コラム
2021年01月13日

ポストコロナの韓国版ニューディールは成功するか?

生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   金 明中

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韓国と北朝鮮に分かれている朝鮮半島が、更に二つに分かれつつある。韓国のソウル特別市、仁川広域市、京畿道で構成される首都圏と、それ以外の非首都圏の間の格差が広がっているためだ。
 
首都圏の面積は韓国全体面積の11.8%に過ぎないものの、2019年時点での首都圏の人口は全体の半分を超えた(50.002%)。首都圏がGRDP(地域内総生産)や活動企業数に占める割合もそれぞれ51.8%と52.5%で非首都圏を上回っている。
韓国の首都圏と非首都圏
また、造船、自動車、機械産業の輸出減少により、今まで韓国経済の中心的役割を果たしてきたPK(釜山広域市、蔚山広域市、慶尚南道)経済が揺れており、首都圏との差が広がっている。首都圏と非首都圏の格差がこのまま拡大しすぎると、近い将来に衰退し消滅する自治体が出る可能性もある。
首都圏と非首都圏の人口割合

ポストコロナのKニューディール

韓国政府は2020年7月14日、新型コロナウイルスの感染拡大による危機を乗り越え、経済・社会構造の変化に対応するために、新しい経済発展戦略「韓国版ニューディール総合計画(K・New Deal)」を発表した。韓国版ニューディールは2025年までに総額160兆ウォンを投資する巨大プロジェクトで、雇用を創出し、所得格差を解消する「社会安全網ニューディール」(28.4兆ウォン)に基づき、デジタルインフラやビッグデータなどに関する産業を育成する「デジタルニューディール」(58.2兆ウォン)と、気候変動に対応し、環境にやさしい低炭素社会を目指す「グリーンニューディール」(73.4兆ウォン)が推進される予定である。
 
さらに、2020年10月13日に開催された第2次韓国版ニューディール会議では、上述した「韓国版ニューディール」の三つ(社会安全網、デジタル、グリーンニューディール)の柱に「地域均衡ニューディール」を加えることを明らかにした。文在寅大統領は、地域均衡ニューディールは韓国版ニューディールの基本精神かつ国家の均衡発展の中心であり、国家発展の軸を地域中心に転換する必要があると主張しながら、地域均衡ニューディールの重要性を呼びかけた。
 
地域均衡ニューディールとは、地域を新しく(New)、均衡的に(Balanced)発展させるという約束(Deal)という意味で、首都圏と非首都圏の間の地域格差を解消するための政策である。韓国政府は、韓国版ニューディール事業の総投資額の47%に当たる約75.3兆ウォンを地域均衡事業に投資する予定だ(社会安全網、デジタル、グリーンニューディールに配分された予算の一部を使用)。地域で韓国版ニューディールを実現することにより地域経済の活性化、雇用創出、地域住民の生活水準向上の効果が発生すると期待している。
 
地域均衡ニューディールは、中央政府が主導する(1)韓国版ニューディールの中の地域事業と(2)地方自治体が主導する事業、そして(3)公共機関が先導する事業が歯車のように噛み合う形で推進される。
 
(1)の韓国版ニューディールの中の地域事業に投資される75.3兆ウォンのうち、デジタルニューディールとグリーンニューディールにそれぞれ24.5兆ウォンと50.8兆ウォンが投入される。
 
2021年におけるデジタルとグリーンニューディールの予算は13兆ウォンで、国土の50%に知能型交通システム(C-ITS)を設置する事業、27の都市にスマートシティソリューションを支援する事業、呼吸器専門クリニック(1千カ所)を支援する事業、小規模の自営業者を対象にオンライン企画展等を支援する事業等が推進される予定である。
 
(2)の地方自治体が主導するニューディール事業は、地方自治体自らが発掘・推進する事業で、現在136の地方自治体(11の広域自治体と125の基礎自治体)が各地域の特性に合わせて地域型ニューディール事業を計画している(財源は地方自治体の財源と民間の投資額)。
 
事業の例としては、世宗特別自治市の自動運転のテストエリアの運営事業、京畿道の公共分野におけるデジタルSOC構築事業、仁川広域市の国際グリーンスマートタワーの助成等が挙げられる。
 
(3)の公共機関先導型ニューディール事業は、地域の公共機関が地域の地方自治体、研究機関、企業等と協力しながら実施する事業であり、韓国ガス公社の唐津LNG生産基地スマートファクトリーの構築、仁川港湾公社のスマート物流センターの構築、国立癌センターのVRに基づいたヘルスケアプラットフォームの開発等がその代表的な例である。

絵に描いた餅という批判も

韓国政府は地域均衡ニューディールの推進に意欲的な姿勢を見せているものの、「既に地域自治体で推進している事業をまとめて、新しい名前を付けただけ」、「ニューディールという看板を利用して地方自治体が事業を分かち合っただけ」、「次の選挙に向けたばらまき政策である」、「参加する企業に利益が発生する仕組みを提供しないと、民間の投資を呼び込むことは簡単ではない」等、批判や懸念の声も少なくない。

実際に、文大統領は政権初期から国の均衡発展政策を推進すると何度も主張してきた。しかしながら、実現された政策はほぼ皆無。公的機関の2次地方移転を大統領選挙で公約に掲げ、最近は行政首都の移転が与党を中心に議論されているものの、実現されるかどうかは不透明である。

地方自治体主導が成功の条件

文大統領の在任期間が約1年5カ月(任期は2022年5月10日まで)しか残っていないことも、地域均衡ニューディールを含む韓国版ニューディールの成功が疑われる理由である。現政権の政策が次の政権まで継続されるという保証はないからだ。
 
では、韓国政府が推進している地域ニューディール事業を成功させるためには何が必要だろうか。専門家の多くは地方自治体が事業を主導する必要性を強調している。中央政府が主導する事業に地方自治体が参加する形ではなく、地方自治体が主導的に地域の特性に合う事業を企画し、必要な部分を中央政府が支援する必要があるという主張だ。また、民間投資を活性化させるためには、規制改革を先に実現し、企業が儲かる環境を構築する必要もある。さらに、地域ニューディール事業は地域間の競争よりも、地域間の協力によりシナジー効果が得られるようにサポートすることも重要である。
 
そのためには、首都圏と地方間における公共交通機関を含む交通網の新設や整備のみならず、地域間で人・モノ・情報の活発な交流が行われるように、首都圏以外の地方自治体間の交通網も拡充・整備すべきである。韓国政府が推進している地域ニューディール事業が地域の均衡発展や格差解消に繋がることを強く願うところである1
 
1 本稿は、「ポストコロナの韓国版ニューディールは成功するか?」ニューズウィーク日本版 2021 年 1 月4 日 に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/01/post-31.php
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金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

(2021年01月13日「研究員の眼」)

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