2021年04月28日

自治体の認知症条例に何を期待できるか-当事者や幅広い関係者の参加、「予防」の記述配慮が必要

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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■要旨

認知症ケアに関する理念や施策の方向性を定める認知症条例が一部の自治体で作られつつある。2020年10月までに計11団体(1県、10市区町)で制定されており、認知症ケアに対する関心の高まりとともに、他の自治体でも同様の条例が作られていく可能性は高い。そこで、筆者は非営利・独立のシンクタンク、日本医療政策機構を中心とする研究会に加わり、各自治体の条例に盛り込まれた項目、条例の制定プロセスなどを比較検証した。

本稿では、研究会における議論や中間報告の内容などを踏まえて、これからの認知症ケアに求められる理念(認知症フレンドリー社会)が地方自治の「住民自治」との共通点を多く含んでいる点を指摘。さらに、条例を制定する意味合いとして、「関係者の意思疎通」「改正・廃止手続きのハードルによる政治的安定性」「広報的効果」「縦割り行政の解消」といった点を確認する。その上で、認知症の人の意見を丁寧に聞く重要性や民間企業との連携、「予防」を巡る記述の配慮など、認知症条例に求められる制定プロセスや内容などを指摘する。

■目次

1――はじめに~認知症条例の比較研究~
2――認知症条例を制定した自治体
3――認知症フレンドリー社会と地方自治の共通点(1)~多様な主体が参加する必要性~
  1|認知症フレンドリー社会の理念
  2|地方自治における住民自治の重要性
4――認知症フレンドリー社会と地方自治の共通点(2)~地域の実情に応じた対応の必要性~
  1|全国一律の対応が困難な認知症関係施策
  2|地方分権改革の趣旨
5――認知症条例の意味合い
  1|地方自治における条例の位置付け
  2|民主的正統性の担保
  3|関係者の意思疎通
  4|改正・廃止手続きのハードルによる政治的安定性
  5|条例制定による広報的効果
  6|条例制定による縦割り行政の解消
6――先行した認知症条例の比較検証
7――先行した認知症条例の比較結果(1)~関係者の意思疎通~
  1|関係者の意思疎通に関する現状
  2|関係者の意思疎通に関する課題
8――先行した認知症条例の比較結果(2)~政治的安定性~
  1|政治的安定性に関する現状
  2|政治的安定性に関する課題
9――先行した認知症条例の比較結果(3)~広報的効果~
  1|広報的効果に関する現状
  2|広報的効果に関する課題
10――先行した認知症条例の比較結果(4)~縦割り行政の解消~
  1|縦割り行政の解消に関する現状
  2|縦割り行政の解消に関する課題
11――比較検証から言えること
  1|当事者参画、透明性の確保、民間企業との連携に課題
  2|施策型か、理念型か
12――おわりに
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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