2021年05月17日

タイ経済:21年1-3月期の成長率は前年同期比2.6%減~感染再拡大と活動制限強化により消費低迷、5期連続のマイナス成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2021年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比2.6%減1(前期:同4.2%減)とマイナス幅が縮小してBloomberg調査の市場予想(同3.3%減)を上回ったが、5期連続のマイナス成長となった(図表1)。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に消費の低迷と外需の落ち込みがマイナス成長に繋がった。

民間消費は前年同期比0.5%減(前期:同0.9%増)と再び減少した。費目別に見ると、引き続き食料・飲料(同2.7%増)や住宅・水道・電気・燃料(同0.9%増)、通信(同2.9%増)、保健衛生(同0.8%増)が増加した一方、レストラン・ホテル(同54.3%減)や衣類・靴(同21.8%減)、娯楽・文化(同18.7%減)、交通(同7.7%減)は大幅に減少した。

政府消費は同2.1%増(前期:同2.2%増)と僅かに鈍化した。

総固定資本形成は同7.3%増(前期:同2.5%減)と大きく上昇してプラスに転じた。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同3.0%増(前期:同3.3%減)と5期ぶりに増加した。民間設備投資(同3.8%増)は回復したが、民間建設投資(同0.4%減)は若干減少した。一方、公共投資は同19.6%増(前期:同0.6%増)と大幅に増加した。公共設備投資(同10.1%増)と公共建設投資(同23.1%増)がそれぞれ二桁増となった。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲8.0%ポイントと、前期の▲10.6%ポイントから縮小したが、大幅なマイナスとなった。まず財・サービス輸出は同10.5%減(前期:同21.5%減)と低迷した。財貨輸出は同3.2%増(前期:同1.5%減)と増加したが、サービス輸出は同63.5%減(前期:同75.2%減)と低迷した。一方、財・サービス輸入は同1.7%増(前期:同7.0%減)と回復した。サービス輸入(同15.4%減)が引き続き二桁減少となったが、内需の回復を受けて財貨輸入(同6.4%増)がプラスの伸びとなった。
 
1-3月期の実質GDPを供給項目別に見ると、主にサービス業の継続的な落ち込みがマイナス成長に繋がった(図表2)。

農林水産業は前年同期比1.9%増(前期:同0.4%増)と2期連続で増加した。コメやキャッサバ、トウモロコシなどの主要作物が増加した。

鉱工業は同0.6%減(前期:同2.3%減)とマイナス幅が縮小したが、6期連続で減少した。まず主力の製造業は外需の悪化により同0.7%増(前期:同0.7%減)と上昇して6期ぶりに増加した。製造業の内訳を見ると、自動車やコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同4.7%増)と石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同0.6%増)がそれぞれ増加したものの、食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同2.5%減)の減少が続いた。一方、電気・ガス業が同9.1%減(前期:同13.3%減)、鉱業が同4.6%減(前期:同9.6%減)と低迷した。

全体の6割弱を占めるサービス業は同4.2%減(前期:同5.9%減)と低迷した。サービス業の内訳を見ると、ホテル・レストラン業(同35.0%減)をはじめとして運輸・倉庫業(同17.7%減)、管理及び支援サービス(同11.9%減)、芸術・娯楽等(同8.1%減)、小売・卸売業(同2.1%減)、が低迷した。一方、情報・通信業(同4.6%増)や金融・保険業(同3.4%増)、不動産業(同2.2%増)、教育(同1.2%増)、保健衛生・社会事業(同0.5%増)が継続的に増加したほか、建設業(同12.7%減)が急増した。
 
1 5月17日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2021年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化した。新型コロナの感染拡大に伴い、タイ政府が昨年3月に非常事態宣言を発令、外出・移動制限を強化すると、4-6月期の成長率が▲12.1%と急減した。しかし、早期のウイルス封じ込めに成功すると、5月からの段階的な制限緩和によって経済活動の再開が進み、成長率は7-9月期に▲6.4%、10-12月期に▲4.2%、21年1-3月期が▲2.6%と回復傾向にあるが、依然マイナス成長となっている。

1-3月期の景気持ち直しは財貨輸出と総固定資本形成が揃ってプラス成長に転じた影響が大きい。まず財貨輸出は前年同期比3.2%減(前期:同1.5%減)となり、4期ぶりに増加した。新型コロナの影響からいち早く回復した中国向け輸出が拡大するなか、テレワーク関連製品や家電製品の需要の増加が輸出全体を押し上げている。また総固定資本形成は同7.3%増(前期:同2.5%減)と大きく上昇した。財貨輸出の拡大によって民間企業の投資マインドが回復すると共に、政府のインフラ事業拡大が投資の回復に繋がった。

一方、民間消費は前年同期比0.5%減(前期:同0.9%増)となり、冬場の新型コロナの感染再拡大と活動制限措置の強化による影響を受けて再び減少した。昨年、タイはコロナ封じ込めに成功していたが、不法入国・帰国者を通じた感染や水産市場の大規模クラスターがきっかけとなり、12月に感染第二波が発生した(図表3)。タイ政府は12月下旬に感染リスクの高さに応じた感染対策、そして年明けには首都バンコクで社会・活動制限を実施すると、市中感染の改善が進み、今年2月に活動制限が緩和された。実際、Googleの「COVID-19コミュニティモビリティレポート」をみると、タイの小売・娯楽施設への移動量は12月下旬に落ち込んだ後、3月にかけて次第に回復しており、1-3月期は制限措置の強化が消費動向を抑制したことが分かる(図表4)。

またサービス輸出(同63.5%減)の大幅な減少が続いたことも景気の重石となっている。タイ政府は昨年10月に外国人観光客の受け入れを再開したが、その後も感染対策として入国を制限したため、1-3月期の外国人観光客数は約2万人と、コロナ前の1%に満たない水準にとどまっている。タイの観光業はGDPの約1割を占めるだけに、コロナ禍でインバウンド需要が失われた影響は大きい。

先行きのタイ経済は、年後半から新型コロナウイルスワクチンの普及が加速するなかで感染状況が次第に落ち着き、経済の回復ペースが安定していくとみられるが、当面は足元の感染再拡大に伴う外出の自粛や活動制限措置の影響により景気回復が遅れることとなりそうだ。タイでは4月から英国型変異株のクラスターの発生やタイ正月(ソンクラーン)に伴う旅行や帰省の影響で感染第3波が到来しており、5月13日には新規感染者数が1日4,871人を記録した。タイ政府は感染状況に応じて地域別に社会・経済活動の制限を強化している。首都バンコクでは5月1日に店内飲食の禁止(5月17日に緩和)や商業施設の影響時間短縮などが実施され、小売・娯楽施設への移動量は再び落ち込むこととなった。また政府は今年7月にプーケットなどでワクチンを接種した外国人旅行者を入国後の検疫隔離なしで受け入れる計画を示しているが、第3波の発生で先行き不透明になっている。このように当面は民間消費やインバウンド需要の回復は見込めず、景気回復の鈍化は避けられないだろう。
(図表3)タイの新規感染者数の推移/(図表4)タイの外出状況
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年05月17日「経済・金融フラッシュ」)

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