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- 建築費高騰と不動産開発プロジェクト(前編)~不動産開発プロジェクトの収支の考え方と資金フロー
コラム
2022年09月30日
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1――開発用地の取引の割合は前年比では増加傾向だが、直近では低下している
2――不動産開発の収支計算と資金フロー
ある不動産開発プロジェクトが成功したかどうかは、最終的に「建物完成後の土地建物の価値」から、「建築費や開発用地の取得額等の費用」を控除した残額が「プラス(利益)となるか、マイナス(損失)となるか」で判断される。
ただし、不動産開発プロジェクトの収支計算における各項目の金額算出の順序はやや異なる。まず「①建物完成後の土地建物の価格」を収益総額または販売総額から求めるのは同じである。そこから「②建物の建築費など(予想)」と「③開発者が手もとに残すべき利益」1を控除した残額が「④開発用地の取得費(予算)」となる(図表2:収支計算での各項目の額算出の順序)。このため、開発用地の取得前であれば、開発用地の取得費は柔軟性が高い。
ところが、実際の資金フローでは、不動産開発プロジェクトの始動とともに「④開発用地の取得費」が先に支出されて確定する。また、「①建物完成後の土地建物の価格」は建物完成後の市況で、「②建物の建築費」は建築請負契約で決まるため、計画当初はあくまで予想であり、開発用地の取得者の思惑通りにいくかどうかはわからない。さらに、「①建物完成後の土地建物の価格」は不動産開発プロジェクトの利益の源泉であり、当初見込みを下回れば不動産開発プロジェクトで損失が発生する可能性が高くなる。
すなわち、不動産開発プロジェクトが始動した後は、「③開発者が手もとに残すべき利益」以外の項目の費用や収益が徐々に確定していき、最終的に「開発者の利益」が確定することになる。(図表2:各項目の支出・収入発生の順序)。
ただし、不動産開発プロジェクトの収支計算における各項目の金額算出の順序はやや異なる。まず「①建物完成後の土地建物の価格」を収益総額または販売総額から求めるのは同じである。そこから「②建物の建築費など(予想)」と「③開発者が手もとに残すべき利益」1を控除した残額が「④開発用地の取得費(予算)」となる(図表2:収支計算での各項目の額算出の順序)。このため、開発用地の取得前であれば、開発用地の取得費は柔軟性が高い。
ところが、実際の資金フローでは、不動産開発プロジェクトの始動とともに「④開発用地の取得費」が先に支出されて確定する。また、「①建物完成後の土地建物の価格」は建物完成後の市況で、「②建物の建築費」は建築請負契約で決まるため、計画当初はあくまで予想であり、開発用地の取得者の思惑通りにいくかどうかはわからない。さらに、「①建物完成後の土地建物の価格」は不動産開発プロジェクトの利益の源泉であり、当初見込みを下回れば不動産開発プロジェクトで損失が発生する可能性が高くなる。
すなわち、不動産開発プロジェクトが始動した後は、「③開発者が手もとに残すべき利益」以外の項目の費用や収益が徐々に確定していき、最終的に「開発者の利益」が確定することになる。(図表2:各項目の支出・収入発生の順序)。
不動産開発プロジェクトは、開発用地の取得から建物完成までの間に市況が好調に推移し、不動産価格が上昇していれば、当初の収支計画よりも大きな利益を得ることができる。
しかし、開発用地の取得後に「建物完成後の土地建物の価格」が減少した場合や、「建築費の予算」を建築費実費が上回る場合には、その不動産開発プロジェクトの収支は悪化する。従って、収益から費用を控除すると損失が発生することが見込まれる場合には、建物の建築を見送ったり、開発用地のまま転売したりといった、当初の収支計画や不動産開発スケジュールの見直しが必要になる。
1 「③手もとに残すべき利益」を確保するのは、不動産開発プロジェクトを行う組織の運営費(人件費、本社事務所の賃料、投資家への配当など)を捻出たうえで、組織の利益も得る必要があるためである
しかし、開発用地の取得後に「建物完成後の土地建物の価格」が減少した場合や、「建築費の予算」を建築費実費が上回る場合には、その不動産開発プロジェクトの収支は悪化する。従って、収益から費用を控除すると損失が発生することが見込まれる場合には、建物の建築を見送ったり、開発用地のまま転売したりといった、当初の収支計画や不動産開発スケジュールの見直しが必要になる。
1 「③手もとに残すべき利益」を確保するのは、不動産開発プロジェクトを行う組織の運営費(人件費、本社事務所の賃料、投資家への配当など)を捻出たうえで、組織の利益も得る必要があるためである
3――不動産開発プロジェクトで利益を得ることが以前よりも難しくなっているのではないか
最近の建築費高騰により、近年に開発用地が取得された不動産開発プロジェクトの利益は、当初予定額を下回っている可能性があるものの、低金利の継続などにより、「建物完成後の土地建物価格」が大幅に下落する様子はない。従って、現時点においては、多くの不動産開発プロジェクトは一応スタート可能な状態と考える。
ただし、冒頭で述べたように、直近では開発用地の取引額が全体の取引額に占める割合がやや低下してきている。新たな開発プロジェクトへの投資を検討した際に、採算に合わない開発用地が増加している可能性があるのではないだろうか。
次稿では建築費の動向と用途別・躯体別の影響について考察してみたい。
ただし、冒頭で述べたように、直近では開発用地の取引額が全体の取引額に占める割合がやや低下してきている。新たな開発プロジェクトへの投資を検討した際に、採算に合わない開発用地が増加している可能性があるのではないだろうか。
次稿では建築費の動向と用途別・躯体別の影響について考察してみたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年09月30日「研究員の眼」)
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03-3512-1853
経歴
- 【職歴】
2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
2006年 総合不動産会社に入社
2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員
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