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インドネシア経済:21年4-6月期の成長率は前年同期比+7.07%~成長率はベース効果で急上昇、今後は感染第2波による内需の冷え込みが懸念

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の拡大が成長率上昇に繋がった(図表1)。
民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比5.93%増(前期:同2.22%減)と5四半期ぶりに増加した。費目別に見ると、昨年から低迷していたホテル・レストラン(同16.79%増)と輸送・通信(同10.59%増)、食料・飲料(同3.89%増)がプラスに転じたほか、住宅設備(同2.08%増)と保健・教育(同1.20%増)が引き続き増加した。
政府消費は前年同期比8.06%増となり、前期の同2.34%増から更に上昇した。
総固定資本形成は前年同期比7.54%増(前期:同0.23%減)と5四半期ぶりに増加した。機械・設備(同19.05%増)と建設投資(同4.36%増)、自動車(同42.25%増)が揃ってプラスとなった。
純輸出は成長率寄与度が+0.98%ポイントとなり、前期の+0.47%ポイントから拡大した。まず財・サービス輸出は前年同期比31.78%増(前期:同7.03%増)と大きく上昇した。輸出の内訳を見ると、財輸出(同33.19%増)が一段と上昇したほか、大幅な減少の続いたサービス輸出(同5.22%増)が増加した。また財・サービス輸入も同31.22%増(前期:同8.97%増)と大きく上昇した。
供給項目別に見ると、第二次産業と第三次産業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。
まず成長を牽引する第三次産業は前年同期比10.21%増(前期:同1.91%減)と大きく上昇してプラスとなった。内訳を見ると、構成割合の大きい卸売・小売(同9.44%増)をはじめとして、運輸・倉庫(同25.10%増)やホテル・レストラン(同21.58%増)、ビジネスサービス(同9.94%増)、行政・国防(同9.49%増)、そして金融・不動産(同5.99%増)が増加に転じた。一方、これまで好調だった情報・通信(同6.87%増)が若干鈍化した。
第二次産業は前年同期比5.84%増(前期:同1.26%減)と5四半期ぶりに増加した。内訳を見ると、構成割合の大きい製造業(同6.58%増)や建設業(同4.42%増)、鉱業(同5.22%増)が揃って増加したほか、電気・ガス・水供給業(同8.82%増)が2四半期連続で上昇した。
一方、第一次産業は前年同期比0.38%増(前期:同3.33%増)と鈍化した。
1 2021年8月5日、インドネシア統計局(BPS)が2021年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
4-6月期GDPの評価と先行きのポイント
今回の成長率の大幅な上昇は実体経済の持ち直しとベースの効果の両方が影響したとみられる。インドネシア政府は今年3月に自動車奢侈税の減免措置を時限的に導入するなど景気刺激策を打ち出しており、4-6月期は消費(前年同期比5.93%増)が大きく増加した。6月上旬まで感染状況が比較的落ち着いていて人流が増加していたことも消費の回復に繋がったといえる。また投資(同7.54%増)は外需の顕著な回復が追い風となって消費を上回る伸び率となった。このほか、4-6月期は前年の実質GDPが大きく落ち込んでいたというベース効果が働き、成長率(前年同期比)が大きく押し上げられる結果となった。
実質GDPは外需の拡大により漸くコロナ前の水準まで回復してきたが、7-9月期は大きく下振れる可能性が高い。6月中旬からインドネシアでデルタ株の感染が広がり、1日あたりの新規感染者数が7月中旬に初めて5万人を超えるなど感染第2波が発生しているためだ。インドネシア政府は感染再拡大を受けて7月初旬に人口の多いジャワ島と観光地のバリ島に緊急活動制限(PPKMダルラット)を実施し、出社を原則禁止するなど人の移動を大幅に制限した。首都ジャカルタ特別州では行動規制強化後の1ヵ月間で人流が最大53%減少しており、7-9月期は個人消費に急ブレーキがかかることは避けられないだろう。インドネシア政府は7月に2021年の成長率予測を以前の+4.5~5.3%から+3.7%~4.5%に引き下げている。
行動制限は感染防止に一定の成果を上げており、足元の新規感染者数は1日あたり3万人台まで減少してきた。インドネシア政府は感染状況に改善がみられたため、8月2日に一部制限を緩和している。今後は感染状況が改善するに従って更なる制限緩和が進むとみられるが、インドネシアは「少なくともワクチンを1回接種した人の割合」が17.6%と低水準に止まるなど、ワクチン接種が遅れているために感染抑制に手間取り、厳しい行動制限が長期化する恐れがある。年内に内需がコロナ前の水準に戻ることは難しく、政府の成長率予測が更に下方修正される展開が予想される。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年08月05日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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