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SDGs関連債務の情報伝達力-SDGsに対する取組を周知できるのか?
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
近年、SDGs関連債務の中でもサステナビリティ・リンク・ボンド(ローン)やトランジション・リンク・ボンド(ローン)に注目が集まっている。グリーンボンド(ローン)やソーシャルボンド(ローン)のように、「リンク」を含まないSDGs関連債務と「リンク」を含むSDGs関連債務には決定的な違いがある。「リンク」を含まないSDGs関連債務は必ず使途が限定されているが、「リンク」を含むSDGs関連債務は使途が限定されないケースが多い。使途を限定しなくても良いのは、発行企業が立てたSPTs達成に対するインセンティブを付与・強化する仕組みがあるからである。達成状況に応じて利率が変化するとか、目標未達の場合は寄付するといった仕組みが組み込まれている。このため以降、「リンク」を含むSDGs関連債務を目標設定型、「リンク」を含まないSDGs関連債務を使途限定型と表記する。
最初のSDGs関連債務による資金調達に限定すると、8割程度が使途限定型であるのに対し、2回目以降は使途限定型と目標設定型が拮抗する(図表11)。最初より2回目以降の方が目標設定型の割合が大きいという点では債券も融資も同じだが、債券と融資では構成割合が明らかに異なる。債券は2回目以降も8割程度が使途限定型であるのに対して、融資は1回目も過半数は目標設定型である。
<仮説3>
目標設定型には、SDGsに積極的な企業であるという情報だけでなく、目標達成に対する経営陣の自信や、背水の陣をしくほどの目標達成に対する思いの強さといった情報も含まれている。
目標設定型には使途限定型にはない情報が含まれるならば、2回目以降の資金調達であっても、目標設定型ならば株価がポジティブに反応する可能性がある。そこで、2回目以降のSDGs関連債務による資金調達に限定し、使途限定型と目標設定型に分けて株価の反応を確認したい。但し、図表8の通り、2回目以降のサンプル数は債券で38、融資で40しかない。これを、更に使途限定型と目標設定型に分けると十分なサンプル数が確保できない為、債券と融資を合わせて分析した。
結果は図表12の通りで、2回目以降の使途限定型は統計的に有意な反応は確認できない(ニュートラル)が、目標設定型の場合ポジティブな反応が確認できた。仮説3を支持する結果ではあるが、2回目以降でも債券は使途限定型が多く、融資は目標設定型が多いので、使途限定型と目標設定型による相違ではなく、債券と融資の違いかもしれない点に注意が必要である。
資産総額は正相関の数が15個(資産総額の対数値でも14個)で、資産総額が大きい企業ほど累積超過収益率が大きくなる傾向があると言える。また、統計的に信頼性の高い結果も多い。規模の大きい企業の方がニュースとして注目されやすいことが影響しているのかもしれない。なお、融資に限っても資産総額が大きい企業ほど累積超過収益率が大きくなる傾向がある。 [Slovin, M. B., S. A. Johnson, and J. L. Glascock, 1992]の規模の小さい企業の場合において、かなりポジティブに反応するという分析結果とは反するが、本稿のサンプルには [Slovin, M. B., S. A. Johnson, and J. L. Glascock, 1992]の分析において、かなりポジティブに反応するほど規模の小さい企業が含まれていないからと考えられる。
株価成長率は逆相関の数が14個で、統計的に信頼性の高い結果も多い。また、トービンのQも逆相関の数が14個で、統計的に信頼性の高い結果も少なくない。市場の評価(トービンのQ)が低く、特に近年において評価が低迷している(株価成長率が低い)企業ほど、累積超過収益率が大きくなる傾向がある。社会課題の解決をめざすSDGsには、新規事業を伴うことが多いことが影響しているのかもしれない。
最後に、ROAと価格変動率は、累積超過収益率との関係性の評価が困難である。ROAは数では逆相関9個と正相関を上回るが、統計的に有意な結果が得られたのは正相関の方であり、価格変動率は数では逆相関と正相関が拮抗し、またいずれも統計的に有意な結果が得られたからである。
5――最後に
結果、微々たるものであるがSDGs関連債務による資金調達の公表後に株価がポジティブに反応すること、そして、企業にとってSDGs関連債務による資金調達が最初の場合はポジティブに反応するが、2回目以降は通常の債務による資金調達公表後の反応と変わらないことを確認した。これより、SDGs関連債務による資金調達にはSDGs推進に積極的な企業であることの周知を促す効果があること、そして、SDGs推進に積極的な企業はポジティブに評価される傾向があると考えられる。つまり、経営陣の思惑通りの情報がある程度は伝わっていると考えられる。また、サンプル数が限られるので、詳細には分析できていないが、SDGs関連債務でも使途限定型と目標設定型では、伝わる情報が異なる可能性を提示した。
将来、詳細な分析を行うに足りる十分なサンプルが得られたら、使途限定型と目標設定型との株価の反応の相違の評価に加え、以下の視点での評価も行いたい。
・具体的取組と株価の反応の関係(特に、新規事業に用いる場合とリファイナンスの場合の相違)
・新聞等の報道の有無による株価の反応の相違
・SDGs関連表彰取得実績と株価の反応の関係
・融資の場合、貸出金融機関との関係と株価の反応の関係(新たな金融機関からの融資か否か)
参照文献
Dann, L., Mikkelson, W. (1984). Convertible debt issuance, capital structure change and financing-related information: some new evidence. Journal of Financial Economics 13, 157-186.
JamesC. (1987 ). Some Evidence on the Uniqueness of Bank Loans. Journal of Financial Economics 19 (2), 217-35.
Modigliani, F. and M. H. Miller. (1958). The cost of capital, corporation finance and the theory of investment. American Economic Review, 48:261–97.
Myers, S., Majluf, N. (1984). Corporate financing and investment decisions when firms have information that investors do not have. Journal of Financial Economics 13, 187-221.
Slovin, M. B., S. A. Johnson, and J. L. Glascock. (1992). Firm Size and the Information Content of Bank Loan Announcements. Journal of Banking and Finance, 16, 35-49.
顔菊馨. (2019). 近年の日本における転換社債発行のアナウンスメント効果の検証. 経営財務研究Vol.39, 2-24.
金子隆・渡邊智彦. (2005). 銀行借入 VS. 市場性負債:アナウンスメント効果の比較と要因分析. 現代ファイナンス 第 18 号,69-95.
03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
(2022年11月22日「基礎研レポート」)
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