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コロナ禍からの「移動」の再生について考える~不特定多数の大量輸送から、特定少数の移動サービスへ~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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1――はじめに
「オンラインで生活は事足りる」という人にとっては問題が無いように思われるが、新たな出会いや、家族や友人らと交流する機会が減ったことで、若い世代を筆頭に、孤独や孤立への不安を感じている人もいる。高齢者にとっては、外出が減ると、身体を動かしたり、他者とコミュニケーションしたりする機会が減り、健康面に悪影響を及ぼす。また地域にとっては、「外出ついでに買い物や食事をする」という、移動に伴う消費が減り、移動の経済外部効果が得にくくなる。それによって地域の小売店などが廃業すれば、地域の持続可能性が下がる。このように、移動が減ることは、個人や地域社会に大きな影響を与える。
筆者は、コロナ禍から約1年後、人々の「移動」が変化していることについて、基礎研レポート「アフター・コロナの『移動』の形とモビリティの在り方を考える~定型的な輸送業務から、高付加価値化した移動サービスへ~」(2020年11月10日)にまとめた。その後もコロナ禍は収束せず、人々の日常は回復していないため、コロナ禍2年余の現時点で、移動の変化について、改めて筆者のこれまでのレポ―トや先行研究で整理し、新たな分析を加えながら、今後の移動をどう再生していくかについて考えたい。
2――コロナ禍による移動の減少
コロナ禍で起きた「移動」に関する最大の変化は、人々の移動の総量が減少したことであろう。まずは、移動回数の減少を示唆する研究から紹介したい。
人口流動の動向について、スマートフォンの位置情報を用いたビッグデータ解析によって推計し、移動が減ったことを示したのが、次の先行研究である1。Y. Hara and H.Yamaguchi (2021)は、NTTドコモのモバイル空間統計を用いて、2020年1月から5月までの、国内における人の移動を示す近似的トリップ数(「トリップ」は移動の単位)を推計した2。その結果、コロナ前(2020年1月)に比べて、公立学校が一斉休校になった2020年3月には、1週間平均の近似的トリップ数は4%減少していた。1回目の緊急事態宣言が発令された同年4月には、さらに落ち込んで4.6%減少し、5月のゴールデンウィークに最少になった。段階的に宣言が解除された5月中旬以降は再び増え始めたが、元の水準に比べれば減少傾向が続いた3。
都道府県別に減少幅を見ると、東京都(▲45%)、大阪府(▲26.9%)、神奈川県(▲26.1%)、愛知県(▲12.7%)など、都市部では大きく減少していたが、人口密度の小さい地方では減少幅が1%以内の県もあり、寧ろ増加していた県もあった。
また、都道府県をまたぐ近似的トリップ数は、緊急事態宣言発令中には、コロナ前に比べて半減していた。コロナ前に見られた神奈川、埼玉、千葉から東京都内への大量流入や、東京都内から全国への流出も減少しており、リモートワークによって首都圏間の通勤が減ったことや、東京から全国への旅行が自粛されたことが示された。このことは、2|で説明するように、コロナ禍における移動が長距離から短距離へと変化していることを示しているだろう。
1 坊美生子(2022)「コロナ禍における高齢者の移動の減少と健康悪化への懸念~先行研究のレビューとニッセイ基礎研究所のコロナ調査から~」『基礎研レポート』2022年3月25日
2 Yusuke Hara and Hiromichi Yamaguchi, 2021. Japanese travel behavior trends and change under COVID-19 state-of-emergency declaration: Nationwide observation by mobile phone location data. Transportation Research Interdisciplinary Perspectives. Vol.9, 100288,.
3 ただし、この研究はスマートフォンの位置情報を利用したものであることから、スマホの普及率が低い80歳以上の高齢者や14歳以下の子どもたちには適用が困難だと論文中で説明されている。
コロナ禍における移動の変化として、移動回数が減少しただけではなく、移動距離も短くなっている。
国土交通省が2020年8月にインターネットで行った生活行動調査によると、新型コロナ流行前に比べて、「外食」や、「映画鑑賞・コンサート・スポーツジム等の趣味・娯楽」を行う場所は、「自宅から離れた都心や中心市街地」が1~2割減少し、「自宅周辺」が1割以上増加していた4。感染リスクを下げるために、人々が移動距離(時間)も短縮したことで、日々の活動場所が市街地から自宅周辺にシフトしている傾向が分かった。
4 国土交通省 「全国の都市における生活・行動の変化―新型コロナ生活行動調査概要」(2020年10月)。
特に高齢者に焦点を当てて、生活活動時間の変化などについて分析したのが、筆者の基礎研レポート「コロナ禍における高齢者の活動の変化と健康不安への影響」(2022年1月31日)である。
それによると、ニッセイ基礎研究所が2021年12月にインターネット上で実施した「第7回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」の結果、新型コロナ感染拡大前(2020年1月頃)と比較して、「移動時間(通勤・通学を含む)」が「減少」「やや減少」と回答した人は、全体では計21.2%に上った(図表1)。これに比べて、「増加」「やや増加」は計5.5%、「変わらない」は63.5%だった。
これを年代別にみると、「減少」「やや減少」と回答した人は30歳代から50歳代では2割を下回ったが、60歳代では23.1%、70歳代では26.8%となるなど、年代が高い方が、減少幅が大きくなる傾向となっていた。感染した場合の重症化率の高い高齢者の方が、より外出自粛傾向が強いことを示している。
3――移動手段の変化~公共交通の減少、パーソナルな移動手段へのシフト~
コロナ禍以降、人々の間で、人混みを避ける意識が高まり、不特定多数が乗り合せる公共交通の利用控えが続いている。反対に、パーソナルな移動であるマイカーの利用が増えている。
ニッセイ基礎研究所「2020・2021 年度特別調査 『第7回 新型コロナによる 暮らしの変化に関する調査』調査結果概要」(2022年1月20日)を一部レビューしながら、この点を確認したい。
この調査は3か月に1回ごとを目安に、定期的に実施しているが、最新の2021年12月時点では、コロナ感染拡大前と比べて「電車やバス」の利用が「減少」「やや減少」と回答した人は合わせて4割を超えた(図表2)。この割合は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客集団感染5から約4か月後の2020年6月に行った調査時点からほぼ変わっていない。この間、公共交通の利用に関して「マスク着用」や「大きな声での会話自粛」、「窓開け」など、事業者側、乗客側双方の感染予防対策は確立したが、それにも関わらず、人々の公共交通を避ける傾向は継続し、寧ろ定着したことが分かる。
他方、自家用車は「増加」と「やや増加」の合計が25.7%に上った。自家用車の利用について、2020年6月時点からの調査結果の推移を見ると、増加幅は次第に拡大している点が大きな特徴である。また、「自転車」も2021年12月時点で「増加」と「やや増加」の合計が13%となっており、自動車同様、パーソナルな移動手段として選好されていることが分かる。
一方、「徒歩」については「増加」と「やや増加」の合計が23.4%となった。徒歩の増加については、目的地が従来と同じであっても、公共交通の利用を避けて歩いて移動するようになったケースや、1―2|で述べた「移動距離の短縮」の影響によって、そもそも外出先が近所になったために、従来は公共交通やマイカーで移動していた人が歩くようになった、というケースがあると考えられる。
他方で、徒歩は「減少」と「やや減少」の合計も1割を超えた。これは、従来行っていた散歩や近所への外出を自粛して、歩行量が減った人がいるためだと考えられる。「移動回数の減少」の影響だとみられる。「減少」と「やや減少」の合計を年代別でみると、は、60歳代で10.6%、70歳代で11.6%だった。
5 厚生労働省(2020)「横浜港に寄港したクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について 」報道発表、2020年2月5日
(2022年03月31日「基礎研レポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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