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自治体の行政計画を減らすことは可能か-負担軽減を目指す骨太方針の記述から考える論点
基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.307]
保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
1―はじめに
ただ、この問題は以前から論じられてきた経緯があり、計画数が増える背景などを深堀りする必要がある。
本稿は筆者の関心事である医療、介護関係を中心に、自治体の行政計画に関する論点を探る。
2―骨太方針の記述
ただ、この問題は2008年12月の地方分権改革推進委員会勧告から論じられている。それにもかかわらず、「~計画を策定する」といった法律の条文を通じて、自治体に計画策定を義務付ける法律が増勢傾向にあり、見直しの必要性が骨太方針に盛り込まれた。今後、政府内での調整が年末に掛けて進む見通しだ。
3―なぜ計画数が増えるのか
これを筆者の関心事である医療や介護の領域で見ると、医療計画、介護保険事業計画など様々な計画策定が義務付けられており、最近も新型コロナウイルスを踏まえ、都道府県が策定している医療計画に、新興感染症対応が追加された。
もう一つの要因として、議員立法の影響も挙げられる。例えば、2018年に成立した循環器病対策基本法では、都道府県に計画策定義務を課している。
さらに、認知症の人の権利・尊厳確保や関連施策の強化を図る認知症基本法案も現在、国会で議論が進んでおり、2019年に提出された与党案では、都道府県と市町村に対し、計画策定の努力義務を課す条文が盛り込まれている。
4―必要、不必要の判断は可能か
しかも、骨太方針で示されているような絞り込みも極めて困難である。例えば、筆者は国による認知症基本法の制定と、自治体による認知症施策の計画策定と根拠となる条例制定を通じて、認知症の施策が地域で進むことが重要と考えている。
一方、循環器病対策推進計画について、当初は必要性に疑問を持っていたが、「心疾患、脳血管疾患は死因の計2割。だから対策が必要」「都道府県の計画策定に関して、アウトカム(成果)までの経路を明らかにするロジックモデルを使い、関係者の合意形成が図られている」という関係者の説明を聞き、「要らないのでは」と即断した不明を反省している。
それでも「認知症施策・ケアの方が重要」と考えており、循環器病対策を重視する人から批判を受けるかもしれない。
つまり、「何が必要か」という判断は個々人の認識で大きく異なるため、「真に必要な案件」の線引きは困難である。
だからこそ10年以上も是非が論じられているのに、逆に策定義務の対象計画が増えていると言える。
5―おわりに~今後に向けて~
さらに、少し遠回りになる選択肢だが、国の制度を上手く活用しつつ、地域の実情に応じた施策を推進できる自治体職員の育成も欠かせない。現実的な課題解決策が国、自治体ともに求められる。
1 本稿は2022年8月3日掲載「自治体の行政計画について、国はどこまで関与すべきか」を再構成した。詳細や参考文献などは下記を参照。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71948?site=nli
(2022年10月06日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
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