2022年12月07日

東京都心オフィス賃料は下落継続。首都圏物流市場は空室率が5.2%に上昇-不動産クォータリー・レビュー2022年第3四半期

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.309]

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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国内経済は、内需を中心に回復基調を辿っている。住宅市場は価格上昇が続くなか、販売状況はやや弱含んでいる。地価の上昇は商業地にも広がっている。オフィス市場は東京Aクラスビルの成約賃料が前期比▲5.8%下落した。東京23区のマンション賃料はファミリータイプの上昇が目立つ。ホテル市場は7-9月の延べ宿泊者数が2019年対比で▲22.8%減少した。首都圏の物流市場は新規供給の増加に伴い空室率が上昇した。第3四半期の東証REIT指数は▲1.1%下落した。

1―経済動向と住宅市場

7-9月期の実質GDPは前期比▲0.3%(前期比年率▲1.2%)と4四半期ぶりのマイナス成長となった。ただし、輸入の大幅増加がその主因であり、景気悪化を意味するものではない。好調な企業業績を背景に設備投資が高い伸びとなったことに加えて、物価高などの逆風を受けながらも民間消費が増加するなど国内需要は底堅い動きが続いており、景気は回復基調を維持していると判断される。

ニッセイ基礎研究所は、11月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2022年度が1.6%、2023年度が1.0%、2024年度が1.6%と予想する。2023年度は、国内需要が底堅く推移するものの、海外経済の減速を背景に輸出が減少に転じることを主因として成長率は低下する。2024年度は海外経済の持ち直しを受けて輸出が増加に転じることから、成長率は高まるだろう。実質GDPが直近のピーク(2019年4-6月期)を回復するのは、2024年7-9月期になると予想する。

7-9月の首都圏のマンション新規発売戸数は5,466 戸(前年同期比▲11.9%)となった[図表1]。9月の平均価格は6,653万円(前年同月比+1.0%)となり、価格が上昇基調で推移するなか、販売戸数は減少している。

7-9月の首都圏の中古マンション成約件数は8,440件(前年同期比▲4.0%)となった。9月の平均価格は4,421万円(前年同月比+10.9%)と28ヶ月連続で上昇した。中古マンション市場では成約件数が伸び悩むなか在庫戸数が増加しつつあり、価格の上昇に実需が追い付いていない状況である。
[図表1]首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)

2―地価動向

地価の上昇は、住宅地に加えて商業地にも広がっている。国土交通省の「地価LOOKレポート(2022年第2四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「58」(前回46)、横ばいが「17」(21)、下落が「5」(13)となり、住宅地は23地区全てが上昇となった[図表2]。同レポートでは、「住宅地はマンション市場の堅調さが際立ったことから引き続き上昇を維持。商業地は経済活動正常化への期待感や低金利環境の継続等に伴う好調な投資需要等から多くの地区で上昇又は横ばいに移行した」としている。
[図表2]全国の地価上昇・下落地区の推移(比率)

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、第3四半期の東京都心部Aクラスビル成約賃料(月坪)は27,379円(前期比▲5.8%)に下落し、空室率は4.0%(前期比+0.2%)に上昇した[図表3]。三幸エステートは、「複数の新築ビルが空室を抱えて竣工したほか、オフィス戦略の見直しによる集約移転や部分解約に伴い空室が増加している」としている。

ニッセイ基礎研究所は、東京都心部Aクラスビルの賃料見通しを9月に改定した。オフィス需要は「オフィス勤務」と「在宅勤務」を組み合わせた働き方が定着し力強さを欠くなか、空室率は上昇基調で推移すると予測する。また、成約賃料は2021年の賃料を100とした場合、2022年は「93」、2023年は「91」、2026年は「88」となり、2013年の水準まで下落する見通しである。
[図表3]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、コロナ禍において需要の高まったファミリータイプの上昇が目立つほか、シングルタイプについても底打ち感がみられる。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、第2四半期は前年比でシングルタイプが+0.5%、コンパクトタイプが▲1.5%、ファミリータイプが+7.0%となった[図表4]。
[図表4]東京23区のマンション賃料(タイプ別)
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、都市部の人流回復を受けて百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、7-9月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+17.2%と前期に続いて2ケタの増加となり、コンビニエンスストアが+3.0%、スーパーが▲0.5%となった[図表5]。
[図表5]百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店・前年比)
宿泊旅行統計調査によると、7-9月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲22.8%減少し、このうち日本人が▲8.2%、外国人が▲92.1%となった[図表6]。コロナ禍にあっても自粛制限のない日本人観光客数が順調に増加する一方、インバウンド需要の低迷が続いている。しかし、10月に外国人観光客の入国制限が緩和されたことで今後の回復が期待される。
[図表6]延べ宿泊者数の推移(月次、2019年対比、2020年1月~2022年 
月)
シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(9月末)は前期比+0.8%の5.2%となった[図表7]。EC事業者を中心にテナント需要は底堅いものの、新規供給の増加により物件の選択肢が多く、また物価高等の影響でテナント側の事業環境の不透明感が高まるなか、リーシングの進捗ペースが鈍化している。一方、近畿圏の空室率は1.7%(前期比▲0.4%)と低い水準を維持している。
[図表7]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2022年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は6月末比▲1.1%下落した。セクター別では、オフィスが▲1.9%、住宅が▲1.9%、商業・物流等が▲0.1%となった[図表8]。経済正常化への期待からホテルセクターが堅調に推移した一方、海外金利上昇への警戒感などから時価総額上位銘柄を中心に売り圧力が高まり、期末にかけて下落に転じた。
[図表8]東証REIT指数の推移(2021年12月末=100)
J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は1,042億円(前年同期比▲79%)、1-9月累計では5,760億円(▲50%)となり前期に続いて大幅に減少した。アセットタイプ別の取得割合は、オフィス(36%)、物流(27%)、住宅(26%)、商業施設(5%)、ホテル(3%)、底地ほか(3%)の順となり、例年との比較では住宅の比率が高まった。エクイティ資金の調達コスト上昇などを受けて資産規模の拡大に積極的なREITは少なく、今後の進捗ペースによっては年間取得額が2012年以来10年ぶりに1兆円を下回る可能性がある。

(2022年12月07日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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