2023年01月20日

重要なSDGsゴールは何?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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1――重要視するゴールは人それぞれ

ご存じの通り、SDGsとは持続可能でより良い世界を目指す国際目標であり、17のゴールで構成されている。いずれのゴールも重要だが、人や組織によって重要視するゴールは異なる。そこで、はじめに経済主体によって重要視するゴールに違いがあるのか否かを確認する。代表的な経済主体は、家計、企業、政府の3つであるが、それぞれ個人、企業、地方公共団体を対象としたアンケート調査結果から重要視するゴールを把握する。
1個人(家計)
個人が重要視するゴールは、朝日新聞社によるアンケート(2017年~2021年の7回分)、埼玉県が県政サポーターを対象に行ったアンケート(2020年と2021年の2回分)、岐阜県が県政モニターを対象に行ったアンケート(2020年~2022年の3回分)、ケイティケイ株式会社によるアンケート(2022年の1回分)を参考にした。図表1は、ゴール別に全アンケートにおける順位を合算した値を基にランキングした結果である。なお、参考にした調査結果はいずれもインターネットの検索機能で上位に表示された調査結果であり、恣意的に選別はしていない。

当然、調査によって順位は異なる。アンケート実施時期に5年(2017年から2022年)の開きがあるが、時期による違いは案外小さい。2022年のウクライナ侵攻後で「16平和と公正をすべての人に」の順位が5ランク上昇した程度である。むしろ、居住地による相違の方が大きい。岐阜県と埼玉県の調査は、朝日新聞やケイティケイ株式会社による調査と比べて「14海の豊かさを守ろう」の順位が9ランク異なり、時期による差よりも大きな差がある。当然、身近な課題ほど関心を持ちやすいと考えられるので、いずれの県も海に面していないことが影響しているのかもしれない。このように調査によって多少の相違はあるが、さほど大きな相違はない。上位の「3すべての人に健康と福祉を」と「1貧困をなくそう」は、どの調査結果においても上位に位置しているし、下位のゴールも同様である。これより、図表1の結果は実態から大きく乖離していないと考えられる。
図表1 経済主体別、重要視するゴールのランキング
2企業
企業が重点的に取り組むゴールは、帝国データバンクによるアンケート調査(2020年~2022年の3回分)と一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(以下GCNJ)の会員を対象に行ったアンケート調査(2017年~2021年の5回分)を参考にした。個人と同じ方法で集計した結果を図表1に示している。個人では1位の「3すべての人に健康と福祉を」は企業でも5位と高位だが、個人では2位の「1貧困をなくそう」が企業では14位と低く、企業では1位の「8働きがいも経済成長も」が個人では12位と低い。このように、個人と企業では重要視するゴールがかなり異なることがわかる。

個人と同様に、企業も属性によって重要視するゴールは異なる。帝国データバングの調査対象企業数は2万社を超え、回答者の8割以上が中小企業である。これに対して、執筆時点におけるGCNJの会員数は525と少なく、会員には有名な大企業が多い。帝国データバングの調査結果とGCNJ会員を対象とした調査結果との間は特徴的な差がある。中小企業が含まれる帝国データバンクによるアンケート調査の方が、「1貧困をなくそう」の順位が5ランク高く、逆に「15陸の豊かさも守ろう」の順位が7ランク低い。個人では、「1貧困をなくそう」が上位で、「15陸の豊かさも守ろう」は相対的に下位なので、中小企業の方が個人の感覚に近いように思えるが、そんな単純な話ではない。個人では1位の「3すべての人に健康と福祉を」は中小企業が含まれる帝国データバンクによるアンケート調査の方が順位が低い。
3地方公共団体(政府)
地方公共団体が重点的に取り組むゴールは、自治体SDGs推進評価・調査検討会によるアンケート調査(2018年~2021年の4回分)を参考にした。個人や企業と同じ方法で集計した結果を図表1に示している。個人では1位の「3すべての人に健康と福祉を」は地方公共団体でも2位と高位だが、個人では2位の「1貧困をなくそう」が地方公共団体では11位と低い。企業だけでなく、地方公共団体も個人とは重要視するゴールが異なるようだ。
 
順位相関という尺度で、3つの経済主体間が重要視するゴールの順位の関係性を定量的に評価すると、企業と地方公共団体との間には正の相関関係があるのに対し、個人と地方公共団体との間はほぼ無関係である。個人と企業との間は非常に弱いが負の相関関係がある。

2――日本の取組状況

2――日本の取組状況

持続可能な社会を実現するために設立された世界的なネットワークである「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(以下SDSN)」が、各国のSDGs達成状況を評価しており、2022年時点で日本は世界で第19位である。同評価では、各国の総合得点だけでなく、各ゴールの達成度や進捗度もそれぞれ4段階で評価し、結果を公表している(図表2)。日本が達成度・進捗度共に最高評価を得ているゴールは「4質の高い教育をみんなに」、「9産業と技術革新の基盤をつくろう」と「16平和と公正をすべての人に」の3つである。達成度は最高評価ではないが、「1貧困をなくそう」、「3すべての人に健康と福祉を」と「8働きがいも経済成長も」は進捗度で最高評価を得ており、これらの3つのゴールのうち2つは個人が重要視するゴールで、残りの1つは企業が重要視するゴールである。総じて達成度や進捗度が良好なゴール(図表2の右上)ほど、重要視されている傾向がある。見方を変えれば、大きな課題が残っているのに進捗も芳しくないと評価されているゴールほど、あまり重要視されていない傾向があるともいえる。1章と同様に、順位相関という尺度で、3つ経済主体とSDSNの評価結果との関係性を評価すると、その傾向は、個人、地方公共団体、企業の順に強い。

重要視されているから順調に改善しているのか、順調に改善しているから重要視されているのか、因果関係までは分からないが、大きな課題が残っていると評価されているゴールほど、あまり重要視されていない傾向があり、その傾向は個人において最も強いのである。
図表2 日本の各ゴールの達成度・進捗度

3――資金供給者と資金需要者間の乖離を埋める

3――資金供給者と資金需要者間の乖離を埋める

企業だけでなく、国、地方公共団体といった行政法人等や個人も含むすべてのステークホルダーがSDGs達成に向けた取組に参加することが期待されているとはいえ、社会課題解決型の事業を起こす、いわゆる社会起業家や社会課題解決に取り組む企業に対する期待は大きい。社会的課題を解決するためには資金が必要だが、社会起業家や企業だけでは十分な資金の確保は難しい。このため、個人には持続可能な生活スタイルや購入商品の選択(「12つくる責任つかう責任」)といった身近な取り組みだけでなく、資金供給者としての役割も期待されている。多くの人が投資に消極的である等、日本においては最低限身に付けるべき金融リテラシーの習得ですら容易ではない状況であるのに、適切な投資がより良い社会に繋がることを理解し、行動できるという高度なことが望まれているのである。
 
しかし、現状は資金供給者である個人と資金需要者である企業との間には差があり、また大きな課題が残っていると考えられているゴールほど、資金供給者である個人は重要視していない傾向がある。より良い社会の実現には、適切な投資がより良い社会に繋がることを資金供給者である個人が理解するだけでは不十分である。個人が適切に投資するためには、身近な社会課題だけでなく幅広い社会課題に対する理解も必要となる。国やマスコミだけでなく企業を含めた数多くの主体が、注目されていない社会課題の重要性を発信・共有し、資金需要者が解決したい社会課題の重要性をより分かりやすく伝えることが不可欠なのではないだろうか。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年01月20日「基礎研レター」)

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