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コロナで拡大した格差をどう解消する? 韓国次期大統領候補たちの提案

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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<ベーシックインカムのような一律給付型、儲かった企業と損をした企業の利益シェア、政府による損失補償などが挙がっているが、具体的政策に落とし込めるものはどれか>
次期大統領候補として、最近の世論調査で最も高い支持率を得ている李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事は、ベーシックインカムの考え方に基づいた「災難基本所得」を継続して推進している。彼は、京畿道の城南市長に在任していた2016年に、城南市に居住している満24歳(以下、24歳)のすべての若者に四半期ごとに25万ウォン(約22,200円)の地域通貨(1年に4回、合計100万ウォン)を、「青年配当」という名称で支給した。対象を24歳に限定した理由は、 大学を卒業する年齢である24歳に就職できなかった若者等を支援するためであった。
2018年6月に京畿道知事に当選してからは、城南市で実施した「青年配当」を「青年基本手当」という名称に変更し、2019年から京畿道の24歳のすべての若者に支給した。
さらに2020年5月には新型コロナウイルス感染症に対する緊急経済対策として、京畿道に居住しているすべての人(外国人を含む)に一人当たり10万ウォン(約9,360円)の災難支援所得を支給し、今年の2月には第2次災難支援所得を支給すると発表した。
プラットフォーム企業の利益を分配
一方、親文在寅派の李洛淵(イ・ナギョン)「共に民主党」代表は、新型コロナウイルス感染症による所得二極化を乗り越えるための対策として「コロナ利益共有制」の導入を検討している。新型コロナウイルス感染症による非対面取引の活性化で多くの収益を上げたプラットフォーム業種等の企業が、新型コロナウイルス感染症の影響により、被害を受けた中小企業と利益を分かち合うことで所得の再分配を促す制度だ。
李洛淵代表は1月12日、仁川新港を訪れ「コロナ禍の二極化を克服するためには、私たちの制度や財政、福祉に頼るだけでなく、民間でも痛みを分かち合うことが必要だ」と述べた。また、「文在寅大統領の大統領選挙公約であった『協力利益共有制」の内容を見ると、インセンティブを提供し、共有を誘発する方式があった。今回もそのような方式を援用することができるだろう」と話した。
自営業者への損失補償を政府に義務化?
一方、丁世均(チョン・セギュン)首相は「損失補償制度」の立法化を推進している。「損失補償制度」は、国からの営業制限措置に応じた自営業者の損失を国が補償することを法的に義務化する制度である。新型コロナウイルス感染症の経済対策として3度支給された「緊急災難支援金」が一時的な措置であるのに対して、「損失補償制度」は自営業者の損失補償を法的に義務化する点で大きな違いがある。
まだ具体的な内容は決まっていないものの、現段階では自営業者が損した売上金額の50%(一般業種)から最大70%(集合禁止対象業種)を国が保証する案が出ている。この案を実現するためには1カ月に約24.7兆ウォンが必要で、4カ月間実施した場合、約100兆ウォンという莫大な予算がかかると推計されている。
利益共有制にはインセンティブが必要
但し、上記の対策を実施するためには課題も多い。まず、李在明京畿道知事の「災難基本所得」や丁世均(チョン・セギュン)首相の「損失補償制度」を長期的に実施するためには莫大な財源が必要である。実現の前にその財源をどこから賄うかを緻密に検討する必要がある。
また、李洛淵代表の「コロナ利益共有制」は、企業が自発的に参加することを原則としているものの、多くのインセンティブがない限り、自発的に参加する企業は少ないと思われる。政府が参加率を上げるために動き始めると、結果的には半強制的な政策になり、結果として企業の自由度を減らし、負担を増やす規制になる恐れがある。
導入に反対する団体等は、「憲法では、国民の財産権を保障している。従って、新型コロナウイルス感染症による企業の損失は企業の収益共有で解決すべきではなく、国が補償すべきである」と主張し、政府の責任を強調している。
また、「損失補償制度」が自営業者の損失に限定されていることに対する不満の声も多い。韓国政府の「社会的距離」政策で収入が減ったのは自営業者だけではなく、保険外交員、ゴルフ場のキャディ、家庭教師や日雇い労働者等も同じだからである。
災難基本所得、利益共有制度、損失補償制度等、多様な格差解消案のうち、最も効果的なのはどの政策だろうか? 残念ながら、現時点の内容ではどの制度にも問題点が多く、大きな効果を期待することは難しい。
日本でも現在、新型コロナウイルス感染の緊急事態宣言が再発令され、政府の要請に応じれば、1日1店舗あたり6万円の協力金が1月8日から2月7日までの間、支給されることになっている。韓国に比べると支援規模が大きいが、飲食店だけに協力金が支給されることを問題視し、協力金の見直しを要求する声も少なくない。韓国政府が日本政府の対策や日本国民の意見を参考にすることは、今後の対策を講じるうえでも有効であるに違いない。
新型コロナウイルス感染症により発生した二極化の問題や格差を解消するための政策が、次期大統領を目指した人気取り政策ではなく、本当に格差解消に効果があり、国民の多くが納得できる政策として実施されることを望むところである1。
1 本稿は、「コロナで拡大した格差をどう解消する? 韓国次期大統領候補たちの提案」ニューズウィーク日本版 2021 年 2 月1日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/02/post-34.php
(2021年02月08日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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