2022年09月27日

入院は大幅減少、外来は微減-2020年の「患者調査」にあらわれたコロナ禍の影響

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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5循環器系の疾患の入院受療率は、大きく低下した
続いて、受療率を疾病種類別に見てみよう。入院受療率の上位5つの疾病について推移を示す。精神及び行動の障害と、循環器系の疾患は、それぞれ低下した。特に、循環器系の疾患は、大きく低下した。新生物の入院受療率も低下割合が大きかった。一方、損傷,中毒及びその他の外因の影響や神経系の疾患は緩やかな上昇傾向にあったが、2020年は低下に転じたり、伸びが止まったりしている。2020年はコロナ禍の影響で、がんや循環器系疾患の手術や入院を先延ばしする動きがあったが、そうした影響が統計にあらわれているものと考えられる。
図表8. 入院受療率の推移(傷病分類別)
6健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用の外来受療率は、予防接種により大きく上昇
外来についても、外来受療率の上位6つについて推移を見てみよう。

最も外来受療率の高い消化器系の疾患は、概ね横這いとなった。循環器系の疾患は、入院受療率と同様、大きく低下した。内分泌,栄養及び他代謝疾患や、筋骨格系及び結合組織の疾患は、いずれも上昇や低下の割合が小さかった。

外来受療率の低下という点では、新型コロナウイルス感染症と症状が類似している呼吸器系の疾患で、マイナス25%もの大きな低下となった。コロナ禍で、呼吸器系の疾患の患者が医療施設での受療を控えるケースが増えていたものとみられる。

一方、健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用は、43%を超える大きな伸びを見せた。これは、主として、予防接種の増加による。2020年の調査時点では、新型コロナのワクチンはまだ開発されていなかったが、インフルエンザとダブルで流行することを心配した人々が、大挙してインフルエンザの予防接種を受けたことが、統計に反映されたものと考えられる。
図表9. 外来受療率の推移(傷病分類別)

5――平均入院日数

5――平均入院日数

さらに、入院の状況として、退院患者の平均入院日数を見てみよう。

1コロナ禍と調査票の元号記載の2要因で、2020年の平均入院日数は増加
近年、退院した患者の平均入院日数は、年々減少していた。しかし、2020年には増加に転じた。その要因として、コロナ禍の影響と、調査票の元号記載の影響が考えられる。 

まず、コロナ禍の影響については、比較的軽症の患者が受療を控えたり、予定手術が延期となり事前の入院がなくなったりした結果、短期入院が減少し、長期入院の割合が高まったことが考えられる。

つぎに、調査票の元号記載の影響については、入院年月日の記入箇所で、令和に○を付すべきところを平成に○を付したために、入院期間が30年以上として処理されたケースが混入したことが考えられる。厚生労働省では、入院年が「平成元年」や「平成2年」と記入された753件の調査票を精査して、入院元号の選択誤りである可能性が高いものについて、元号を令和に修正したり、入院元号不詳としたりして取り扱うこととした。ただ、その処理後も、1万日(約27年)以上の入院の件数は2020年に366件あり、2017年の173件、2014年の156件、2011年の167件に比べて、約200件多い結果となっている。
図表10. 病院退院票の入院・退院日の記載欄 (イメージ)
これらのことが、2020年の平均入院日数の増加に寄与していることが考えられる。
図表11. 平均入院日数(退院患者)の推移(男女計・男女別)
22020年は各年齢層とも平均入院日数が増加した
続いて、平均入院日数を、年齢層別に見てみる。14歳以下、15~34歳、35~64歳、65歳以上の4つの年齢層のいずれでも、2017年まで減少傾向だったが、2020年は増加している。
図表12. 平均入院日数(退院患者)の推移(年齢層別)
3入院受療率の上位5疾病は、いずれも2020年に平均入院日数が増加した
次に、平均入院日数を、傷病分類別に見てみる。前章で見た入院受療率の上位5つの疾病について推移を示す。精神及び行動の障害は294.2日に増加し、2011年や2014年なみの水準となった。神経系の疾患は、1996年以降で最も多い83.5日となった。循環器系の疾患、損傷,中毒及びその他の外因の影響、新生物<腫瘍>は、近年の減少傾向から一転して、2020年は増加した。
図表13. 平均入院日数(退院患者)の推移(傷病分類別)

6――おわりに (私見)

6――おわりに (私見)

以上、見てきたとおり、2020年の患者調査の結果には、入院を中心に、コロナ禍の影響が如実にあらわれている。患者調査は、医療計画の策定や、診療報酬改定の検討などの医療行政を進める際に、基礎データとして活用されることが多い。また、社会保障審議会などで、医療制度改正の議論の前提としてもよく用いられる。さらに、民間企業では、製薬メーカーで新薬の市場規模推計調査に用いたり、保険会社で医療保険等の保険料や準備金計算の基礎率として利用したりしている。

こうした行政や民間企業での患者調査の活用状況を踏まえた場合、コロナ禍の影響を受けたとみられる2020年のデータをどのように用いるべきか? 今後、その活用にあたって、そもそものデータの採否や、各種の調整方法など、さまざまな検討を要するものと考えられる。

今後、患者調査を用いて受療状況などを見る際には、データの分析とともに、コロナ禍の影響の取り扱い方法について、議論を重ねていくべきといえるだろう。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2022年09月27日「基礎研レター」)

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