- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- アジア経済 >
- なぜ、韓国では新規感染者数が増加し続けているのか?
その結果、2月26日から始まった新型コロナワクチンの接種は高齢者を対象にアストラゼネカ社製のワクチンが接種されることになった。その後、ファイザー社製やモデルナ社製の供給が増えたことにより、アストラゼネカ社やヤンセンファーマ社製の接種は大きく減少したものの、2021年11月23日時点の1次接種者のうちアストラゼネカ社製やヤンセンファーマ社製のワクチンを接種した人はそれぞれ11,116,361人(26.3%)と1,497,303人(3.5%)に達し、全体の約30%を占めた。
厚生労働省のホームページでは、ファイザー社製やモデルナ社製の新型コロナワクチンの発症予防効果はそれぞれ約95%と約94%と、アストラゼネカ社製のワクチンの約70%より高い効果があると紹介している。また、アストラゼネカ社製のワクチンは他のワクチンに比べて感染を防ぐ中和抗体の減少が速いことが指摘されている。
この点を参考にすると、日本ではファイザー社製やモデルナ社製を中心に接種が行われたことに対して、韓国ではアストラゼネカ社製とヤンセンファーマ社製の接種者の割合が約3割を占めていることが2021年11月と12月における日韓の新規感染者の差に影響を与えたのではないかと推測される。
そして、二番目の原因としては、韓国政府が、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために続けてきた厳しい行動制限を大きく緩和したことが挙げられる。韓国政府は10月末時点で1日の新規感染者数は依然1,500~2,200人に達していたにもかかわらず、ワクチンの接種完了率が70%を超えたのをきっかけに、経済活動を優先させる方向にコロナ対策を切り替え、2021年11月1日から第1段階の行動制限緩和策を実施した。
新たな対策では午後10時までとしていた飲食店の店内営業時間の規制を撤廃したほか、屋外スポーツイベントの観客も定員の50%まで入場できるように緩和した。また、ワクチン接種を条件に最大8人に制限していた私的な集まりも、ワクチン接種の有無に関係なく首都圏では最大10人まで、非首都圏では最大12人まで許容することを決めた。このように行動制限を大きく緩和したことが原因となっているのか、新規感染者数は未だにじわじわと増加し続けている状況だ。
最後に筆者が考える3番目の原因は、韓国の気温が日本より低い点だ。新規感染者が最も多く発生しているソウルの2021年10月と11月の平均最低気温はそれぞれ11.6度と4.4度で、同じ時期の東京の平均最低気温15.2度と8.3度を大きく下回る。韓国では2020年も気温が下がる11月中旬から新規感染者が増加しはじめ、クリスマスに新規感染者数がピークに達した経験がある。
韓国政府は新型コロナウイルスのさらなる拡大を防ぐため、( 1)ファイザー製やモデルナ製のワクチンを中心に2021年11月から3回目の接種を実施すると共に(2022年1月13日現在の接種率は43.1%)、( 2)飲食店の営業時間の短縮や人数制限、防疫パス義務適用施設の拡大など規制を強化した。
以上のような韓国の事例を参考すると、日本でもより早く3回目の接種を行う必要があるかも知れない(2022年1月13日現在の接種率は0.8%)。さらに、人々の気の緩みを最大限抑制することにも努めながら、新型コロナウイルスに対応していく必要があるだろう。
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
(2022年02月08日「基礎研マンスリー」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年05月10日
米国消費者の生命保険ニーズギャップは過去最大-コロナ禍以降、ニーズギャップは拡大- -
2024年05月10日
英国金融政策(5月MPC公表)-6会合連続で政策金利据え置きを決定 -
2024年05月10日
米労働市場の減速は続くか-中小企業を中心に労働需要が低下するほか、移民増加が賃金上昇圧力を緩和する可能性 -
2024年05月10日
投資部門別売買動向(24年4月)~個人は2カ月連続買い越し~ -
2024年05月10日
Japan Real Estate Market Quarterly Review-First Quarter 2024
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【なぜ、韓国では新規感染者数が増加し続けているのか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
なぜ、韓国では新規感染者数が増加し続けているのか?のレポート Topへ