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2020年の入院患者数は大きく減少-「患者調査」に、コロナ禍の影響はどうあらわれるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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3月下旬には患者数の概数(*)が公表された。これは、入院患者と外来患者の数を、男女別、年齢層別に1枚の表にまとめたもので、現時点で公表されているのはこの表のみだ。だが、この1枚の表のデータには、コロナ禍が医療に与えた影響があらわれている。今回は、その影響をみていこう。
(*) 「令和2年(2020)患者調査(概数)」(厚生労働省, 令和4年3月23日)
なお、当資料には、つぎの(利用上の注意)が付されている。
「本結果については、令和2年10 月第3週の調査日現在における全国の医療施設を利用する患者について、概数として取りまとめたものであり、おって公表する『令和2年患者調査の概況(確定数)』及び報告書とは、必ずしも一致しないので注意願いたい。」
◇ 調査はコロナ禍の不安が高まっていた時期に行われた
調査の時期は、入院患者と外来患者については、10月の3日間のうち医療施設ごとに定める1日。退院患者については、9月1日~30日までの1か月間とされている。今回、公表された概数は、入院患者と外来患者の数なので、10月が調査の時期となっている。
今回の調査に先立って厚生労働省から出された調査協力依頼によると、調査の期日は、病院の入院・外来患者は10月20日~22日の3日間のうち、指定された1日。一般診療所と歯科診療所の入院・外来患者は、10月20日、21日、23日の3日間のうち、指定された1日とされている。いずれも平日だ。
この時期には、新型コロナウイルス感染症の第2波が過ぎ、第3波の到来に向けて新規感染者数が徐々に増加していた。まだ、ワクチンは開発されておらず、3密の回避、咳エチケット、石鹸による手洗い等の感染拡大防止策の徹底が促されていた。人々の間で感染への不安感が高まり、患者の医療施設での受診に影響をもたらしているとみられる時期でもあった。
◇ 2020年の推計入院患者数は1980年代初期の水準に大きく減少
◇ 受療率でみると、入院は激減、外来は横這い
今回公表された2020年の概数には、推計患者数だけが表示されており、受療率はない。ただし、受療率の計算に用いる人口推計の結果は、別途、総務省から公表されている。そこで筆者が、今回公表された推計患者数を、2020年10月1日現在の人口推計の人口で割り算して、受療率を算出してみた。その結果、2020年は人口10万人当たり、入院受療率は964人、外来受療率は5678人となった。入院受療率については、1970年代の水準である1000人未満にまで落ち込んだ。一方、外来受療率は、2017年とほぼ同水準となっている。入院受療率の落ち込みに、コロナ禍の影響をみることができる。
◇ 女性のほうが受療率の低下傾向が強くみられた
◇ 入院は14歳以下、外来は65歳以上の低下割合が大きかった
◇ 今後、コロナ禍の影響の取扱い方法について、議論を重ねていくべき
行政や民間企業での患者調査のこうした活用の状況を踏まえた場合、コロナ禍の影響を受けたとみられる2020年のデータをどのように用いるべきか? その活用にあたっては、今後、そもそものデータの採否や調整方法など、検討が必要になることもあると考えられる。
今回は、3月に公表された推計患者数の概数を取り上げた。このデータだけでは、疾病ごとの受療状況や、退院患者の平均在院日数などへのコロナ禍の影響はわからない。厚生労働省のホームページによると、確定数の詳細なデータは6月下旬に公表される予定となっている。
今後、患者調査を用いて受療状況などをみる際には、データの分析とともに、コロナ禍の影響の取扱い方法について、議論を重ねていくべきといえるだろう。
(2022年05月06日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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