2023年02月06日

ASEANの貿易統計(2月号)~12月は輸出の減少幅拡大、当面は低迷続くが中国の経済正常化で徐々に持ち直しへ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2022年12月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比8.0%減(前月:同2.5%減)と低下し、2カ月連続の減少となった(図表1)。輸出はコロナ禍からの回復や商品市況の高止まりにより好調が続いていたが、昨年後半から欧米を中心とした外部環境の悪化や資源価格の軟化、半導体需要の減少により増勢が急速に弱まり、11月に減少に転じている。先行きは中国経済の正常化や供給制約の緩和により徐々に持ち直していくものの、高インフレと金融引き締めを背景とした世界経済の減速により当面は低迷が続くものとみられる。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、12月はゼロコロナ政策解除に伴う感染拡大で経済が混乱した中国向け(同8.7%減)が落ち込み、東アジア向け(中国を含む)が同7.6%減(前月:同0.3%増)と減少に転じた。また景気が減速している北米向けが同13.0%減(前月:同8.2%減)、EU向けが同3.6%減(前月:同0.5%減)、東南アジア向けが同3.9%減(前月:同4.3%増)と低迷した(図表2)。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比15.8%減(前月:同8.9%減)の290億ドルと、2ヵ月連続でマイナスの伸びとなった(図表3)。輸出の基調はコロナ禍からの世界経済の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いたが、足元では世界経済の減速により主力のスマートフォンや電子機器、縫製品、履物の出荷が振るわず減少に転じている。また輸入額も前年同月比14.0%減(前月:同7.7%増)の272億ドルとなり、輸出同様に落ち込んだ。結果として、貿易収支は+17.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から9.9億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比44.6%減(前月:同15.2%減)と減少幅が拡大し、電気製品・同部品は同9.2%減(前月:同12.4%減)と低迷した(図表4)。アパレル関連では、履物が同4.4%減(前月:同21.2%増)、織物・衣類が同19.7%減(前月:同5.0%減)とそれぞれ減少した。農林水産物を見ると、コーヒー(同12.6%増)と野菜(同5.9%増)など増加した品目はあるものの、カシューナッツ(同9.1%減)や天然ゴム(同14.8%減)、水産物(同16.0%減)、コメ(同13.6%減)など総じて減少した品目が多かった。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同14.6%減(前月:同7.1%減)、地場企業が同3.9%減(前月:同0.9%減)となり、それぞれ減少した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比14.6%減(前月:同6.0%減)の217億ドルとなり、3カ月連続で減少した(図表5)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いてきたが、足元では海外需要の鈍化や中国の都市封鎖の影響で主力の工業製品の出荷が振るわず、減少傾向に転じている。また輸入額も前年同月比11.9%減(前月:同5.6%増)の227億ドルとマイナスの伸びに転じた。結果として、貿易収支が▲10.3億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から3.1億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同10.0%減(前月:同0.4%減)と落ち込んだ(図表6)。製造品の内訳を見ると、機械・装置(同3.1%増)こそ増加したものの、主要製品である自動車・部品(同9.8%減)や石油化学製品(同27.1%減)、金属・鉄鋼(同15.9%減)、電子製品(同5.4%減)、家電製品(同3.7%減)が減少した。また鉱業・燃料も同2.3%減(前月:同33.2%減)と、石油製品(同7.9%減)を中心に5ヵ月連続で減少した。このほか、農産物・同加工品が同5.7%減(前月:同2.8%増)と減少した。コメ(同1.7%増)やドリアン(同170.9%増)が増加した一方、加工食品(同7.0%減)や天然ゴム(同44.5%減)、ゴム製品(同3.4%減)が減少するなど、品目によってばらつきが見られた。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの12月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比1.2%増の299億ドルとなり、前月の同4.2%増から低下した(図表7)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加してきたが、足元では世界的な需要の鈍化を受けて伸び悩んでいる。一方、輸入額は前年同月比7.0%増(前月:同4.6%増)の236億ドルと上昇した。結果として、貿易収支が+63.0億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から15.8億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同1.8%増(前月:同16.5%増)と、主力の電気・電子製品(同0.0%増)を中心に伸びが鈍化した(図表8)。鉱物性燃料は同43.8%増(前月:同28.5%増)と大幅に増加した。天然ガス(同27.5%増)と原油(同39.7%増)、石油製品(同68.4%増)がそれぞれ好調だった。また化学製品(同12.8%減)と動植物性油脂(同3.8%減)が前月に続いて減少したほか、ゴム手袋(同55.7%減)がコロナ禍で需要が急増した反動で低迷した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比6.6%増の238億ドルとなり、前月の同5.5%増から上昇した(図表9)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や国際商品市況の上昇により好調が続いたが、足元では海外経済の減速やパーム油の価格低下などにより輸出の勢いが鈍化傾向にある。一方、輸入額は前年同月比7.0%減(前月:同1.9%減)の198億ドルと減少幅が拡大した。結果として、貿易収支が+39.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から11.7億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出が同5.0%増(前月:同6.9%増)と鈍化した一方、石油ガス輸出が同38.2%増(前月:同16.8%減)と二ヵ月ぶりに増加した(図表10)。鉱産物(同43.1%増)と自動車・同部品(同30.5%増)、真珠・貴石(110.8%増)が大幅に増加して輸出全体を押し上げた。電気機械(同4.6%増)は増勢が鈍化したものの、プラスの伸びを保った。一方、プラスチック・ゴム製品(同29.1%減)や織物類(同20.2%減)、木材・木製品(同39.2%減)、化学製品(同19.7%減)に続いて、動植物性油脂(同11.8%減)が二桁減少となったほか、前月まで増加傾向で推移していた機械類(同9.0%減)や鉄・鉄鋼(同0.1%減)も減少に転じるなど減少した品目が多かった。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの12月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比19.9%減(前月:同16.5%減)の104億ドルとなり、4ヵ月連続の減少となった(図表11)。輸出は世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いたが、昨年後半から中国向けを中心に電子製品、非電子製品ともに振るわず減少に転じている。なお、総輸出額は同6.3%減(前月:同6.6%減)の406億ドル、総輸入額が同7.5%減(前月:同2.2%増)の368億ドルとなり、揃って減少した。結果として、貿易収支が+38.0億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から12.7億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同17.2%減(前月:同22.0%減)と低迷した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同29.7%増)が増加したものの、主力のIC(同25.3%減)やディスクメディア(同36.0%減)が落ち込んだ。また全体の約3割を占める化学品も同22.4%減(前月:同24.8%減)と低迷した。化学品の内訳を見ると、医薬品(同17.8%減)と石油化学製品(同20.1%減)がそれぞれ低調だった。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比9.7%減(前月:同13.2%増)の56億ドルとなり、4ヵ月ぶりに減少した(図表13)。輸出の基調は昨年後半に電子製品を中心に3カ月連続で増加した後、12月は世界的な需要が軟化するなかで主力の電子製品の出荷が落ち込み、再び輸出が減少した。また輸入額も前年同月比9.9%減(前月:同1.6%減)の102億ドルとなり、2ヵ月続けてマイナスの伸びとなった。結果として、貿易収支は▲46.0億ドルの赤字となり、赤字幅が前月から8.9億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同13.9%減(前月:同23.0%増)と4ヵ月ぶりに減少した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同12.8%減)が減少に転じたほか、電子データ処理機(同24.5%減)が低迷した。その他9品目については製錬銅(同69.1%増)やイグニッションワイヤーセット(同24.0%増)、その他鉱業品(同13.2%増)、機械・輸送用機器(同12.4%増)が増加したものの、ココナッツオイル(同39.5%減)や化学品(同24.7%減)、その他製造品(同9.8%減)、金属部品(同3.0%減)、電子機器・部品(同2.7%減)が減少するなど、総じて減少した品目が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年02月06日「経済・金融フラッシュ」)

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