コラム
2025年02月18日

ふるさと納税、事務負荷の問題-ワンストップ特例利用増加で浮上する課題

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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2015年に始まったワンストップ特例制度は、ふるさと納税の利用拡大に貢献した一方で、負の側面もある。前回のコラム1でも記載した通り、ワンストップ特例制度を利用すると、国が負うべき資金負担が寄付者の居住する自治体に移る。ワンストップ特例制度利用者の増加に伴い、居住する自治体が追加的に負担する金額の合計は487億円に及ぶ。加えて、元より寄付者が居住する自治体の事務負荷を問題視する声もあるが、ワンストップ特例制度利用者の増加に伴い、寄付者が居住する自治体の事務負荷が増大している可能性がある。
 
では、寄付者が居住する自治体の事務負荷の原因はどこにあるのか。総務省が公表する「平成28年度ふるさと納税に関する現況調査結果(税額控除の実績等)」に含まれる、ふるさと納税ワンストップ特例制度に関する各自治体の意見(以下、参考調査と記す)を見る限り、事務負荷を増やす主な原因は2つある。1つ目は寄付を受領した自治体の理解不足、2つ目は寄付者の理解不足である。
1つ目の原因に端を発する事例は、寄付を受領した自治体から寄付者が居住する自治体へ情報を通知する際に発生する(図表1)。具体的には(1)寄付者が居住する自治体の負荷を減らすために総務省令で通知書の様式が定められているにもかかわらず、定められた様式とは異なる形式で通知する、(2)1月11日から1月31日の通知期間外に通知する、(3)同一人から複数回寄付を受領した場合は、寄付を受領した自治体が名寄せして通知すべきところ、名寄せしないで通知するといった事例である。明らかに事務ルールに対する理解不足に起因するが、参考調査はワンストップ特例制度が始まった当初に行われたものであり仕方ない面もある。事務経験を重ねた昨今は事務ルールに対する理解が進んでいるだろうし、そもそも2018年以降の寄付分(2019年課税分以降)の申告特例通知書は、eLTAX(地方税ポータルシステム)を通じて電子的に送付できるようになっており2、この問題は解消されたと考えられる。
【図表1】ワンストップ特例申請の流れ
2つ目の原因の代表例は、ワンストップ特例適用外の寄付者が、自身が適用外であることを知らずにワンストップ特例申告をするといったものである。ワンストップ特例制度が利用できるのは、確定申告(住民税申告を含む、以下同様)を行わず、かつ寄付先が5自治体以下3の人である。自営業者など確定申告が必要な人だけでなく、確定申告の義務がない給与所得者でも医療費が嵩み医療費控除を受ける等の理由で確定申告をした場合は適用外になり、提出したワンストップ特例申請は全て無効になる。また、誤って6自治体以上に寄付した場合も同様である。

寄付を受領した自治体から通知の中にワンストップ特例適用外の寄付者が含まれている場合、寄付者が居住する自治体には、その旨およびその後の手続きを各寄付者に知らせるといった事務負荷が生じる。更に、知らせを受けた寄付者が確定申告(更生の請求)を行った場合、税務署の負荷が増すだけでなく、申告する時期によっては寄付者が居住する自治体に住民税を再計算する負荷が発生するケースも考えられる。

自治体の理解不足と同様に、制度の定着に伴い寄付者の理解が進んでいればよいのだが、あまり期待できない。現状、ふるさと納税の制度利用拡大に伴い新たな寄付者、とりわけワンストップ特例制度利用者が増え続けている。つまり、理解が不十分な寄付者が毎年新たに生まれている状況にある。
【図表2】ワンストップ特例申請者に占める制度適用対象外の割合(制度開始初年度) では、ワンストップ特例申告をしたが、適用外になる寄付者の規模はどの程度に及ぶのだろうか。そこで、寄付者が多いと考えられる東京23区及び政令指定都市を対象に、参考調査を精査し、ワンストップ特例を申告した寄付者に占める適用外になった寄付者の割合を推測するための情報を探した。その結果、7つの自治体で参考になる情報が見つかったので、自治体別に適用外になった寄付者の割合を算出した(図表2)。自治体によって差はあるものの、ワンストップ特例申請者のうち平均して約20%が適用対象外の寄付者であった。当時のワンストップ特例制度適用者(申請しかつ適用対象になった人、図表2の水色部分に相当)は42万人程度なので、単純に考えると申請したが適用対象外になった人(図表2の橙色部分に相当)が10万人強いたことになる。
では、近年はどうか。過去にワンストップ特例制度を利用したことのある人とない人では制度に対する理解度は異なるはずであり、はじめてワンストップ特例制度を利用した人に着目する。ワンストップ特例制度利用者の対前年度増加人数を、はじめてワンストップ特例を申請しかつ適用対象になった人の数と仮定する。更に、はじめて申請したが適用対象外になった人がワンストップ特例制度開始当時と同じ割合で存在すると仮定4し、毎年のワンストップ特例を申請したものの適用対象外になった寄付者を試算した(図表3)。
【図表3】ワンストップ特例を申請したが適用対象外になった寄付者数(推計値)の推移
寄付者の理解不足を原因とする事務負荷は、制度が定着しても減少していないどころか、最近4年度の負荷は制度開始当初の約2倍に及ぶ可能性がある。寄付を受ける自治体には、寄付者が確定申告するか否か、また寄付先が5自治体以下か否かを把握するのは困難なので致し方ないとはいえ、この事務負荷(コスト)を負うのは、ふるさと納税で税収が減少する自治体であることを考えると気の毒に感じる。

ワンストップ特例のデジタル申請が進む中、全てのワンストップ特例申請を一元管理するなど、寄付者が居住する自治体の事務負荷を減らす方法も考えられる。ただ、適用対象者が限られるワンストップ特例制度の効率化より、すべての利用者が対象となる確定申告の効率化、簡素化を優先する方が合理的だろう。次回は、簡素化が進む確定申告について記載したい。
 
1 研究員の眼「ふるさと納税の新たな懸念~ワンストップ特例利用増加で浮上する課題
2 総務省(2018年4月1日)「ふるさと納税ワンストップ特例制度に係る申告特例通知書の電子的送付について」参照
3 通常、ワンストップ特例制度の利用希望者は全ての寄付先に対してワンストップ特例の申請を行うと考えられるため「寄付先が5自治体以下」と記す。正確には、ワンストップ特例の申請を行う自治体数が5以下であればいい。
4 ふるさと納税関係者の取り組みの結果、はじめてワンストップ特例制度を申請する人のうち適用外になる人の割合が低下している可能性も否定できない。しかし、近年は、寄付を受領した自治体が受けた申請総額(図表1の①)に対するワンストップ特例が適用された寄付総額の割合がわずかに低下している(つまり、申請総額に占める適用外寄付額の割合は上昇している)。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年02月18日「研究員の眼」)

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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