コラム
2022年05月06日

2020年の入院患者数は大きく減少-「患者調査」に、コロナ禍の影響はどうあらわれるか?

保険研究部 主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   篠原 拓也

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厚生労働省は、3年ごとに「患者調査」を行い、その結果を公表している。今年は、2020年に行われた調査の結果が公表される年だ。

3月下旬には患者数の概数(*)が公表された。これは、入院患者と外来患者の数を、男女別、年齢層別に1枚の表にまとめたもので、現時点で公表されているのはこの表のみだ。だが、この1枚の表のデータには、コロナ禍が医療に与えた影響があらわれている。今回は、その影響をみていこう。

(*) 「令和2年(2020)患者調査(概数)」(厚生労働省, 令和4年3月23日) 
なお、当資料には、つぎの(利用上の注意)が付されている。
「本結果については、令和2年10 月第3週の調査日現在における全国の医療施設を利用する患者について、概数として取りまとめたものであり、おって公表する『令和2年患者調査の概況(確定数)』及び報告書とは、必ずしも一致しないので注意願いたい。」

◇ 調査はコロナ禍の不安が高まっていた時期に行われた

まず、今回の調査の概要について簡単にみていこう。患者調査は、統計法に基づく基幹統計の1つで、3年に1回調査を行うこととされている。調査の対象は、全国の医療施設を利用する患者だ。具体的には、医療施設を層化無作為抽出し、その施設を利用した患者を客体として調査が行われる。

調査の時期は、入院患者と外来患者については、10月の3日間のうち医療施設ごとに定める1日。退院患者については、9月1日~30日までの1か月間とされている。今回、公表された概数は、入院患者と外来患者の数なので、10月が調査の時期となっている。

今回の調査に先立って厚生労働省から出された調査協力依頼によると、調査の期日は、病院の入院・外来患者は10月20日~22日の3日間のうち、指定された1日。一般診療所と歯科診療所の入院・外来患者は、10月20日、21日、23日の3日間のうち、指定された1日とされている。いずれも平日だ。

この時期には、新型コロナウイルス感染症の第2波が過ぎ、第3波の到来に向けて新規感染者数が徐々に増加していた。まだ、ワクチンは開発されておらず、3密の回避、咳エチケット、石鹸による手洗い等の感染拡大防止策の徹底が促されていた。人々の間で感染への不安感が高まり、患者の医療施設での受診に影響をもたらしているとみられる時期でもあった。

◇ 2020年の推計入院患者数は1980年代初期の水準に大きく減少

それでは、公表された入院患者と外来患者の数をみてみよう。いずれも、調査日当日に、病院、一般診療所、歯科診療所で受療した患者の推計値だ。

2020年は、推計患者数は入院121万人、外来714万人であった(万人未満四捨五入)。特に、推計入院患者は、2017年に比べて大きく減少した。入院患者の数は、長らく130万人以上で推移しており、この水準を下回るのは1980年代初期以来となる。これは、コロナ禍の影響があらわれたものとみることができる。一方、外来患者については、2011年以降、やや減少する傾向が続いている。
グラフ1. 推計患者数の推移

◇ 受療率でみると、入院は激減、外来は横這い

患者数の推移は、全国で行われた医療サービスの規模の移り変わりをあらわしている。ただ、人口が変化する中で、絶対数として患者数の推移をみても、受療の傾向がどう変化したのかはわかりにくい。そこで、患者調査では、人口10万人当たりの推計患者数である「受療率」が公表されている。

今回公表された2020年の概数には、推計患者数だけが表示されており、受療率はない。ただし、受療率の計算に用いる人口推計の結果は、別途、総務省から公表されている。そこで筆者が、今回公表された推計患者数を、2020年10月1日現在の人口推計の人口で割り算して、受療率を算出してみた。その結果、2020年は人口10万人当たり、入院受療率は964人、外来受療率は5678人となった。入院受療率については、1970年代の水準である1000人未満にまで落ち込んだ。一方、外来受療率は、2017年とほぼ同水準となっている。入院受療率の落ち込みに、コロナ禍の影響をみることができる。
グラフ2. 受療率の推移[人口10万人当たりの推計患者数]

◇ 女性のほうが受療率の低下傾向が強くみられた

つぎに、受療率を、男女別にみてみよう。近年、入院、外来とも、女性のほうが高い水準で推移している。これは、女性のほうが高齢層のウェイトが大きいためとみられる。

2020年は、入院受療率は男女とも低下した。低下幅は、男性よりも女性のほうがやや大きかった。一方、外来受療率は、男性は若干上昇、女性は若干低下となった。総じて、女性のほうが受療率の低下傾向が強くみられた。
グラフ3. 受療率の推移(男女別)

◇ 入院は14歳以下、外来は65歳以上の低下割合が大きかった

つづいて、受療率を、年齢層別にみてみる。14歳以下、15~34歳、35~64歳、65歳以上の4つの年齢層に区分してみよう。入院については、上の年齢層ほど、受療率が高い傾向がある。これは、年齢が進むにつれて、病気やケガで入院するケースが増えることを示している。年齢層ごとの差が大きいため、縦軸を対数表示してグラフにしてみる。2020年は、入院受療率は、各年齢層とも低下した。特に、14歳以下で、2017年からの低下割合が大きかったことがうかがえる。
グラフ4. 入院受療率の推移(年齢層別)
一方、外来については、4つの年齢層の中で15~34歳がもっとも低い。これまで、各年齢層とも、多少の増減はあるが、おおむね横這いで推移してきた。2020年は、2017年と比べて、14歳以下と15~34歳は上昇、35~64歳と65歳以上は低下した。特に、65歳以上は低下割合が大きかった。
グラフ5. 外来受療率の推移(年齢層別)

◇ 今後、コロナ禍の影響の取扱い方法について、議論を重ねていくべき

以上みてきたとおり、2020年の患者調査の結果には、入院を中心に、コロナ禍の影響があらわれている。患者調査は、医療計画の策定や、診療報酬改定の検討などの医療行政を進める際に、基礎データとして活用されることが多い。また、社会保障審議会などで、医療制度改正の議論の前提としてもよく用いられる。さらに、民間企業では、製薬メーカーで新薬の市場規模推計調査に用いたり、保険会社で医療保険等の保険料計算の基礎率として利用したりしている。

行政や民間企業での患者調査のこうした活用の状況を踏まえた場合、コロナ禍の影響を受けたとみられる2020年のデータをどのように用いるべきか? その活用にあたっては、今後、そもそものデータの採否や調整方法など、検討が必要になることもあると考えられる。

今回は、3月に公表された推計患者数の概数を取り上げた。このデータだけでは、疾病ごとの受療状況や、退院患者の平均在院日数などへのコロナ禍の影響はわからない。厚生労働省のホームページによると、確定数の詳細なデータは6月下旬に公表される予定となっている。

今後、患者調査を用いて受療状況などをみる際には、データの分析とともに、コロナ禍の影響の取扱い方法について、議論を重ねていくべきといえるだろう。
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保険研究部   主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2022年05月06日「研究員の眼」)

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