2022年12月27日

コロナ禍における移動の現状~移動総量は最大1割減で推移。20歳代は外出のハードルが益々高く~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

新型コロナウイルスの全国の感染者数は増減を繰り返しているが、重症化率や致死率等の状況にこれまでの対策の成果をふまえ、政府はこの秋から対策を緩和し始めた。社会経済活動と感染症対策の両立を重視したものである。新規陽性者数が過去最大となった2022年夏の「第7波」にも緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は発令されず、厳しい行動制限は見送られた。これにより、社会経済活動に伴う「人の移動」は回復したのだろうか。本稿は、消費者の移動の現状について、2022年9~10月に行ったニッセイ基礎研究所「第10回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」や、その他の政府統計等を用いて報告する。

2――移動の総量の現状

2――移動の総量の現状

1|国内におけるコロナ禍の移動人口の動向
まず、マクロでみた移動の総量からみていきたい。内閣官房と内閣府が提供している地域経済分析システム「V-RESAS」を用いて、コロナ前(2019年同週)と比べた移動人口の動向を見ると、直近の2022年12月第2週は、全国平均で▼10.7%となっている(図表1)。地方ブロックごとに差が大きく、減少幅が最も大きい関東は▼16.2%だったが、2番目に減少幅が大きい北海道は▼7.9%と一けた台のマイナスだった。以下、東北▼9.7%、北海道▼7.9%、東海▼7.1%、近畿▼7.1%、中国▼7.0%、北陸▼5.4%、四国▼4.7%、九州・沖縄▼3.0%と続く。地域ブロックごとに差が生じる要因としては、在宅勤務の実施率の差があるものと見られる(2|参照)。

コロナ禍直前の2020年1月以降の全国の推移を見ると、1回目の緊急事態宣言が出された2020年4~5月には6割減と大幅に下落。その期間を底にして徐々に回復し、その後は感染状況によって増減を繰り返しているが、感染拡大期にも減少幅は次第に縮小してきている。特に、1日当たりの感染者数が過去最高を記録し、「第7波」と呼ばれた2022年夏は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されなかったこともあり、全国の減少幅は1割未満にとどまった。地域によってはプラスも記録した。

第7波が落ち着き始め、患者の療養期間短縮等、政府がコロナ対策緩和に舵を切った2022年9月以降は、減少幅は概ね1割以内で推移している。2022年10月後半には、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセンス号」で陽性者が確認された2020年2月以降、初めて、全国の値がプラスに転じた。これには、10月から始まった観光の需要喚起策「全国旅行支援」の影響もあると考えられるが、今夏以降の「コロナ前比で概ねマイナス1割以内」の範囲が、移動人口の現状と言えるだろう。

政府による行動制限がなくても、人口移動がコロナ前と比べて概ね1割以内の減少で継続している主な要因は、感染不安による自主的な外出抑制と、ライフスタイル変容の影響だと考えられる1
図表1 コロナ禍における地域ブロックごとの移動人口の動向(2019年同週比)
2|長期推移でみた外出率の変化
次に、人の移動に関する長期的推移を確認したい。国土交通省の「全国都市交通特性調査」によると、コロナ禍になって初めて行われた令和3年度調査では、全国の外出率(調査日に外出した人の割合)は、平日が74.1%、休日が52.5%で、いずれも前回調査(2015年)より約7ポイント減少し、1987年の調査以来、過去最低を更新した。コロナ禍の影響が大きいと考えられる。

約5年毎に行われている同調査で長期推移を見ると、図表2の通り、昭和62年以降、概ね減少傾向となっていたが、今回の調査では、平日の減少幅は過去最大となり、外出率の減少傾向がコロナ禍によって加速したと言える。
図表2 外出率の長期的推移
都市圏別に外出率の差をみると、三大都市圏では平日72.5%、地方都市圏75.8%で、初めて地方都市圏が三大都市圏を上回った。三大都市圏の方が、地方都市圏に比べて在宅勤務の実施割合が大きかったこと(同調査によると、三大都市圏では14.6%、地方都市圏では4.4%)が影響したと考えられる。

就業状況別に外出率をみると、平日は就業者が81.5%、非就業者が66.2%で、いずれも2010年調査時点から10ポイント以上低下したことから、出社や仕事上の外出が減少しているだけではなく、個人の日常生活の中の外出も減っていることが示唆される。
図表3 都市圏別に見た外出率の長期的推移
また年代別に見ると、前回調査(2015年)で、20歳代や30歳代の外出率が低下していることが明らかになっていたが、今回調査ではこの傾向が一層、加速したことが分かった(図表4)。
図表4 年齢階級別にみた外出率の長期推移(平日)
3|個人の外出頻度の変化
次に、同じ人の外出頻度が、コロナ前とコロナ禍でどのように変化したかを調査したものが、ニッセイ基礎研究所の「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」である。政府によるコロナ対策の軌道修正が行われる前の今年3月に実施した第8回調査結果は既に報告したが2、本稿では改めて、今年9月~10月に行った第10回調査の結果をみていきたい。性・年代別の結果を見ると、コロナ前に比べて、外出頻度が「ほぼ毎日」の割合は、ほぼ全ての区分で1割前後、減少していた(図表5)。特に、20歳代女性と70歳代女性では減少幅が15ポイント近くに上り、外出行動に大きな変化が見られた。

逆に、閉じこもりの定義である週1日以下の割合(「週1日」と「週1日未満」の合計)はコロナ禍で、男性の50歳代以上と女性の30歳代以上で増加していた。特に、70歳代男性で増加幅が最大の2割近くに上った。
図表5 コロナ前と比べた個人の外出頻度の変化(性・年代別)
次に、就業状況別にみると、就業者と非就業者のいずれも、全体として外出頻度が低下していた(図表6)。「ほぼ毎日」の割合はいずれも減少し、非就業者については週1日以下(「週1日」と「週1日未満」の合計)の「閉じこもり」も5ポイント以上増加していた。就業者も非就業者も外出頻度が低下していることから、出社や仕事上の外出の変化がなくても、暮らしの中の移動が減少していることが改めて分かった。
図表6 コロナ前と比べた個人の外出頻度の変化(就業状況別)
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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