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日韓の最低賃金が逆転?-2022年は両国とも引き上げを決定-
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
文大統領は、2017年の大統領選挙時に「3年(2017~2020年)以内に最低賃金を1万ウォンとする」という公約を掲げ、それを実現するために、2018年には16.4%、2019年には10.9%と2年連続で最低賃金を2桁引き上げた。しかしながら、2年間で29%も最低賃金が上昇したことで、飲食店や小売店など自営業者の人件費負担が急増し、廃業や解雇が続出し、雇用悪化につながった。
前年までの無理な最低賃金の引き上げで雇用状況が悪化すると、文政権は政策の失敗を認め、2020年の最低賃金の引き上げ幅を大きく縮小し、引き上げ率は2.8%に止まった。さらに、2020年7月に決まった2021年の最低賃金の引き上げ率は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、1.5%と韓国で最低賃金制度が施行された1988年以降、最低を記録した。
一方、日本でも7月14日に、中央最低賃金審議会の小委員会が開かれ、2021年度の最低賃金を全国平均で28円(3.1%)引き上げ、時給930円とすることが決まった。引き上げ額28円は2002年度に時給で示す現在の方式となってから過去最大である。
今まで韓国の最低賃金の引き上げ率は日本より高い水準を維持してきた。例えば、1990年から2022年までの最低賃金の対前年比引き上げ率の平均は、日本が2.0%であるのに対して韓国は8.7%であり、日本より4倍以上も高い。韓国の最低賃金の対前年比引き上げ率が日本を下回ったのは、文政権が最低賃金の大幅引き上げ政策の失敗を認めて決まった2020年のみである。
分析の結果、韓国と比べた日本の最低賃金の水準はアジア通貨危機の問題がある程度収拾された1999年以降縮小傾向に転じ、1999年の4.78倍から2022年には1.06倍まで縮まった(1997年はアジア経済危機によるウォン安の影響で日韓の最低賃金の差が拡大)。
現在はどうか。韓国の2022年の最低賃金を7月14日の為替レートで日本円に換算すると約880円となり、日本の全国加重平均額である930円や、東京(1,013円)、大阪(964円)などの最低賃金を下回る。しかしながら、沖縄(792円)や九州地方(792円から842円)よりは高い。実際、韓国の2021年の最低賃金(838円)は日本の26都道府県より高かった。日韓の最低賃金の引き上げ率を考慮すると、今後数年内に韓国の最低賃金が日本を上回る可能性が高い。
幸福度は所得(一人当たりGDP)以外にも、社会的支援の充実度、健康寿命、人生の選択の自由度、寛容さ(1ヶ月以内に寄付をしたかなど)、社会の腐敗の少なさを反映して測定される。
従って、今後韓国政府は幸せの源は「所得」だけではないことを認識し、社会的支援を強化し人生の選択の自由度を高めるための政策を合わせて推進する必要がある。一方、日本政府はグローバル人材を獲得するなど労働力不足の問題を解決するためにも賃金水準の改善に力を入れなければならいだろう2。
1 実際に適用されるのは、韓国は2022年1月から、日本は2021年10月頃からであり、以下の日韓対比ではこれを2022年の数字とする。
2 本稿は、「最低賃金の日韓逆転は遠くない?──2022年は両国とも引き上げを決定」ニューズウィーク日本版 2021 年 7 月24日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/07/2022.php

03-3512-1825
(2021年07月27日「研究員の眼」)
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