コラム
2021年09月28日

コロナ感染拡大以降、日韓両国でギグワーカーが増加-ギグワーカーの実態把握と処遇改善を急げ-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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新型コロナウイルスが長期化している中で日韓両国においてギグワーカー(gig worker)が増加している。「ギグワーク」とは、個人がインターネットの仲介プラットフォームなどを通じて企業と雇用関係を結ばずに請け負う単発の仕事のことを意味し、ギグワークを行う人は「ギグワーカー」と呼ばれる。
 
インターネットのプラットフォームを通じて単発の仕事を請け負う働き手の名称は一つに統一されず、ギグワーカー以外にもフリーランス(freelance)、クラウドワーカー(crowd worker)、プラットフォーム労働者(platform worker)などの言葉が混在して使用されている。
 
辞書等の意味合いでは、プラットフォームには、(1)駅などで、客が乗り降りし、荷物を積みおろしする場所と、(2)オペレーティングシステムやハードウェアなど、コンピューターを動作させる際の基本的な環境や設定などの意味があり、クラウドソーシングでは、後者の意味が使われている。
 
最近、スマートフォンやタブレット PC が普及することにより、プラットフォームはまるで既存の労働市場のように需要と供給をつなげる役割をしている。その代表的な例とし Uber(配車サービス)、UberEATS(オンラインフード注文・配達) 、Task Rabbit(お手伝いのマーケットプレイス)などが挙げられる。
 
また、このような例以外にもレストランやカフェ等で時間単位で働く人や、副業としてギグワーカーで働く人も増えている。但し、ギグワーカーについての国の調査はなく、その実態は明確にされていない。
 
そこで、韓国労働研究院と雇用労働部はプラットフォーム労働者(韓国ではギグワーカーと類似の意味として使われている)の実態を把握するために、2020年10月から11月にかけて15歳以上65歳未満の9万人に対してアンケート調査を行った。

調査では、「お客様や仕事を見つけるためにウェブサイトや携帯のアプリケーション等オンラインプラットフォームを利用しており、オンラインプラットフォームが求人者と求職者の取引を調整したケース」を「狭義のプラットフォーム労働」として定義した。
 
一方、「狭義のプラットフォーム労働」に、単純にオンライン上の求人求職サイトの情報を利用した場合(仕事を探している者が求人求職サイトの情報を利用しただけで、プラットフォームが求人者と求職者の取引を調整していないケース)を加えたケースを「広義のプラットフォーム労働」として定義した。
 
調査では、「狭義のプラットフォーム労働」で働く者は回答者の0.92%であり、この結果を反映した韓国の「狭義のプラットフォーム労働者」は約22万人になると推計した。そして、「広義のプラットフォーム労働者」は7.46%で、179万人になると推計結果を発表した。
 
また、プラットフォーム労働が本業である場合は1カ月平均15日(1日平均8.7時間)を働き、副業である場合は1カ月平均10日(1日平均6.5時間)働くことが明らかになった。そして、1カ月平均収入は本業である場合238.4万ウォン(約22.4万円)、副業である場合54.8万ウォン(約5.1万円)であった。
 
では、日本はどうだろうか。日本におけるギグワーカーの実態は国による調査がまだ実施されておらず、正確な実態は把握されていない。ランサーズ株式会社1の推計によると、日本におけるフリーランスの数は2020年の1,062万人から2021年には1,670万人に増加している。この中の多くがオンラインプラットフォームを利用して仕事を請け負っていると考えられるが、上述した韓国労働研究院の定義等がないので、ギグワーカーの実態を正確に把握することはできない。
 
ギグワーカーは個人事業主とみなされ、最低賃金法による最低賃金の対象外で、企業の福利厚生制度や公的社会保険制度も適用されないケースが多く、雇用保険等の労働者を保護する法律等の整備が要求されている。実際、イギリスでは今年の2月、ギグワーカーの労働者性を認める判決が出るなど、各国ではギグワーカーの処遇水準を改善するための法改正や新制度の創設の動きが速いペースで進んでいる。
 
日本では2021年4月から「同一労働同一賃金」が中小企業まで適用されたことにより、今後正規と非正規の従業員の待遇格差は縮まると期待されているものの、ギグワーカーの処遇改善に対する対策はまだ十分に議論されていない。
 
労働基準法などが適用されず法的に保護されない彼らをこのまま放置しておくと、新しいワーキングプアが生まれ、貧困や格差がより拡大する恐れがある。これを防ぐためにはまず、ギグワーカーの実態を正確に把握する必要があり、それは政府の主導の下で行われるのが望ましい。
 
企業は仕事をギグ化することにより人材を有効に活用し、ビジネスを成長させることができる。一方働き手は隙間時間を活用しながら多様な経験を積み、次の仕事に繋げることが可能である。ギグワークが企業のビジネスチャンス拡大と働き手の多様な働き方や成長等につながるように、法律の改正や法解釈の明確化等の議論を急ぐ必要がある。
 
1 企業とフリーランスをオンライン上で直接マッチングさせるプラットフォームの運営等をしている会社であり、2021年4月時点で129万人が登録。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2021年09月28日「研究員の眼」)

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