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韓国政府が手厚い子育て支援策を決めたが、出生率向上は今度も難しいか
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
さらに、2022年からは出産時に200万ウォンを一時金として支給する制度を新設するほか、男性の育児参加を奨励するために、満1歳未満の子供を持つ両親が3カ月ずつ育児休業を取得した場合、双方に月最大300万ウォンの休業給付金を支払う計画である。
実際、最近、韓国では育児休業を取得する男性が増加している傾向にある。2002年に104人で全育児休業取得者の1.5%に過ぎなかった男性の割合は、2019年には22,297人で21.2%まで上昇した。男性の育児休業取得者が増えた理由としては、女性の労働市場参加の増加や育児に対する男性の意識変化等の要因もあるものの、最も影響を与えたのは韓国政府が2014年10月に男性の育児休業取得を奨励するために導入した「パパ育児休業ボーナス制度」の効果ではないかと考えられる。
「パパ育児休業ボーナス制度」とは、同じ子どもを対象に2 番目に育児休業を取得する親(90%は男性)に、最初の3カ月間は育児休業給付金として通常賃金1の100%を支給する制度である2。また「パパ育児休業ボーナス制度」の支給上限額は1番目に(育児休業を)取得する育児休業給付金の上限額より高い1カ月250 万ウォンに設定されている。このように、育児休業を取得しても高い給与が支払われるので、中小企業で働いている子育て男性労働者を中心に「パパ育児休業ボーナス制度」を利用して育児休業を取得した人が増加したと考えられる。
さらに2011年からは、満0~5歳の児童を養育する世帯平均所得下位階層70%以下すべてに支給対象が拡大され、ついに2013年からはすべての所得階層に保育料を支給する無償保育が実現されることになった。2018年9月からは児童手当を導入する等、子育て世帯に対する支援を継続的に拡大しているものの、まだその効果が表れておらず出生率は低下し続けている。
韓国統計庁の「2019年出生・死亡統計」によれば、韓国における2019年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子どもの平均数、以下、出生率)は、2018年の0.98を下回る0.92まで低下した。同年の日本の出生率1.36を大きく下回っている。
韓国の国会立法調査処は2014年、今後、出生率が現在の水準(2013年:1.19)のままなら、2014年時点で5075万人(将来人口推計)である韓国の人口は、2056年に4000万人になり、2100年には2000万人に半減すると予想した。
また2136年には1000万人まで人口が減り、2256年には100万人に人口が急減し、少子化が改善されない場合、韓国は2750年には消滅すると予測している。2019年の出生率が0.92であることを考慮すると、人口減少のスピードは上記の予測よりさらに速くなる可能性が高い。
今後、韓国が少子化問題を解決し、出生率を引き上げるためには子育て世帯に対する対策だけではなく、未婚率や晩婚率を改善するための対策により力を入れるべきであり、そのためには何よりも安定的な雇用を提供する必要がある。
韓国政府は若者を中心に約10万人の雇用を創出すると発表しているものの、新型コロナウイルスの影響もあり、若者の就職状況はさらに悪化している。今後、若者を中心に広がる不安定雇用や雇用不安が出生率にマイナスの影響を与え、さらなる出生率の低下や人口の急減に繋がるのではないか懸念されるところである3。
1 労働者に定期的・一律的に勤労の代価として支給する事と定めた金額で、基本給と諸手当の一部が含まれる。
2 1 番目に育児休業を取得した親に対しては最初の3カ月間は通常賃金の80%(上限額一カ月150万ウォン)が、4カ月目からは通常賃金の50%(上限額は1カ月120万ウォン)が支給される。
3 本稿は、「韓国政府が手厚い子育て支援策を決めたが、出生率向上は今度も難しい?」ニューズウィーク日本版 2021 年 1 月12日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/01/post-32.php
(2021年01月18日「研究員の眼」)
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2024/07/09 | 日本の少子化の原因と最近の財源に関する議論について | 金 明中 | ニッセイ基礎研所報 |
2024/06/13 | 【アジア・新興国】韓国の生命保険市場の現状-2022年と2023年のデータを中心に- | 金 明中 | 保険・年金フォーカス |
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2024/05/09 | 韓国の出生率が0.72で、8年連続過去最低を更新-若者の意識を的確に把握し有効な対策の実施を | 金 明中 | 基礎研マンスリー |
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