2022年07月01日

米個人所得・消費支出(22年5月)-実質個人消費(前月比)は5ヵ月ぶりのマイナス、高インフレを背景に財消費が減少

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得は市場予想に一致した一方、個人消費は市場予想を下回る

6月30日、米商務省の経済分析局(BEA)は5月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.5%(前月改定値:+0.5%)と+0.4%から小幅上方修正された前月、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.5%に一致した(図表1)。個人消費支出は前月比+0.2%(前月改定値:+0.6%)とこちらは+0.9%から下方修正された前月を下回ったほか、市場予想の+0.4%も下回った。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は▲0.4%(前月改定値:+0.3%)と+0.7%から下方修正された前月を下回り、21年12月以来5ヵ月ぶりにマイナスに転じたほか、市場予想の▲0.3%も下回った(図表5)。貯蓄率1は5.4%(前月:5.2%)と前月から+0.2%ポイント上昇した。

価格指数は、総合指数が前月比+0.6%(前月:+0.2%)と前月から上昇した一方、市場予想(+0.7%)は下回った。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.3%(前月:+0.3%)と前月に一致、市場予想(+0.4%)は下回った(図表6)。前年同月比は総合指数が+6.3%(前月:+6.3%)と前月に一致、市場予想(+6.4%)は下回った。コア指数は+4.7%(前月:+4.9%)とこちらは22年2月の+5.3%をピークに3ヵ月連続で低下、市場予想(+4.8%)も下回った(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:個人消費に鈍化の兆し

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 個人消費(前月比)は4月分が大幅に下方修正されたことに加え、5月の伸びが名目ベースで小幅に留まったほか、実質ベースでは5ヵ月ぶりにマイナスに転じるなど、高インフレが財消費を押し下げていることを示す結果となった(図表1、図表5)。ガソリン価格の上昇などを受けて消費者センチメントは大幅に悪化しており、とくにで耐久財の購入意欲が減退していることを考えると、当面、財消費を中心に個人消費は軟調となる可能性があろう。

個人所得は経済対策の期限切れに伴い移転所得は減少したものの、堅調な労働市場を背景に賃金・給与が堅調な伸びとなっていることなどもあって、堅調な伸びを維持している。この結果、5月は貯蓄率が前月から小幅上昇しており、当月は所得対比で消費余力を残す結果となった。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数が小数第1位までの伸びは前月から横這いとなったものの、小数第2位までみると前月の+6.29%から+6.35%となっており、5月はエネルギーや食料品価格が前月からさらに上昇したこともあって、上昇に歯止めがかかっていない状況を示した。もっとも、物価の基調を示すコア指数は3ヵ月連続で低下しているため、今後のエネルギーや食料品価格の動向次第で総合指数はさらに上昇する可能性はあるものの、基調としての物価上昇圧力はピークアウトした可能性が考えられる。

3.所得動向:賃金・給与、自営業者所得が堅調

5月の個人所得(前月比)は、新型コロナ対策として実施された非営利病院に対する医療関連費用の補助が政策の期限切れに伴い前月から減少したこともあって、移転所得が▲0.2%(前月:+0.3%)とマイナスに転じた(図表2)。一方、堅調な労働市場を背景に賃金・給与が+0.5%(前月:+0.6%)と前月から小幅に鈍化したものの、堅調な伸びを維持したほか、自営業者所得が+1.5%(前月:+0.3%)と前月から大幅に伸びが加速した。さらに、利息配当収入も+0.5%(前月:+0.4%)と小幅に伸びが加速した。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、5月の名目が+0.5%(前月:+0.5%)と前月並みの堅調な伸びを維持した(図表3)。もっとも、価格変動の影響を除いた実質ベースは▲0.1%(前月:+0.2%)とこちらは前月からマイナスに転じており、可処分所得の伸びが物価上昇に追いついていない状況を示した(図表3)。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:耐久財消費が軒並み減少

5月の名目個人消費(前月比)は、財消費が▲0.7%(前月:+0.2%)とマイナスに転じた一方、サービス消費は+0.7%(前月:+0.7%)とこちらは前月並みの堅調な伸びを維持した(図表4)。

財消費は、耐久財が▲3.2%(前月:+1.6%)と大幅なマイナスに転じた一方、非耐久財は+0.7%(前月:▲0.6%)とプラスに転じた。

耐久財では、自動車・自動車部品が▲7.1%(前月:+3.4%)と大幅なマイナスに転じたほか、家具・家電が▲0.6%(前月:+0.7%)、娯楽財・スポーツカーが▲1.5%(前月:+0.4%)といずれもマイナスに転じた。

非耐久財では、衣料・靴が前月比横這い(前月:+0.5%)と前月から伸びが鈍化した一方、食料・飲料が+0.7%(前月:▲0.2%)、ガソリン・エネルギーが+4.2%(前月:▲6.5%)とプラスに転じた。もっとも、食料・飲料およびガソリン・エネルギーの実質ベースでの消費(前月比)は前月に続きマイナスとなっているため、名目ベースのプラス転換は価格上昇による影響と考えられる。

サービス消費は、金融サービスが▲0.6%(前月:横這い)と前月からマイナス幅が拡大したほか、住宅・公共料金が+0.7%(前月+1.2%)、外食・宿泊が+0.4%(前月:+1.9%)、輸送サービスが+1.5%(前月:+2.6%)と伸びが鈍化した。一方、娯楽が+1.0%(前月:+0.9%)、医療サービスも+0.6%(前月:横這い)と前月から伸びが加速するなど、マチマチの結果となった。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:エネルギー、食料品価格ともに前月比、前年同月比の伸びが加速

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+4.1%(前月:▲2.8%)と、21年5月以来11ヵ月ぶりにマイナスに転じた前月から再びプラスに転じた(図表6)。食料品価格指数は+1.2%(前月:+1.0%)と、こちらは16ヵ月連続のプラスとなったほか、前月から伸びが加速した。

前年同月比は、エネルギー価格指数が+35.8%(前月:+30.5%)と15ヵ月連続で2桁の上昇となったほか、05年9月(+36.8%)以来の水準となった(図表7)。また、食料品価格指数は+11.0%(前月:+10.0%)と59ヵ月連続のプラスとなったほか、こちらは81年2月(+11.1%)以来の高い伸びとなった。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年07月01日「経済・金融フラッシュ」)

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