2023年01月18日

全国旅行支援の利用状況-「第11回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~政府による観光需要の喚起策「全国旅行支援」の利用状況は?

昨年10月から、政府は新型コロナウイルスの感染拡大で需要が低迷した観光業の需要喚起策として、利用額の一部を負担する「全国旅行支援1」を実施している。この「全国旅行支援」は、帰省などの移動の多い年末年始期間は一旦休止されたが、新たな行動制限が必要な事態が生じないことを前提に1月10日から再開されている。

なお、政府はコロナ禍の同様の施策として、既に2020年7月から12月末にかけて「GoToトラベル」等を実施しており、その際の消費者の利用意向については既出レポートに記載の通りである2

本稿では、2022年12月下旬にニッセイ基礎研究所が実施した「第11回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査3」のデータを用いて、「全国旅行支援」の利用状況について、性年代などの属性や「GoToトラベル」利用経験の違いなどに注目しながら捉えていく。
 
1 2022年10月11日~12月27日は、旅行代金の40%相当が割引(割引上限額は1人1泊あたり交通付旅行商品は8,000円、その他は5,000円)、現地で使用できるクーポン券が配布(平日は1人1泊あたり3,000円、休日1,000円)。2023年1月10日以降は割引額が引き下げ(旅行代金の20%相当で上限額は交通付き旅行商品は5,000円、その他は3,000円、クーポン券は平日2,000円、休日1,000円)。
2 久我尚子「GoToトラベル・イートの利用意向」、ニッセイ基礎研レポート(2020/10/13)
3 調査時期は2022年12月21日~12月26日、調査対象は全国に住む20~74歳、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答2,582。

2――「全国旅行支援」の利用状況

2――「全国旅行支援」の利用状況~利用率は約2割、時間や経済的な余裕のある層で利用が多い

1全体の状況~2022年末までの利用率は21.1%、うち41.1%が複数回利用の積極層
まず、20~74歳全体について「全国旅行支援」の利用状況を見ると、12月下旬の調査時点では利用率は21.1%(「複数回利用・利用予定」:8.7%と「1回だけ利用・利用予定」:12.4%の合計値)であり、利用者のうち複数回利用の積極層は41.1%を占める(図表1)。

一方で「利用していない・利用予定はない」(64.2%)は6割を超えて圧倒的に多い。また、「施策を知らない」(8.9%)も1割弱を占める。

 
図表1 「全国旅行支援」の利用状況(n=2,582)/図表2 「GoToトラベル」の利用状況(n=2,582)
また、当調査では、あらためて2020年に実施された「GoToトラベル」の利用経験も尋ねているのだが、利用率は26.3%(「複数回利用」:11.8%と「1回だけ利用」:14.5%の合計値)、うち積極層は44.8%を占める一方、「利用していない」(64.8%)は6割を超えて多い(図表2)。

つまり、「全国旅行支援」と「GoToトラベル」の消費者の利用状況は、おおむね同様の傾向を示しており、利用者は2割程度、うち約4割が複数回利用の積極層である一方、約6割は利用しておらず、利用者には偏りがある様子がうかがえる。
2「GoToトラベル」利用経験別の状況~「GoToトラベル」利用者の56.6%が「全国旅行支援」を利用
2020年に実施された「GoToトラベル」の利用経験別に「全国旅行支援」の利用率を見ると、「GoToトラベル」を複数回利用した層では70.7%(うち積極層は68.8%)、1回だけ利用した層では45.2%(同20.1%)を占め、「GoToトラベル」の利用に積極的である層ほど「全国旅行支援」の利用にも積極的である(図表3)。また、これらの「GoToトラベル」を複数回利用した層と1回だけ利用した層をあわせた「GoToトラベル」利用者層の「全国旅行支援」の利用率は56.6%(同47.4%)となる。一方、「GoToトラベル」非利用者層の「全国旅行支援」の利用率は9.1%にとどまる。
図表3 「GoToトラベル」利用経験別に見た「全国旅行支援」の利用状況
3性年代やライフステージ別の状況~時間に余裕のある未就学児の子育て世帯や高齢層で利用が多い
性年代別に「全国旅行支援」の利用率を見ると、男女とも40歳代を底に高齢層と若い年代で比較的高い傾向があり、男性は70~74歳(29.4%、全体より+8.3%pt)、女性は60歳代(27.7%、同+6.6%pt)で全体を+5%pt以上、上回る(図表4(a))。

ライフステージ別には、利用率は第一子誕生(29.5%、同+8.4%pt)や孫誕生(29.2%、同+8.1%pt)、末子独立(26.9%、同+5.8%pt)、第一子独立(26.3%、同+5.2%pt)で高く、未婚・独身(13.9%、同▲5.7%pt)や中高生などの学校生活を送る子どものいる子育て世帯では低い傾向がある。

つまり、「全国旅行支援」の利用は、平日も含めて旅行の日程を組み立てやすく、時間に比較的余裕のある未就学児の子育て世帯や子育てが終了した世帯で積極的である様子が見てとれる。

一方、「GoToトラベル」は、夏休みの旅行需要を期待して2020年7月下旬に開始された影響もあり、10月という学期半ばに開始された「全国旅行支援」とは異なり、利用率は第一子誕生(37.7%、同+11.4%pt)や第一子小学校入学(33.8%、同+7.5%pt)などの学校生活を送る子どものいる子育て世帯でも、「全国旅行支援」の利用率と比べて高い(図表4(b))。また、「GoToトラベル」が実施されたのはコロナ禍1年目で、感染予防対策と外出行動の両立に試行錯誤していた時期であるためか、時間に比較的余裕のある高齢世帯での利用は、「全国旅行支援」ほど目立って高いわけではない。
図表4 性年代やライフステージ別に見た「全国旅行支援」と「GoToトラベル」の利用率
4職業別や年収別の状況~経済的に比較的余裕のある管理職層や年収600万円以上などで利用が多い
「全国旅行支援」の利用率を職業や年収別に見ると、公務員(管理職)(34.3%、同+13.2%pt)や正社員(管理職)(28.0%、同+6.9%pt)、個人年収600万円~800万円未満(31.7%、同+10.6%pt)や1,000万円以上(33.3%、同+12.2%pt)、世帯年収600万円以上のすべて、このうち特に1,500万円以上(33.8%、同+12.7%pt)で高い一方、無職(15.6%、同▲5.5%pt)や世帯年収200万円未満(9.6%、同▲11.5%pt)では低い(図表5(a))。

つまり、経済的に比較的余裕のある層で「全国旅行支援」の利用に積極的である様子が見てとれる。

また、「GoToトラベル」でもおおむね同様の傾向が見られる(図表5(b))。
図表5 職業や年収別に見た「全国旅行支援」と「GoToトラベル」の利用率
5コロナ禍の不安別の状況~経済的に不安のない層で利用が多い、感染不安による大きな差異はなし
「全国旅行支援」の利用率をコロナ禍の不安別に見ると、「勤務先業績悪化で収入減少、雇用不安定化」の非不安層(26.5%、同+5.4%pt)や「自分や家族の収入減少」の非不安層(26.3%、同+5.2%pt)で高い(図表6(a))。なお、いずれの不安でも、非不安層の方が不安層と比べて利用率は高いが、「感染による健康状態の悪化」や「感染しても適切な治療が受けられない」、「感染による世間からの偏見や中傷」では不安層・非不安層ともに全体と比べて大きな差異は見られない。

つまり、「全国旅行支援」の利用は、感染への不安というよりも、経済的に不安のない層で積極的である様子が見てとれ、前項の職業や年収別に見た傾向と一致する。

また、「GoToトラベル」でもおおむね同様の傾向が見られる(図表6(b))。
図表6 コロナ禍の不安別に見た「全国旅行支援」と「GoToトラベル」の利用率
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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