2022年06月21日

医療機器の需給動向-生産、国内向け出荷、輸出入全てが年200億円超の医療機器は?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

日本の成長戦略の重要な分野として、医療機器が挙げられる。医療機器には、コンピューターや、高度な精密機械技術を要するものがある。また、体内組織を代替する人工物の製造には、素材・材料関連の高度な技術が用いられる。医療機器の製造には、これらの技術力を生かすことができる。

今後、日本をはじめ、各国で高齢化が進み、医療の需要は高まることが必至である。それに伴い、医療機器のニーズは、量と質の両面で、高まっていくこととなろう。

本稿では、医療機器について、生産、国内向け出荷、輸出入の動向を概観する。そして、医療機器の需給における日本の強みや課題を見ていくこととしたい。

2――医療機器の生産・出荷と輸出入の概要

2――医療機器の生産・出荷と輸出入の概要

まず、日本の医療機器の生産等の動向を、「薬事工業生産動態統計」(厚生労働省)により把握する1。2020年には、国内向け出荷は3.94兆円、輸出は0.99兆円であった。これらの需要に対し、生産2.43兆円、輸入2.64兆円の供給で対応した2,3。2019年に続いて、輸入が生産を上回る状況となっている。
図表1. 医療機器の出荷・生産・輸出入 (2020年)
これを、10年前の2010年と比べてみよう。需要は、国内向け出荷は1.72倍、輸出は2.19倍に伸びている。これに対して供給は、生産は1.42倍の伸びにとどまり、輸入が2.50倍に伸びて、需要を満たす形となっている。医療機器は、輸入依存を強めている。(なお、米ドル/円の為替レートは、2011~12年に円高となったが、その後は円安に振れた。2020年は2010年よりも20円近くの円安となった。輸出入金額の推移を、為替の動きと比較しても、明確な関連性は見出せないものとみられる。)4
図表2. 医療機器の10年間の伸び
 
1 本稿では、金額は、表示単位未満を四捨五入して表示する。
2 薬事工業生産動態統計は、国内の生産力の実態を明らかにすることを目的としており、貿易実態を把握するための利用には適さないとされる。医療機器の輸出入は、最終製品が対象となる。例えば、製造販売所が、国内の輸出業者に製品を販売して、それを輸出業者が輸出する場合、輸出業者への国内向け出荷とみなされ、輸出には含まれない。また、調査客体を製造販売業の許可を受けた製造販売業者としているため、日本での許可を得ずに海外で現地生産し海外展開している製品は、この調査では集計の対象外となる。この統計を利用して、数値をみる際には、こうした点に注意が必要となる。
3 国内向け出荷と輸出の合計額と、生産と輸入の合計額の間に差が生じているが、この分は、医療機器の製造販売業者の在庫の増減となっている。
4 新調査からは、より効率的に調査を実施し、迅速に高精度の調査結果を公表することができるよう、調査方法を変更して実施。(主な変更点)・調査客体は、製造販売業者のみとした。(製造業者は調査客体ではなくなった。) ・原則オンライン報告とした。・医薬品製造業者の従業者数の報告を廃止した。・衛生材料については、医療機器又は医薬部外品として報告することとした。・製造業者情報について、国内だけではなく国外の製造業者情報も報告することとした。
なお、変更内容の詳細は、「薬事工業生産動態統計調査の調査方法の変更について(通知)」(平成30年4月10日付け医政経発0410第1号厚生労働省医政局経済課長通知)に記載されている。

3――医療機器(類別)のランキング

3――医療機器(類別)のランキング

一口に医療機器と言っても、X線CTやMRI5のような高額な画像診断システムもあれば、注射器具のような消耗品的な処置用機器もある。そこで、さまざまな医療機器について、薬機法上の一般的名称の類別6をもとに、「薬事工業生産動態統計」(厚生労働省)の金額を見ていくこととする7
 
5 CTはComputerized Tomography(コンピューター断層撮影法)、MRIはMagnetic Resonance Imaging(磁気共鳴映像法)の略。
6 医療機器の一般的名称に関するコードとして、JMDNコード(Japanese Medical Device Nomenclature)がある。独立行政法人医薬品医療機器総合機構規格基準部により、その一覧が公表されている。
7 なお、「薬事工業生産動態統計」では、利用上の注意として、1つのJMDNコードにつき、報告した製造販売業者が2社以下の場合、当該JMDNコードについては統計表に掲載せず、類別コードごとに「その他」としてまとめて掲載する旨が述べられている。製造販売業者の経営情報を保護するための秘匿処理とみられる。
1国内向け出荷 : カテーテル、人工関節などが多い
まず、2020年の生産金額が1000億円を超えている上位10類別を示すと、次の表のとおりとなる。この10類別で、国内向け出荷全体の7割以上を占めている。

1位から3位までには、循環系のカテーテルが中心の医療用嘴管及び体液誘導管や、人工股関節・人口膝関節などの整形用品、血液透析濾過器や心臓ペースメーカなどの内臓機能代用器が入っている。

4位には、コンタクトレンズなどの視力補正用レンズが入っており、医療機器の中で一定のシェアを占めていることがわかる。5位には超音波画像診断装置(エコー)などの理学診療用器具、6位には、MRIなどの内臓機能検査用器具、7位にはCTなどの医療用エックス線装置及び医療用エックス線装置用エックス線管が入っており、診断装置や器具が医療機関で幅広く用いられている様子がうかがえる。
図表3. 国内向け出荷金額上位10類別
2輸出 : 内視鏡、分析機器などが多い
つぎに輸出を見ていく。2020年の輸出金額上位10類別を示すと、次の表のとおりとなる。この10類別で、輸出全体の8割以上を占めている。

1位には、十二指腸鏡や大腸鏡などの内視鏡からなる医療用鏡が入っている。2位は、自動分析装置や測定装置などの血液検査用器具。3位は医療用嘴管及び体液誘導管となっている。4位以下には、医療用エックス線装置及び医療用エックス線装置用エックス線管、内臓機能代用器、理学診療用器具など、診断装置・器具が並んでいる。

このように、輸出の上位には、高度な技術を備えた医療装置や医療器具が多い。日本の高度医療機器が、海外から求められていることがうかがえる。
図表4. 輸出上位10類別
2020年の主な輸出内容を輸出先ごとに見ると、上位は、次の表のようになる。中国への医療用嘴管及び体液誘導管、医療用エックス線装置及び医療用エックス線装置用エックス線管の輸出。アメリカへの医療用嘴管及び体液誘導管の輸出。ドイツや韓国への血液検査用器具の輸出が大きい。
図表5. 医療機器の主な輸出先 (2020年)
3生産 : 内視鏡、カテーテル、透析装置が多い
つづいて生産を見ていく。2020年の生産金額上位10類別を示すと、次の表のとおりとなる。この10類別で、生産全体の7割以上を占めている。

1位には、大腸鏡や十二指腸鏡などからなる医療用鏡が入っている。2位は、カテーテルなどの医療用嘴管及び体液誘導管となっている。3位は、血液透析に用いる内臓機能代用器となっている。

4位以下には、医療用エックス線装置及び医療用エックス線装置用エックス線管、血液検査用器具、内臓機能検査用器具がつづいている。

日本の医療機器生産は、高度医療機器が中心となっている様子がうかがえる。
図表6. 生産金額上位10類別
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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