成長の牽引役となった。
GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比7.4%増となり、前期の同15.1%増から低下したものの、堅調な伸びを維持した。

政府消費は前年同期比2.4%増(前期:同4.5%増)と低下した。
総固定資本形成は同8.8%増(前期:同13.1%増)と高めの伸びとなった。建設投資が同9.9%増(前期:同16.7%増)、設備投資が同8.6%増(前期:同10.7%増)と好調を維持した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同10.3%増となり、公共部門の伸び(同6.0%増)を上回った。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.6%ポイント(前期:+1.0%ポイント)と拡大した。まず財・サービス輸出は同9.6%増となり、前期の大幅な成長(同23.9%増)から鈍化した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同3.7%増)が鈍化した一方、サービス輸出(同81.4%増)の大幅な伸びが続いた。また財・サービス輸入も同8.1%増(前期:同24.4%増)と伸びが鈍化した。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、主に第三次産業の改善が成長の牽引役となったことが分かる(図表2)。

まずGDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比8.9%増(前期:同16.7%増)と堅調に拡大した。宿泊・飲食業(同25.2%増)と不動産・ビジネスサービス(同26.6%増)、運輸・倉庫(同22.5%増)が前期に続いて二桁成長となったほか、卸売・小売(同9.8%増)も好調だった。一方、金融・保険(同1.6%増)、情報・通信(同4.2%増)、政府サービス(同3.9%増)は緩やかな伸びにとどまった。

第二次産業は前年同期比4.8%増(前期:同11.9%増)と低下した。まず製造業は同3.9%増となり、前期の大幅な伸び(同13.5%増)から大きく鈍化した。内訳を見ると、ゴム製品(同8.7%減)が低迷、動植物性油脂(同1.8%増)と化学製品(同1.5%増)も伸び悩んだ。一方、主力の電子機器(同11.4%増)が二桁成長したほか、輸送用機器(同5.0%増)、石油製品(同4.6%増)、食品加工(同6.0%増)は底堅い伸びを保った。また建設業は同10.1%増(前期:同15.3%増)、鉱業は同6.8%増(前期:同9.2%減)と順調に拡大した。

第一次産業は同1.1%増(前期:同1.2%減)と僅かに低下した。主要産品であるパーム油(同9.6%増)の好調が続いたが、畜産業(同2.2%減)や漁業・養殖業(同0.7%減)が減少に転じた。また天然ゴム(同16.4%減)とその他農業(同3.7%減)は前期に続いて低迷した。

(10-12月期GDPの評価と先行きのポイント)

 マレーシア経済はコロナ禍からの回復傾向が続いている。2022年の成長率は前年比+8.7%(2021年:同+3.1%)と上昇し、22年ぶりの高成長を記録した。四半期ベースでみると、10-12月期の成長率は前年同期比+7.0%となり、比較対象となる前年同期が低水準だった7-9月期の高成長(同+14.2%)から鈍化したものの、順調な景気が続いていることが明らかとなった。

7-9月期はコロナ規制の緩和により経済活動の再開が進んだため内需が堅調に拡大、民間消費(同+7.4%)と民間投資(同+10.3%)がそれぞれ好調だった。マレーシアではオミクロン株の感染が落ち着き始めた昨年4月以降、隔離なしの入国を再開したほか、飲食店・小売店の営業時間規制や人員制限などを廃止、更には5月に屋外でのマスク着用義務を撤廃(9月には屋内も)した。規制緩和によりコロナ禍前の生活様式に戻っていくなか、10-12月の流通業売上高が同+14.3%と大幅な増加が続いた。(図表3)また12月の国内空港利用者数をみると、国内線がコロナ禍前の9割まで、国際線も6割まで持ち直してきている。こうして観光関連産業が回復する、失業率の低下(図表4)や賃金上昇など労働市場の改善が続いていることも消費の拡大に繋がっている。こうした中で事業環境の改善した企業の設備投資の回復も続いており、10-12月の完成工事高をみると民間部門が前年同期比23.5%と公共部門の同4.7%を大きく上回った。
財・サービス輸出(同+9.6%増)も高い伸びが続いたが、これは入国規制の緩和に伴う外国人観光客数の回復によって大幅に増加したサービス輸出(同+81.4%)に支えられたものだった。財貨輸出(同3.7%増)は海外経済の減速により前期の同+19.5%から大きく鈍化している。

このように10-12月期は堅調な成長が続いたが、今後は経済の成長ペースが低下しそうだ。昨年はマレーシア中銀が4会合連続の利上げ(累計+1%)を実施したほか、今年1月からの電力料金の引上げや今後の補助金改革によりインフレの高止まりも予想され、今後の企業の投資や家計の消費を抑制するだろう。また世界的な需要の低下により製造業生産の更なる鈍化も予想される。しかしながら、中国経済の再開による観光業の回復により良好な雇用情勢が続くことから、消費は底堅い伸びを保つだろう。
 
1 2022年11月11日、マレーシア中央銀行が2022年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年02月10日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【マレーシア経済:22年10-12月期の成長率は前年同期比+7.0% ~内需拡大が続き22年は2000年以来の高成長を記録】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

マレーシア経済:22年10-12月期の成長率は前年同期比+7.0% ~内需拡大が続き22年は2000年以来の高成長を記録のレポート Topへ