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韓国で1日あたりの新規感染者数が60万人を超えた理由

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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では、2022年1月末以降に韓国で感染が爆発的に増え続けたのはなぜだろうか。韓国政府は1日あたりの新規感染者数が60万人を超えた3月17日に行ったブリーフィングにおいて、1日あたりの新規感染者数が前日(16日)より20万人も増加した理由を、「『専門家用迅速抗原検査』で陽性が確認された人を感染者として認めたことにより、「隠れ感染者」が新規感染者として含まれるようになったことと、前日までに感染者として認められていなかった人を新規感染者としてカウントしたことが原因で新規感染者が大きく増加した」と報告した。
実際に韓国政府は感染拡大によりPCR検査が急増し、検査の処理等が限界に達すると、3月14日からはPCR検査に加え、地域の病院や医院等専門機関での迅速抗原検査の陽性者も感染者と見なすように制度を変更した。一方、3月13日までは、迅速抗原検査で陽性となった場合は、改めてPCR検査を行い、そこで陽性が判明した場合に初めて「感染者」として認めていた。最近は市販の抗原検査キットを使って個人自らが検査をする人も増えている。このように検査数が増え、「感染者」の基準が変更されたことが、新規感染者数が急増した1番目の原因だと考えられる。
新規感染者数が急増した2番目の原因としては、新型コロナウイルスに対する韓国政府の規制緩和が挙げられる。韓国政府は経済に与える影響を考慮したうえで、「オミクロン株」による重症化率は低いと判断し、飲食店の営業時間の制限を緩和するなどの規制緩和を続けた。韓国政府が最近発表した新型コロナウイルスに対する主な規制緩和措置は、次の通りである。
- 2022年1月28日:2月4日から入国者に対する防疫体制を一部変更すると発表 → 海外からの入国者に対する隔離措置期間を10日間から7日間に短縮、南アフリカ共和国など11カ国の防疫強化国の指定を解除。
- 2022年2月28日:「防疫パス(ワクチン接種証明)」の運用を一時中断 → 飲食店やカフェなど不特定多数の者が利用する11種の施設について、利用する際に提示が義務付けられている「防疫パス(ワクチン接種証明)」の運用を3月1日から一時中断すると発表。
- 2022年3月4日:新型コロナウイルス対策の社会的距離確保の追加緩和措置を発表 → 遊興施設や食堂・カフェ、カラオケ、映画館・公演場などの営業時間を、それまでの午後10時から午後11時まで1時間延長。臨時的に3月5日から3月20日まで適用(3月21日以降は状況を見ながら調整)。
- 2022年3月11日:海外からの入国者のうちワクチン接種完了者に対する隔離免除措置を3月21日から実施すると発表 → 隔離免除の対象者は、WHO緊急承認ワクチンの予防接種完了基準によって、(1)2回目のワクチン(ヤンセンは1回)を接種してから14日以上経過し、180日以内の者、(2)3回目のワクチン接種を完了した者。 更に、4月1日以降は海外で接種し、接種履歴を国内で登録していない人も対象((1)と(2)が該当)。また、4月1日から全ての海外からの入国者は、移動する際に公共交通機関が利用可能。
- 2022年3月18日:私的な集まりの人数制限を緩和すると発表 → 6人までに制限していた私的な集まりの人数制限を、3月21日からは最大8人に緩和すると発表。遊興施設や食堂・カフェ、カラオケ、映画館・公演場などの営業時間は午後11時までを維持。
新規感染者数が急増した3番目の原因としては、3月9日に行われた第20代大統領選挙の前に、人が集まる機会が増えたことが挙げられる。韓国では2月15日から3月8日まで22日間にわたり選挙運動が行われ、国中で「密」な状態の集会が連日行われた。実際、2月15日に5万人前後であった1日あたりの新規感染者数は2月16日には9万人、2月18日は10万人を超えて増え続け、大統領選挙が行われた3月9日には342,430人となり、過去最高を更新した。
最後に4番目の原因として挙げられるのが、「気の緩み」だ。韓国政府がオミクロン株による感染は比較的に重症化率や致死率が低いと発表したうえで、防疫対策の緩和を進めた影響等により、人々の間で「気の緩み」が広がった。さらに、感染者の急増により韓国政府が誇っていた「K防疫」の隔離措置が機能できなくなった。2月15日には新型コロナウイルスに感染した70代の男性が在宅療養中にチムジルバン(サウナ)で倒れ、その後死亡する事件も起きた。
上述した内容が、最近韓国で新規感染者数が急増している主な要因だと考えられる。韓国の文化体育観光部は2021年12月にパンフレット『大韓民国 危機を越えて先進国へ』を発行し、「K防疫」の成果を誇った。しかし、その後感染が急拡大し、3月末時点で国民の2割以上が新型コロナウイルスに感染したことにより、「K防疫」の成果を語ることの意味はなくなってしまった。大統領の任期まで残り1カ月となった文在寅大統領に、もはや「K防疫」の復活や、新しい防疫対策を期待することは難しいだろう。5月に誕生する新政権が、どのような方法で新型コロナウイルス対策を推進していくのか、今後の動向に注目したい2。
1 金明中(2022)「なぜ、韓国では新規感染者数が増加し続けているのか?」基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.299]
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70150?site=nli
2 本稿は、「韓国で1日あたりの新規感染者数が60万人を超えた理由」ニューズウィーク日本版 2022 年3月29日を加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2022/03/60.php
(2022年03月31日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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