2021年08月16日

タイ経済:21年4-6月期の成長率は前年同期比7.5%増~6四半期ぶりのプラス成長も、感染第3波の深刻化で経済の先行きは不透明

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2021年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比7.5%増1(前期:同2.6%減)と急上昇し、市場予想2(同6.5%増)を上回る結果となった(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内外需の回復が成長率上昇に繋がったことが分かる。

民間消費は前年同期比4.6%増(前期:同0.3%減)と大きく上昇した。費目別に見ると、交通(同13.2%増)と娯楽・文化(同29.0%増)、レストラン・ホテル(同8.2%増)が増加に転じたほか、食料・飲料(同2.4%増)や住宅・水道・電気・燃料(同2.2%増)、通信(同1.8%増)、保健衛生(同7.4%増)の増加が続いた。一方、衣類・靴(同15.3%減)は低迷した。

政府消費は同1.1%増(前期:同2.1%増)と小幅に鈍化した。

総固定資本形成は同8.1%増となり、前期の同7.3%増から小幅に上昇した。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同9.2%増(前期:同3.0%増)と2四半期連続で上昇した。民間建設投資(同0.2%減)は引き続き減少したものの、民間設備投資(同12.2%増)が大きく伸びた。一方、公共投資は同5.6%増(前期:同19.6%増)と鈍化した。公共建設投資(同9.0%増)こそ好調だったが、公共設備投資(同4.7%減)が再び減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲2.1%ポイントと、前期の▲8.0%ポイントからマイナス幅が縮小した。まず財・サービス輸出は同27.5%増(前期:同10.5%減)と2019年7-9月期ぶりに増加した。財貨輸出が同30.7%増(前期:同3.2%増)と大きく上昇したが、サービス輸出が同1.9%減(前期:同63.6%減)と低迷した。一方、財・サービス輸入は同31.4%増(前期:同1.7%増)となり、輸出同様に急上昇した。財貨輸入(同32.2%増)とサービス輸入(同28.2%増)がそれぞれ大幅に増加した。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
4-6月期の実質GDPを供給項目別に見ると、主に第二次産業と第三次産業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。

まず農林水産業は前年同期比2.0%増(前期:同1.3%増)と増加した。主要作物のコメやゴム、キャッサバ、パイナップルがけん引したほか、畜産や漁業・養殖業も増加した。

鉱工業は同14.2%増(前期:同0.3%減)と、2019年7-9月期ぶりのプラス成長となった。まず主力の製造業は国内外の需要増を背景に同16.8%増(前期:同1.0%増)と大きく上昇した。製造業の内訳を見ると、自動車やコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同39.8%増)と石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同10.3%増)、食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同9.0%増)が揃って大幅に増加した。また電気・ガス業は同0.9%増(前期:同9.1%減)、鉱業は同5.1%増(前期:同4.6%減)となり、それぞれ増加した。

全体の6割弱を占めるサービス業も同5.0%増(前期:同4.3%減)と増加に転じた。サービス業の内訳を見ると、コロナ禍で低迷していたホテル・レストラン業(同13.2%増)や運輸・倉庫業(同11.6%増)、管理及び支援サービス(同1.4%増)、芸術・娯楽等(同93.4%増)、小売・卸売業(同5.5%増)がプラス成長に回復したほか、情報・通信業(同5.8%増)や建設業(同5.1%増)、金融・保険業(同2.3%増)、不動産業(同2.7%増)、教育(同0.6%増)、保健衛生・社会事業(同4.9%増)は引き続き増加した。
 
1 8月16日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2021年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、4-6月期は新型コロナの感染拡大に伴い、タイ政府が昨年3月に非常事態宣言を発令、外出・移動制限を強化すると、4-6月期の成長率が▲12.1%と急減した。タイ政府は早期のウイルス封じ込めに成功して段階的に行動制限を緩めたものの、年末年始には感染第2波が到来するなど本格的な経済活動の再開には至らず、実質GDPは今年1-3月期までマイナス成長が続いたが、今回発表された4-6月期の成長率は前年同期比+7.5%のプラス成長となった。

4-6月期の成長率の急上昇はベースの効果の影響が大きいとみられる。タイでは今年に入って新型コロナの感染拡大が続いている。感染状況は今年4月に変異ウイルスの流行などによる感染第3波が生じ、1日あたりの新規感染者数は3月末の100人未満から6月末には5,000人程度まで増加した(図表3)。感染状況の悪化により、タイ政府は首都バンコクなどで店内飲食の禁止や商業施設の営業時間制限するなど行動規制を次第に強化した結果、4-6月期は人流が減少することとなった(図表4)。こうした感染拡大と行動規制強化によってタイ経済にはブレーキがかかり、実質GDPは前期比でみると+0.4%の小幅なプラス成長に止まったが、前年の水準が大きく落ち込んでいた影響で前年同期比の成長率は大幅なプラスとなった。

国内で感染拡大が続くなかでも、順調に回復したのが輸出(同30.7%増)と公共投資(同5.6%増)だ。特に財・サービス輸出は、観光業の不振が続いてサービス輸出(前年同期比1.9%減)が低迷したままであるが、財貨輸出(前年同期比30.7%増)はテレワーク関連製品や家電製品の出荷増により輸出全体をけん引した。
(図表3)タイの新規感染者数の推移/(図表4)タイの外出状況
今後は都市封鎖の継続や新型コロナウイルスワクチンの普及(現在のワクチン完全接種率は25%)により感染状況が次第に落ち着き、タイ経済の回復ペースに勢いがつくとみられる。しかし、足元においてもタイの感染第3波は収束が見通せない状況にあり、当面は厳しい経済情勢が続きそうだ。タイ政府は7月中旬に首都バンコクなど10都県(全77都県)で都市封鎖を実施し、8月から都市封鎖の対象地域を29都県に拡大しているが、新規感染者数は1日あたり2万人を超えるなど感染状況は悪化の一途を辿っている。タイでは、今年7月からプーケットなどでワクチン接種済みの外国人旅行者を入国後の検疫隔離なしで受け入れる実証実験「観光サンドボックス」が開始したが、プーケット県の感染拡大によって観光サンドボックスの継続に不透明感が強まってきている。現在の感染第3波の収束が遅れるほど観光産業への打撃は深刻さが増すこととなり、その後の経済の立ち直りが鈍くなる恐れがある。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年08月16日「経済・金融フラッシュ」)

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