2023年01月18日

全国旅行支援の利用状況-「第11回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3職業や年収別の状況~低収入層は経済的余裕のなさ、高収入層は希望なし、雇用者等は日程あわず
職業や年収別に見ると、無職や低収入層では「経済的な余裕がないから」が上位を占める一方、経営者や雇用者では「スケジュールがあわなかったから」が、高収入層では「特に行きたい・泊まりたいと思っていなかったから」が上位を占める(図表12(a)・(b))。

全体と比べると、「経済的な余裕がないから」は無職(36.7%、同+7.1%pt)や自営業・自由業(36.2%、同+6.6%pt)、個人年収200万円未満(36.0%、同+6.4%pt)、世帯年収200万円未満(53.9%、同+24.3%pt)で、「感染不安から、外出を控えているから」は専業主婦・主夫(28.7%、同+7.2%pt)で、「国内の感染者数が増えているから」は世帯年収1,200~1,500万円未満(33.3%、同+13.0%pt)で、「スケジュールがあわなかったから」は経営者・役員(31.3%、同+14.5%pt)や正社員(管理職)(27.4%、同+10.6%pt)、公務員(一般)(25.3%、同+8.5%pt)、公務員(管理職)(23.5%、同+6.7%pt)、正社員(一般)(22.0%、同+5.2%pt)、個人年収400万円以上のすべて、このうち特に1,000万円以上(35.3%、同+18.5%pt)、世帯年収1,500万円以上(23.7%、同+6.9%pt)や1,000万円~1,200万円未満(23.0%、同+6.2%pt)、600万円~800万円未満(22.4%、同+5.6%pt)で、「特に行きたい・泊まりたいと思っていなかったから」は経営者・役員(28.1%、同+11.3%pt)や個人年収800万円以上のすべて、このうち特に1,000万円以上(29.4%、同+12.6%pt)、世帯年収1,200万円~1,500万円未満(33.3%、同+16.6%pt)で、「行きたい宿泊・日帰りツアーが対象ではないから」は正社員(管理職)(12.3%、同+6.6%pt)や個人年収1,000万円以上(14.7%、同+9.0%pt)、世帯年収1,200万円~1,500万円未満(16.7%、同+11.0%pt)で、「行きたいホテルや旅館が対象ではないから」は正社員(管理職)(13.7%、同+9.8%pt)や経営者・役員(9.4%、同+5.5%pt)、個人年収1,000万円以上(11.8%、同+7.9%pt)、世帯年収1,200万円~1,500万円未満(11.1%、同+7.2%pt)で、「すでに上限に達しており、申し込めなかったから」は経営者・役員(12.5%、同+9.2%pt)で多い。また、「特に理由はない」は公務員(管理職)(35.3%、同+16.0%pt)や世帯年収1,500万円以上(31.6%、同+12.3%pt)で多い。
図表12 職業や年収別に見た「全国旅行支援」を利用した・利用を考えた理由
なお、感染不安による理由が比較的多い専業主婦・主夫や世帯年収1,200~1,500万円未満では、60歳以上の割合が約半数を占めて高い。

以上より、「全国旅行支援」を利用していない主な理由は、高齢者の多い層では外出自粛、低収入層では経済的な余裕のなさ、高収入層では特に旅行の希望がない、あるいは希望(地域やホテル等)とあわないこと、また、経営者や雇用者では日程が確保できないことなどがあがる。

5――おわりに

5――おわりに~動かせる消費を動かし雇用改善させ日本経済を活性化、賃上げ重要

新型コロナウイルス感染症の感染者数は高水準で推移しているものの、重症化しにくいというオミクロン株の特徴やワクチンの追加接種が進行していることなどから、2022年3月下旬に全国でまん延防止等重点措置が解除されて以降、特段の行動制限は発出されていない。2022年は経済活動と感染予防対策の両立が進められ、秋にはコロナ禍で低迷した観光需要の喚起策として、本稿で見た「全国旅行支援」が開始された。3年ぶりにコロナ禍前の規模で再開されたイベントや行事も多く、巣ごもり型の消費者行動が外へ向かった1年であった。
図表13 総消費動向指数(実質、2020年=100) しかし、個人消費の水準を見ると、本稿執筆時点の最新値である2022年11月(103.9)では、コロナ禍の影響がさほど見られなかった2020年2月(105.4)の水準を未だ下回っている(図表13)。

背景には、特に昨年から食料や日用品などの生活必需品を中心に物価高が進行する中で、賃金が伸びずに可処分所得が減った世帯では旅行や外食、ファッションなどの必需性の低い消費を抑制せざるをえない状況があることに加えて、全体としては支出額が大きな海外旅行等の需要が回復していないことや、感染状況下で働き方や価値観が変容したことで外食(特に飲み会)需要が減ってしまったことなどがあげられる。

また、本稿でも見たように、需要喚起策が実施されても利用者には偏りが生じている。時間や経済的な余裕のある層ほど施策の恩恵を受けやすい状況に対して批判的な見方もあるだろう。しかし、個人消費の回復が未だ力強さに欠ける状況を見れば、動かせる消費を動かすことで、低迷している観光業等の雇用を改善し、日本経済を活性化させる必要がある。

一方で、物価高は生活必需品が中心であることから、経済的に比較的余裕のある世帯でも負担は生じており、世帯年収一千万円を超える高収入層でも、物価高を感じたことで約7割は不要品の購入控えなど何らかの対応を取っている4。需要喚起策の効果も相まって強まった観光需要が一旦落ち着いた後は、全体として節約志向の強い生活防衛色の強い消費行動が色濃くあらわれる可能性がある。

ここで個人消費を縮小させないためには、やはり今後、賃金が上がるかどうかが非常に重要だ。足元では賃金の引上げに踏み切る企業等の報道が目に付くようになってきたが、既出レポート4でも述べた通り、欧米と比較して日本の賃金水準が低い背景には、雇用者の約3割が賃金水準の低い非正規雇用者であり、正規雇用者であっても、終身雇用や年功序列が色濃い日本型雇用では高い能力や成果に対する報酬が低く抑えられていることがあげられる。やはり根本的に状況を改善するためには、生産性を高めることで高い報酬を得られるような賃金構造に抜本的に変えていく必要がある。
 
4 久我尚子「物価高進行下の消費者の状況」ニッセイ基礎研レポート、(2022/10/21)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2023年01月18日「基礎研レポート」)

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