2022年10月05日

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総務省「住民基本台帳人口移動報告」によれば、東京23区への転入者数は、コロナ禍を経て2020年以降減少に転じ、2021年は前年比▲3.5%の約36.5万人となった。一方、転出者数は、2020年以降増加ペースが加速し、2021年は前年比+4.0%の約38.0万人となった。この結果、「転入超過」が続いていた東京23区は、約▲1.5万人の「転出超過」となった(図表1)。

東京23区の転入超過数を年齢別にみると、「10代」と「20代」は、大学や専門学校等への進学や新卒就職等を背景に「転入超過」を維持している。しかし、「30代」は、2020年に▲14,881人、2021年に▲26,705人となり「転出超過」に転じ、「40代」以上では「転出超過」が拡大傾向にある(図表2)。
図表1:転入者および転出者数/図表2:年齢別転入超過数
また、東京23区の転入超過数を都道府県別にみると、コロナ禍前の2019年は「大阪府(+7,285人)」や「愛知県(+6,547人)」を中心に「転入超過」は45都道府県を数えて、「埼玉県(▲5,696人)」と「東京都下(▲1,102人)」のみが「転出超過」であった(図表3)。
 
これに対して、2021年は「大阪府(+4,995人)」や「愛知県(+4,859人)」が2019年の約7割の水準に留まったほか、「転出超過」の都道府県は8自治体(茨城県・埼玉県・千葉県・東京都下・神奈川県・山梨県・長野県・沖縄県)に増加した。このうち、「埼玉県(▲16,013人)」・「神奈川県(▲14,576人)」・「東京都下(▲11,026人)」は1万人を超える「転出超過」となっている(図表4)。
図表3:都道府県別転入超過数(2019年)/図表4:都道府県別転入超過数(2021年)
ニッセイ基礎研究所が、2022年3月に関東地方の居住者を対象に行った調査では、約2割の人が、郊外・地方移住への希望を持っていることが窺えた。また、内閣府「新型コロナウィルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、東京圏在住で地方移住に関心を示した回答は、2019年12月の25%から2022年6月の34%へと増加している。

「在宅勤務を利用することで郊外や地方でも都心と同様に働ける」や「人口密度が低く自然豊かな環境に魅力を感じた」、「ライフスタイルを都市部での仕事重視から、郊外や地方での生活重視に変えたい」といった理由から郊外・地方移住に関心を持つ人が増えるなか、東京23区から周辺の都道府県へ人口が流出する動きがみられる。
 
また、東京23区毎の転入超過数をみると、2019年は「転入超過」が21区にのぼった。一方、2021年は「足立区(+2,297人)」や「江東区(+1,420人)」等、10の区では「転入超過」を維持したが、「江戸川区(▲3,481人)」や「目黒区(▲2,737人)」など13の区が「転出超過」となった。同じ東京23区内でも、人口移動に地域差が生じている(図表5)。

転入超過数(月次)をみると、2022年に入り「転入超過」に転じたが、2022年5月以降、再び「転出超過」となっている。昨年から回復の兆しはみえるものの、コロナ禍前(2019年)の水準には至っていない(図表6)。「在宅勤務」を取り入れた働き方が浸透し、「都心に近い」など通勤利便性を重視する傾向が弱まり、多様な価値基準による住居選択がひろがるなか、住宅需要に影響を及ぼす人口移動にも変化がみられる。不動産運用を行う上で、人口移動を引き続き注視する必要があるだろう。
図表5:東京23区毎の転入超過数/図表6:転入超過数(月次)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2022年10月05日「不動産投資レポート」)

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【コロナ禍における東京23区の人口移動】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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