2023年02月17日

タイ経済:22年10-12月期の成長率は前年同期比1.4%増~観光業の回復続くも、輸出が急ブレーキ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2022年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比1.4増1(前期:同4.6%増)と低下、Bloomberg調査の市場予想2(同3.6%増)を大きく下回る結果となった(図表1)。

なお、2022 年通年の成長率は前年比2.6%増(2021年:同1.5%増)と上昇、従来の政府の成長率予測の3.2%を下回った。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に財貨輸出の悪化が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比5.7%増(前期:同9.1%増)と低下したが、高めの伸びを維持した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同92.8%増)が大きく上昇、娯楽・文化(同11.2%増)や保健衛生(同6.6%増)、交通(同5.8%増)も堅調に拡大した。また食料・飲料(同4.3%増)や衣類・靴(同3.4%増)は底堅く推移したが、住宅・水道・電気・燃料(同0.6%増)と通信(同2.1%増)が伸び悩んだ。

政府消費は同8.0%減(前期:同1.5%減)と落ち込んだ。現物社会給付(同37.6%減)が急減したほか、雇用者報酬(同1.4%)も減少した。

総固定資本形成は同3.9%増(前期:同5.5%増)と低下した。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同4.5%増(前期:同11.2%増)と鈍化した。前期に二桁成長だった民間設備投資(同5.1%増)が失速すると共に、民間建設投資(同1.9%増)が伸び悩んだ。一方、公共投資は同1.5%増(前期:同6.8%減)と小幅ながらプラス成長となった。公共設備投資(同3.9%減)が低迷したが公共建設投資(同3.3%増)が増加に転じた。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+2.6%ポイントと、前期の▲0.8%ポイントから改善した。まず財・サービス輸出は同0.7%減(前期:同8.7%増)と7四半期ぶりに減少した。サービス輸出は同94.6%増と大幅に増加したが、財貨輸出が同10.5%減と急減した。また財・サービス輸入は同4.6%減(前期:同9.5%増)となり、輸出の伸びを下回った。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
10-12月期の実質GDPを供給項目別に見ると、第二次産業の悪化が成長率低下に繋がった(図表2)。

まず全体の6割を占めるサービス業は同4.2%増(前期:同5.5%増)と低下した。サービス業の内訳を見ると、宿泊・飲食業(同30.6%増)が引き続き大幅に増加すると共に、運輸・倉庫業(同9.8%増)も好調を維持した。このほか、管理及び支援サービス(同4.4%増)や保健衛生・社会事業(同4.3%増)、情報・通信業(同4.1%増)、小売・卸売業(同3.1%増)は緩やかな伸びが続いたが、建設業(同2.8%減)や教育(同0.7%減)、金融・保険業(同0.2%増)、芸術・娯楽等(同0.7%増)、不動産業(同1.9%増)は停滞した。

鉱工業は同4.6%減(前期:同4.5%増)と、2四半期ぶりに減少した。まず主力の製造業は同4.9%減(前期:同6.0%増)と落ち込んだ。製造業の内訳を見ると、生産コストの上昇により自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同4.4%減)、食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同2.3%減)、石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同7.3%減)が軒並みマイナス成長となった。また鉱業が同6.9%減(前期:同13.3%減)と、主要油田の生産量が減少して6期連続のマイナス成長となったほか、電気・ガス業が同0.1%増(前期:同4.4%増)と停滞した。

農林水産業は前年同期比3.6%増(前期:同2.2%減)と2四半期ぶりのプラス成長となった。漁業生産高は減少したが、サトウキビやアブラヤシ、野菜、果物などの収穫量が増加した。
 
1 2月17日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2022年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

10-12月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は10-12月期の成長率が前年同期比+1.4%(7-9月期:同+4.6%)と鈍化し、市場予想(同+3.5%)を大きく下回る成長にとどまった。10-12月期の景気減速の主因は、輸出と製造業の悪化だ。ロシアのウクライナ侵攻による燃料価格の高騰などが世界的なインフレを引き起こし、貿易相手国の購買力が低下したため、財貨輸出が▲10.5%と落ち込んだ。貿易統計(通関ベース)をみると、10-12月はコンピュータ部品や化学品、石油製品など主要工業品の出荷が減少しており、製造業(同4.9%減)もマイナス成長となった(図表3)。

タイ国内でもインフレが加速(10-12月のCPI上昇率は同+5.8%)しており、タイ中銀は昨年から4会合連続での利上げ(累計+1.0%)を実施している。世界経済の減速懸念に金利上昇が加わり、民間部門の設備投資(同+5.1%)は7-9月期の二桁成長(同+14.2%)から大きく鈍化した。公共投資(同+1.5%)も停滞しており、総固定資本形成(同+3.9%)と伸び悩む結果となった。

民間消費(同+5.7%)も物価高と金利高の逆風を受けているものの、こちらは堅調に伸びている。コロナ規制の緩和によりサービス業(前年同期比+4.2%)の回復が続き、失業率は今年初の1.9%から12月には1.0%まで低下するなど雇用環境の改善が進んでいる影響が大きいとみられる。タイでは昨年、新型コロナの感染が落ち着き始めると、5月に入国制度「テスト・アンド・ゴー」が廃止されるなど入国規制が段階的に緩和され、6月にはパブやバー、カラオケ店などの娯楽施設の営業が再開、10月には緊急事態宣言が解除された。特に入国規制の緩和により10-12月期の外国人旅行者数は547万人(7-9月期:360万人)と急増し、コロナ禍前の5割強の水準まで回復した(図表4)。外国人観光客の増加により国際観光収入は2,390億バーツ(前年同期比+362%)、国内観光収入も政府の継続的な国内旅行促進策により1860億バーツ(同+122%)と大幅に伸びており、GDPの約2割を占める観光関連産業の好調が続いている。

当面は世界的な需要低迷により輸出が成長の足を引っ張る一方、観光関連産業の回復が景気を下支える展開が続き、その後の景気底打ちは中国の景気回復と中国からの観光客の増加がカギを握るとみられる。コロナ前のタイの外国人観光客数4,000万人のうち3割近くが中国人観光客だった。タイ政府は23年の外国人観光客数の予想を従来の2,350万人から2,800万人に引上げている(22年の外国人観光客数は1,115万人)。しかしながら、観光業の回復はインフレを引き起こすとみられるため、物価抑制のための利上げは年央まで続きそうだ。
(図表3)タイ輸出の伸び率(品目別)/(図表4)タイの外国人観光客数
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年02月17日「経済・金融フラッシュ」)

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