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入院は大幅減少、外来は微減-2020年の「患者調査」にあらわれたコロナ禍の影響

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
この調査には、高齢化の進展をはじめとする社会の変化、画期的な医薬品・医療機器の開発や導入の状況、健康増進や疾病予防対策の普及など、さまざまな要因が医療にもたらした影響が、患者の動向の形であらわれている。加えて、2020年は、コロナ禍が本格的に始まった年であり、感染症の影響も如実にあらわれている。今回は、公表された統計データをもとに、その影響を見ていこう。
2――今回の患者調査の実施時期
1|調査は2020年9月、10月に行われた
患者調査は、統計法に基づく基幹統計の1つで、3年に1回調査を行うこととされている。調査の対象は、全国の医療施設を利用する患者だ。具体的には、医療施設を層化無作為抽出し、その施設を利用した患者を客体として調査が行われる。
調査の時期は、入院患者と外来患者については、10月の3日間のうち医療施設ごとに定める1日。退院患者については、9月1日~30日までの1か月間とされている。
今回の調査に先立って厚生労働省から出された調査協力依頼によると、調査の期日は、病院の入院・外来患者は10月20日(火)~22日(木)の3日間のうち、指定された1日。一般診療所と歯科診療所の入院・外来患者は、10月20日(火)、21日(水)、23日(金)の3日間のうち、指定された1日とされている1。
1 一般診療所や歯科診療所は、木曜日を休診や午後休診としている場合もあるため、調査期日から除外しているものとみられる。
調査が行われた時期には、新型コロナウイルス感染症の第2波が過ぎ、第3波の到来に向けて新規感染者数が徐々に増加していた。まだ、新型コロナのワクチンは開発されておらず、3密の回避、咳エチケット、石鹸による手洗い等の感染拡大防止策の徹底が促されていた。人々の間で感染への不安感が高まり、患者の医療施設での受診に影響をもたらしているとみられる時期でもあった。
3――患者数
1|入院は大幅減少、外来は微減
公表された推計入院患者数と推計外来患者数を見てみよう。いずれも、調査日当日に、病院、一般診療所、歯科診療所で受療した患者の推計値だ。
2020年は、推計患者数は入院121万人、外来714万人であった(万人未満四捨五入)。特に、推計入院患者数は、2017年に比べて大幅に減少した。入院患者の数は、長らく130万人以上で推移しており、この水準を下回るのは1980年代初期以来となる。これは、コロナ禍の影響があらわれたものとみることができる。一方、外来患者については、2011年以降、微減する傾向が続いている。
2 傷病の分類は、「疾病、傷害及び死因の統計分類(基本分類)(ICD-10(2013年版))」をもとに行っている。
3 総患者数の推計には推計患者数、平均診療間隔、調整係数が用いられる。このうち、平均診療間隔は、診療間隔が極端に長い場合は継続的に医療を受けているとせず、再来ではなく初診とみなす方が適当であるとの考え方により、推計の対象となる「前回診療日から調査日までの日数」に算出上限を設けている。この算出方法は、集計開始当時の受療状況を加味して設定されたが、近年の疾病構造の変化や医療技術の向上などにより診療状況に変化が生じていることを踏まえ「患者調査における『平均診療間隔』及び『総患者数』の算出方法等の見直しに関するワーキンググループ」(厚生労働省)において検討され、2017年調査まで算出上限日数を30日(31日以上は除外)と設定していたものについて、2020年調査以降は、算出の上限日数を98日(99日以上は除外)とする見直しが行われた。図表3は、2011年、2014年、2017年の数値についてもこの見直しを適用して算出したものとしており、各年の比較のベースを揃えている。
4――受療率
1|入院は大幅低下、外来は若干低下
2020年は人口10万人当たりで見ると、入院受療率は960人、外来受療率は5658人となった。入院受療率は、1200人を上回った1990年をピークとして徐々に低下する傾向にある。2020年には1000人を下回り、1970年代と同様の水準にまで落ち込んだ。一方、外来受療率は、かつては調査年ごとに大きな上昇・低下を見せることもあったが、2011年以降は若干低下で推移しており、2020年もその傾向が続いた。入院受療率の落ち込みには、コロナ禍の影響が反映されているものとみられる。
(2022年09月27日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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