2022年10月06日

自治体の行政計画を減らすことは可能か-負担軽減を目指す骨太方針の記述から考える論点

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.307]

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

文字サイズ

1―はじめに

経済財政政策の方向性を示す今年の「骨太方針」では、国が自治体に対し、策定を義務付けている行政計画を最小限にする考え方が示された。国が自治体に策定を課している行政計画の数が近年増加し、自治体の負担が増えているため、自治体の自由度を広げる狙いがある。

ただ、この問題は以前から論じられてきた経緯があり、計画数が増える背景などを深堀りする必要がある。

本稿は筆者の関心事である医療、介護関係を中心に、自治体の行政計画に関する論点を探る。

2―骨太方針の記述

6月の骨太方針では、国が自治体に対し、策定を義務付けている行政計画に関して、「真に必要な案件」にとどめる方向性が示された。

ただ、この問題は2008年12月の地方分権改革推進委員会勧告から論じられている。それにもかかわらず、「~計画を策定する」といった法律の条文を通じて、自治体に計画策定を義務付ける法律が増勢傾向にあり、見直しの必要性が骨太方針に盛り込まれた。今後、政府内での調整が年末に掛けて進む見通しだ。

3―なぜ計画数が増えるのか

では、なぜ計画数が増えるのだろうか、医療・介護に限らず、多くの領域では国が施策を企画立案し、自治体が執行する役割分担になっており、各省が施策を充実させようとすると、自治体に課される計画数が増える構造がある。

これを筆者の関心事である医療や介護の領域で見ると、医療計画、介護保険事業計画など様々な計画策定が義務付けられており、最近も新型コロナウイルスを踏まえ、都道府県が策定している医療計画に、新興感染症対応が追加された。

もう一つの要因として、議員立法の影響も挙げられる。例えば、2018年に成立した循環器病対策基本法では、都道府県に計画策定義務を課している。

さらに、認知症の人の権利・尊厳確保や関連施策の強化を図る認知症基本法案も現在、国会で議論が進んでおり、2019年に提出された与党案では、都道府県と市町村に対し、計画策定の努力義務を課す条文が盛り込まれている。

4―必要、不必要の判断は可能か

だが、こうした判断が計画策定に関する自治体の負担を増やしており、今回の骨太方針の文言に繋がった。以上の点を踏まえると、国レベルでは「国全体で施策を拡充、展開するため、計画策定義務を課したい」と考える傾向が見られるのに対し、自治体は「負担を減らしたい」「自由度を確保したい」と主張しており、この意見対立の解決は容易ではない。

しかも、骨太方針で示されているような絞り込みも極めて困難である。例えば、筆者は国による認知症基本法の制定と、自治体による認知症施策の計画策定と根拠となる条例制定を通じて、認知症の施策が地域で進むことが重要と考えている。

一方、循環器病対策推進計画について、当初は必要性に疑問を持っていたが、「心疾患、脳血管疾患は死因の計2割。だから対策が必要」「都道府県の計画策定に関して、アウトカム(成果)までの経路を明らかにするロジックモデルを使い、関係者の合意形成が図られている」という関係者の説明を聞き、「要らないのでは」と即断した不明を反省している。

それでも「認知症施策・ケアの方が重要」と考えており、循環器病対策を重視する人から批判を受けるかもしれない。

つまり、「何が必要か」という判断は個々人の認識で大きく異なるため、「真に必要な案件」の線引きは困難である。

だからこそ10年以上も是非が論じられているのに、逆に策定義務の対象計画が増えていると言える。

5―おわりに~今後に向けて~

現実的に「真に必要な案件」の絞り込みが難しい以上、自治体の裁量を広げることで、問題解決を図る方法が考えられる。例えば、骨太方針が挙げている通り、別の類似計画に包摂させることを認める制度改正とか、複数の自治体による計画の共同策定の容認などが想定できる。

さらに、少し遠回りになる選択肢だが、国の制度を上手く活用しつつ、地域の実情に応じた施策を推進できる自治体職員の育成も欠かせない。現実的な課題解決策が国、自治体ともに求められる。
 
1 本稿は2022年8月3日掲載「自治体の行政計画について、国はどこまで関与すべきか」を再構成した。詳細や参考文献などは下記を参照。
 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71948?site=nli
Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

(2022年10月06日「基礎研マンスリー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【自治体の行政計画を減らすことは可能か-負担軽減を目指す骨太方針の記述から考える論点】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

自治体の行政計画を減らすことは可能か-負担軽減を目指す骨太方針の記述から考える論点のレポート Topへ