2022年09月27日

入院は大幅減少、外来は微減-2020年の「患者調査」にあらわれたコロナ禍の影響

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

医療の状況を見るうえで、患者の動向を把握することは欠かせない。日本では、厚生労働省が3年ごとに「患者調査」を行い、その結果を公表している。今年6月には、2020年に行われた調査の結果が公表された。

この調査には、高齢化の進展をはじめとする社会の変化、画期的な医薬品・医療機器の開発や導入の状況、健康増進や疾病予防対策の普及など、さまざまな要因が医療にもたらした影響が、患者の動向の形であらわれている。加えて、2020年は、コロナ禍が本格的に始まった年であり、感染症の影響も如実にあらわれている。今回は、公表された統計データをもとに、その影響を見ていこう。

2――今回の患者調査の実施時期

2――今回の患者調査の実施時期

まず、今回の調査の概要について簡単に見ていこう。

1調査は2020年9月、10月に行われた
患者調査は、統計法に基づく基幹統計の1つで、3年に1回調査を行うこととされている。調査の対象は、全国の医療施設を利用する患者だ。具体的には、医療施設を層化無作為抽出し、その施設を利用した患者を客体として調査が行われる。

調査の時期は、入院患者と外来患者については、10月の3日間のうち医療施設ごとに定める1日。退院患者については、9月1日~30日までの1か月間とされている。

今回の調査に先立って厚生労働省から出された調査協力依頼によると、調査の期日は、病院の入院・外来患者は10月20日(火)~22日(木)の3日間のうち、指定された1日。一般診療所と歯科診療所の入院・外来患者は、10月20日(火)、21日(水)、23日(金)の3日間のうち、指定された1日とされている1
 
1 一般診療所や歯科診療所は、木曜日を休診や午後休診としている場合もあるため、調査期日から除外しているものとみられる。
2調査が行われたのはコロナ禍の不安が高まっていた時期
調査が行われた時期には、新型コロナウイルス感染症の第2波が過ぎ、第3波の到来に向けて新規感染者数が徐々に増加していた。まだ、新型コロナのワクチンは開発されておらず、3密の回避、咳エチケット、石鹸による手洗い等の感染拡大防止策の徹底が促されていた。人々の間で感染への不安感が高まり、患者の医療施設での受診に影響をもたらしているとみられる時期でもあった。

3――患者数

3――患者数

これ以降は、統計データを概観していく。まず、患者数の動向から見ていこう。

1入院は大幅減少、外来は微減
公表された推計入院患者数と推計外来患者数を見てみよう。いずれも、調査日当日に、病院、一般診療所、歯科診療所で受療した患者の推計値だ。

2020年は、推計患者数は入院121万人、外来714万人であった(万人未満四捨五入)。特に、推計入院患者数は、2017年に比べて大幅に減少した。入院患者の数は、長らく130万人以上で推移しており、この水準を下回るのは1980年代初期以来となる。これは、コロナ禍の影響があらわれたものとみることができる。一方、外来患者については、2011年以降、微減する傾向が続いている。
図表1. 推計患者数の推移
2主な疾患で総患者数の増加傾向が続いている
つぎに、患者数の多い主な疾患や、その推移について見てみよう2。総患者数は、調査日当日には受療しなかった再来の外来患者も含めた、患者の総数の推計を表している3

傷病分類別に、総患者数のランキングをとると、次のようになる。循環器系の疾患で2000万人を超えており、これに消化器系の疾患が続いている。
図表2. 傷病分類別の総患者数ランキング
上位4つの疾患について、総患者数の推移を見てみよう。2011年以降、いずれも増加傾向にあり、特に、消化器系の疾患の伸びが顕著となっている。内分泌,栄養及び代謝疾患と、筋骨格系及び結合組織の疾患の総患者数も、年々増加している。
図表3. 主な疾患の総患者数の推移
 
2 傷病の分類は、「疾病、傷害及び死因の統計分類(基本分類)(ICD-10(2013年版))」をもとに行っている。
3 総患者数の推計には推計患者数、平均診療間隔、調整係数が用いられる。このうち、平均診療間隔は、診療間隔が極端に長い場合は継続的に医療を受けているとせず、再来ではなく初診とみなす方が適当であるとの考え方により、推計の対象となる「前回診療日から調査日までの日数」に算出上限を設けている。この算出方法は、集計開始当時の受療状況を加味して設定されたが、近年の疾病構造の変化や医療技術の向上などにより診療状況に変化が生じていることを踏まえ「患者調査における『平均診療間隔』及び『総患者数』の算出方法等の見直しに関するワーキンググループ」(厚生労働省)において検討され、2017年調査まで算出上限日数を30日(31日以上は除外)と設定していたものについて、2020年調査以降は、算出の上限日数を98日(99日以上は除外)とする見直しが行われた。図表3は、2011年、2014年、2017年の数値についてもこの見直しを適用して算出したものとしており、各年の比較のベースを揃えている。

4――受療率

4――受療率

患者数の推移は、全国で行われた医療サービスの規模の移り変わりをあらわしている。ただ、人口が変化する中で、絶対数として患者数の推移を見ても、受療の傾向がどう変化したのかはわかりにくい。そこで、患者調査では、人口10万人当たりの推計患者数である「受療率」が公表されている。

1|入院は大幅低下、外来は若干低下
2020年は人口10万人当たりで見ると、入院受療率は960人、外来受療率は5658人となった。入院受療率は、1200人を上回った1990年をピークとして徐々に低下する傾向にある。2020年には1000人を下回り、1970年代と同様の水準にまで落ち込んだ。一方、外来受療率は、かつては調査年ごとに大きな上昇・低下を見せることもあったが、2011年以降は若干低下で推移しており、2020年もその傾向が続いた。入院受療率の落ち込みには、コロナ禍の影響が反映されているものとみられる。
図表4. 受療率の推移[人口10万人当たりの推計患者数]
2女性のほうが受療率の低下傾向が強かった
つぎに、受療率を、男女別に見てみよう。近年、入院、外来とも、女性のほうが高い水準で推移している。これは、女性のほうが長寿であり、高齢層のウェイトが大きいためとみられる。

2020年の入院受療率は、男女とも低下した。低下幅は、男性よりも女性のほうがやや大きかった。

一方、外来受療率は、男性は若干上昇、女性は若干低下となった。総じて、女性のほうが受療率の低下傾向が強く見られた。コロナ禍により、高齢の女性患者の受療機会が減ったものと考えられる。
図表5. 受療率の推移(男女別)
3入院は14歳以下、外来は65歳以上の低下割合が大きかった
続いて、受療率を、年齢層別に見てみる。14歳以下、15~34歳、35~64歳、65歳以上の4つの年齢層に区分してみよう。入院については、高齢層ほど、受療率が高い傾向がある。これは、年齢が進むにつれて、病気やケガで入院するケースが増えることを示している。年齢層ごとの差が大きいため、縦軸は対数表示としてみる。2020年は、入院受療率は、各年齢層とも低下した。特に、14歳以下で、2017年からの低下割合が大きかったことがうかがえる。
図表6. 入院受療率の推移(年齢層別)
4外来は65歳以上の低下割合が大きかった
一方、外来については、4つの年齢層の中で15~34歳がもっとも低い。これまで、各年齢層とも、多少の上昇・低下はあるが、概ね横這いで推移してきた。2020年は、2017年と比べて、14歳以下と15~34歳は上昇、35~64歳と65歳以上は低下した。特に、65歳以上は低下割合が大きかった。
図表7. 外来受療率の推移(年齢層別)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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