2021年11月04日

来年はワクチン普及拡大によりウィズコロナ下の景気回復へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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東南アジア地域は2020年以降、コロナ禍で実態経済が停滞している。東南アジア5カ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)の経済は新型コロナ感染拡大と活動制限措置の影響が直撃した2020年4-6 月期に悪化し、ベトナムを除く4カ国がマイナス成長に沈んだ。その後、各国は感染拡大に歯止めをかけると活動制限の段階的解除と財政・金融両面の支援策を実施し、2020年後半から経済回復に転じた。しかし、2021年4月頃からデルタ株の流入や感染対策疲れなどにより感染状況が次第に悪化し、各国政府は首都圏に対して都市封鎖に相当する厳しい活動制限措置の実施を迫られた。4-6月期の実質GDPは前年の落ち込みからの反動増(ベース効果)により各国の成長率(前年同期比)が急上昇したものの、その水準はベトナムとインドネシアが漸くコロナ禍前(2019年10-12月期)に回復した程度であり、タイとフィリピン、マレーシアの3カ国はコロナ禍前のおよそ1割減に止まっている(図表1)。
図表1:東南アジア5カ国の実質GDPの推移
新興国は先進諸国と比べてコロナ禍からの回復が遅れているが、東南アジア地域は特にその傾向が強い。東南アジア諸国は感染第一波が比較的軽度で済んだため、海外産ワクチンの調達競争や自国内のワクチン製造に出遅れたほか、人口の多さやワクチン供給体制の整備などの問題もあり接種率が伸び悩んでいる国が多い。また医療体制が脆弱であることも都市封鎖の長期化に繋がった。

しかし、足元の東南アジア地域の感染状況は改善の動きが続いている。各国で厳しい活動制限措置が約1~2ヵ月間実施されたことによりインドネシアが7月、タイが8月、マレーシアとフィリピン、ベトナムが9月に新型コロナ感染がそれぞれピークアウトし、その後は感染者数の減少が続いている(図表2)。各国政府は感染状況に改善の動きがみられると、早いタイミングで制限緩和に舵を切った。現在、各国政府は活動制限措置の段階的解除を進めているが、疲弊した実態経済の回復、ワクチン接種の進展、医療提供体制の改善など様々な要因を考慮してウィズコロナ(新型コロナウイルスとの共存)を前提とする柔軟な感染対策をとるようになってきている。
図表2:東南アジア5カ国の新規感染者数の推移
それでは、東南アジア5カ国の経済の先行きはどうなるだろうか。2021年7-9 月期は厳しい活動制限措置の影響により各国経済の落ち込みは避けられないが、10-12月期は活動制限措置の解除により経済回復に転じることとなりそうだ。もっとも各国の制限解除は段階的に進められるため、年内まで景気に停滞感が残るだろう。

2022年はワクチン普及に伴う景気回復が続くと予想する。東南アジア5カ国では2021年後半から海外産ワクチンの普及が広がり、既にワクチンの国内製造を開始したタイに続いてインドネシアとフィリピン、ベトナムでも2022年春までに国産ワクチンの供給開始が見込まれる。ワクチン接種の加速により医療提供体制が確保されると、感染対策と経済活動の両立が可能となるため景気動向は安定化するようになる。もっともソーシャルディスタンスの確保など基本的な感染防止策は維持されるため対面型サービス消費が抑制されるほか、コロナ禍における倒産や失業、企業業績の悪化などが先行きの内需を押し下げる状況は続きそうだ。また米国の金融緩和策の縮小に伴う金融引き締めや膨張した政府債務の抑制など財政・金融両面の景気下支えは次第に弱まるとみられ、経済の本格的な回復には時間がかかりそうだ。

結果として、東南アジア5カ国は前年の落ち込みからの反動増により各国の実質GDP成長率は上昇するが、感染再拡大と厳格な活動制限措置の影響により2021年内まで経済の停滞感が続くだろう(図表3)。2022年はワクチンの普及拡大によって景気動向が安定化して成長率が上昇すると予想する。
図表3:東南アジア5カ国の成長率予測
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年11月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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