コラム
2021年01月18日

韓国政府が手厚い子育て支援策を決めたが、出生率向上は今度も難しいか

生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   金 明中

韓国 アジア・新興国経済 などの記事に関心のあるあなたへ

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韓国政府は12月15日、2021年から2025年までの人口政策の基盤になる「第4次少子・高齢社会基本計画」を国務会議で確定した。韓国政府は子育てに必要な費用を支援し、出生率を引き上げるために2022年から0~1歳の乳児を育てるすべての親に対して月30万ウォンの「乳児手当」を支給することを決めた。また、手当の金額を2025年までに50万ウォンに引き上げる方針である。
 
さらに、2022年からは出産時に200万ウォンを一時金として支給する制度を新設するほか、男性の育児参加を奨励するために、満1歳未満の子供を持つ両親が3カ月ずつ育児休業を取得した場合、双方に月最大300万ウォンの休業給付金を支払う計画である。
 
実際、最近、韓国では育児休業を取得する男性が増加している傾向にある。2002年に104人で全育児休業取得者の1.5%に過ぎなかった男性の割合は、2019年には22,297人で21.2%まで上昇した。男性の育児休業取得者が増えた理由としては、女性の労働市場参加の増加や育児に対する男性の意識変化等の要因もあるものの、最も影響を与えたのは韓国政府が2014年10月に男性の育児休業取得を奨励するために導入した「パパ育児休業ボーナス制度」の効果ではないかと考えられる。
 
「パパ育児休業ボーナス制度」とは、同じ子どもを対象に2 番目に育児休業を取得する親(90%は男性)に、最初の3カ月間は育児休業給付金を通常賃金1の100%を支給する制度である2。また「パパ育児休業ボーナス制度」の支給上限額は育児休業給付金の上限額より高い1カ月250 万ウォンに設定されている。このように、育児休業を取得しても高い給与が支払われるので、中小企業で働いている子育て男性労働者を中心に「パパ育児休業ボーナス制度」を利用して育児休業を取得した人が増加したと考えられる。
男女別育児休業取得者と男性が占める割合
韓国では、1991年に「嬰幼児保育法」が制定されてから、保育への関心が高まり、1992~2003年には、満0~5歳の児童を養育する子育て世帯に対して、所得を基準に設定された「差等保育料」が支給された。その後、2004年からは支援対象が都市労働者世帯の平均所得の50%以下の世帯まで、そして、2006年からは都市労働者世帯の平均所得の70%以下の世帯まで拡大された。
 
さらに2011年からは、満0~5歳の児童を養育する世帯平均所得下位階層70%以下すべてに支給対象が拡大され、ついに2013年からはすべての所得階層に保育料を支給する無償保育が実現されることになった。2018年9月からは児童手当を導入する等、子育て世帯に対する支援を継続的に拡大しているものの、まだその効果が表れておらず出生率は低下し続けている。
 
韓国統計庁の「2019年出生・死亡統計」によれば、韓国における2019年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子どもの平均数、以下、出生率)は、2018年の0.98を下回る0.92まで低下した。同年の日本の出生率1.36を大きく下回っている。
日韓における出生率の動向
韓国の出生率を地域別に見ると、ソウル市(出生率0.72)、釜山市(同0.83)、太田市(同0.88)、光州市(同0.91)の出生率は全国平均0.92をさらに下回っている。地域間における出生率に差があり、大都市を中心に出生率の低下が広がっていることがうかがえる。
 
韓国の国会立法調査処は2014年、今後、出生率が現在の水準(2013年:1.19)のままなら、2014年時点で5075万人(将来人口推計)である韓国の人口は、2056年に4000万人になり、2100年には2000万人に半減すると予想した。
 
また2136年には1000万人まで人口が減り、2256年には100万人に人口が急減し、少子化が改善されない場合、韓国は2750年には消滅すると予測している。2019年の出生率が0.92であることを考慮すると、人口減少のスピードは上記の予測よりさらに速くなる可能性が高い。
韓国における地域別合計特殊出生率(2019年)
韓国における少子化の原因は、子育て世帯の経済的負担の問題だけではなく、未婚化や晩婚化の影響も受けている。しかしながら、今までの韓国政府の少子化対策は、出産奨励金や保育費の支援、児童手当の導入や教育インフラの構築など主に子育て世帯に対する所得支援政策に偏っている。2020年12月に確定された「第4次少子・高齢社会基本計画」も子育て世帯に対する支援策が大部分を占めている。
 
今後、韓国が少子化問題を解決し、出生率を引き上げるためには子育て世帯に対する対策だけではなく、未婚率や晩婚率を改善するための対策により力を入れるべきであり、そのためには何よりも安定的な雇用を提供する必要がある。
 
韓国政府は若者を中心に約10万人の雇用を創出すると発表しているものの、新型コロナウイルスの影響もあり、若者の就職状況はさらに悪化している。今後、若者を中心に広がる不安定雇用や雇用不安が出生率にマイナスの影響を与え、さらなる出生率の低下や人口の急減に繋がるのではないか懸念されるところである3
 
1 労働者に定期的・一律的に勤労の代価として支給する事と定めた金額で、基本給と諸手当の一部が含まれる。
2 1 番目に育児休業を取得した親に対しては最初の3カ月間は通常賃金の80%(上限額一カ月150万ウォン)が、4カ月目からは通常賃金の50%(上限額は1カ月120万ウォン)が支給される。
3 本稿は、「韓国政府が手厚い子育て支援策を決めたが、出生率向上は今度も難しい?」ニューズウィーク日本版 2021 年 1 月12日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/01/post-32.php
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生活研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
社会保障論、労働経済学、日・韓社会政策比較分析、韓国経済

(2021年01月18日「研究員の眼」)

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