コラム
2022年12月02日

コロナ禍で強まった「物流一人勝ち」の評価に終止符~「物流」の再評価がJリート市場回復の鍵に~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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今年のJリート(不動産投資信託)市場の特徴の1つに、「物流」セクターの価格下落が挙げられる。東証REIT物流フォーカス指数の推移をみると(図表1)、年初からの下落率は▲16.9%と市場全体の下落率(▲4.7%)を大きく上回り、昨年の上昇分をほぼ帳消しする結果となった(11月末時点)。コロナ禍における巣ごもり消費の拡大などを背景に、Jリート市場で高い評価を集めてきた「物流一人勝ち」の時代は終わりを迎えつつある。
図表1:東証REIT物流フォーカス指数と東証REIT指数(2021年12月末=100)
バリュエーション指標の1つであるNAV倍率1をセクター別に比較すると、「物流」のNAV倍率は価格下落を受けて1.09倍に低下し、市場平均(1.00倍)とのかい離率(以下、対市場プレミアム)は昨年末の+29%から+9%に縮小した(図表2)。これに対して、コロナ禍の影響が一巡し経済再開で収益回復が期待される「ホテル」のNAV倍率は0.95倍に上昇し、対市場プレミアムは昨年末の▲25%から▲5%まで縮小した。同様に、「オフィス(▲8%⇒▲5%)」や「商業(▲11%⇒▲0%)」の対市場プレミアムも改善している。この結果、セクター別にみた対市場プレミアムの上下幅は昨年末の54%(▲25%~+29%)から14%(▲5%~+9%)に縮小し、コロナ禍以前(2019年12月末)の15%(▲11%~+4%)に並ぶ。NAV倍率でみて割高な水準にあった「物流」の評価が低下する一方、割安な「ホテル」に見直し買いが入ったことで、コロナ禍において拡大したセクター間のバリュエーション格差は概ね解消したと言えそうだ。
図表2:セクター別NAV倍率の対市場プレミアム(2019年末、2021年末、2022年11月末時点)
もっとも、「物流」の価格調整は世界的な金利上昇を受けてグロース株(割高株)から資金が逃避した影響が大きく、Jリートが保有する多くの先進的物流施設の運用状況に陰りはみられない。実際、NAV算定の基礎となる保有不動産の価格変動率(22年上期決算)をみると、「物流」は前期比+2.4%となりセクターのなかで最も高い上昇率を示している(図表3)。仮に、現在のファンダメンタルズを維持しNAVの拡大が継続した場合、1年後の「物流」のNAV倍率は目安となる1倍に接近し、割安感が強まる見込みである(図表4)。

「オフィス」に次いで第2位のウェイトを占める「物流」が再評価されて市場回復の牽引役になれるかどうか、来年以降のJリート市場を見通すうえで鍵を握ることになりそうだ。
図表3:保有不動産の価格変動率(前期比)/図表4:「物流」のNAV倍率
 
1 NAV倍率は、市場時価総額が保有不動産の鑑定評価額をもとに算出されるNAV(Net Asset Value、解散価値)に対して何倍で評価されているかを表わす指標。株式投資におけるPBR(株価純資産倍率)に相当し、NAV倍率が高い(低い)ほど、市場での評価が高い(低い)ことになる。
 
 

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2022年12月02日「研究員の眼」)

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