2022年07月11日

米雇用統計(22年6月)-雇用者数の伸びは市場予想を大幅に上回る。労働市場悪化の兆しはみられない

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を上回った一方、失業率は市場予想に一致

7月8日、米国労働統計局(BLS)は6月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+37.2万人の増加1(前月改定値:+38.4万人)と、+39.0万人から小幅下方修正された前月を小幅に下回った一方、市場予想の+26.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.6%(前月:3.6%、市場予想:3.6%)とこちらは前月、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.2%(前月:62.3%、市場予想:62.4%)と上昇を見込んだ市場予想に反し、前月から▲0.1%ポイント低下した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用者数の堅調な増加が持続、足元で労働市場悪化の兆しはみられない

6月の非農業部門雇用者数(前月比)は、前月を小幅に下回ったものの、市場予想を大幅に上回っており、雇用者数の堅調な増加が持続した。後述するように広範な業種で堅調な雇用増加が続いており、労働市場の回復基調が持続していることを確認した。これで雇用者数は新型コロナ流行前(20年2月)を52.4万人下回る水準となった。このままの雇用増加ペースが継続すれば8月にも新型コロナ流行前を上回る水準に回復するとみられる。

一方、失業率は前月から横這いとなったものの、労働参加率が上昇予想に反して低下していることから、家計調査は6月の労働供給の回復がもたついていることを示した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月改定値:+0.4%、市場予想:+0.3%)と+0.3%から上方修正された前月を下回ったものの、市場予想に一致した。また、前年同月比は+5.1%(前月改定値:+5.3%、市場予想:+5.0%)と、こちらは+5.2%から上方修正された前月を下回った一方、市場予想を上回った(図表1)。時間当たり賃金は前月比、前年同月比ともに22年3月から低下基調が持続しており、賃金上昇が既に頭打ちとなった可能性を示した。

このようにみると、6月は堅調な雇用増加が持続しており、米国経済に対する景気後退懸念が高まっている中でも、労働市場悪化の兆しはみられない結果となった。

3.事業所調査の詳細:政府部門以外は広範な業種で堅調な伸びが持続

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+33.3万人(前月:+27.8万人)と前月から雇用の伸びが加速した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、金融サービスが前月比+0.1万人(前月:+1.4万人)、運輸・倉庫が+3.6万人(前月:+5.9万人)と前月から雇用の伸びが鈍化した。一方、娯楽・宿泊業が+6.7万人(前月:+6.8万人)と前月並みの伸びを維持したほか、専門・ビジネスサービスが+7.4万人(前月:+6.9万人)、医療・社会扶助サービスが+7.8万人(前月:+3.3万人)と前月から伸びが加速した。さらに、小売業が+1.5万人(前月:▲4.4万人)と前月から増加に転じた。

財生産部門は前月比+4.8万人(前月:+5.8万人)と前月から伸びが鈍化した。製造業が+2.9万人(前月:+1.8万人)と前月から伸びが加速した一方、建設業が+1.3万人(前月:+3.4万人)と鈍化するなどマチマチとなった。

政府部門は前月比▲0.9万人(前月:+4.8万人)と前月から減少に転じた。内訳をみると、連邦政府が▲1.3万人(前月:▲0.1万人)と前月から減少幅が拡大したほか、州・地方政府が+0.4万人(前月:+4.9万人)と伸びが鈍化した。
前月(5月)と前々月(4月)の雇用増加数(改定値)は前月が+38.4万人(改定前:+39.0万人)と▲0.6万人下方修正されたほか、前々月が+36.8万人(改定前:+43.6万人)と▲6.8万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲7.4万人の下方修正となった(図表3)。
 
6月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が32.08ドル(前月:31.98ドル)となり、前月から+10セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,106.76ドル(前月:1,103.31ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口の減少を伴い労働参加率が上昇

家計調査のうち、6月の労働力人口は前月対比で▲35.3万人(前月:+33.0万人)と前月から大幅な減少に転じた。内訳を見ると、就業者数が▲31.5万人(前月:+32.1万人)と大幅な減少に転じたほか、失業者数も▲3.8万人(前月:+0.9万人)とこちらも減少に転じた。非労働力人口は+51.0万人(前月:▲21.1万人)とこちらは大幅な増加に転じた。これらの結果、労働参加率は62.2%と前月から▲0.1%ポイントの低下となった(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は6月が82.3%(前月:82.6%)とこちらも前月から▲0.3%ポイント低下し22年2月以来の水準となった。男女の内訳は、男性が88.4%(前月:88.7%)と前月から▲0.3%ポイント、女性が76.4%(前月:76.6%)と▲0.2%ポイント、それぞれ低下した。

失業率は3ヵ月連続で前月比横這いとなったものの、6月は労働参加率が低下しており、労働供給の回復がもたついていることを示した。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
6月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は133.6万人(前月:135.6万人)と前月から▲2.0万人減少した。長期失業者の失業者全体に占めるシェアも22.6%(前月:23.2%)と前月から▲0.6%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は22.3週(前月:22.5週)とこちらも前月から▲0.2週短期化した。

最後に、周辺労働力人口(150.4万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(362.1万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、6月が6.7%(前月:7.1%)と前月から▲0.4%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.1%ポイント(前月:+3.5%ポイント)と前月から▲0.4%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年07月11日「経済・金融フラッシュ」)

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