2021年05月11日

フィリピン経済:21年1-3月期の成長率は前年同期比4.2%減~コロナ禍が長引き、内需低迷、5期連続のマイナス成長

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2021年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比4.2%減1と、前期の同8.3%減から減少幅が縮小したものの、市場予想2(同3.8%減)を下回る結果となった(図表1)。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の低迷がマイナス成長に繋がった。

民間消費は前年同期比4.8%減(前期:同7.3%減)とマイナス幅が縮小した。民間消費の内訳を見ると、レストラン・ホテル(同16.1%減)、と交通(同26.7%減)、衣服・履物(同19.5%減)、家具・住宅設備(同10.8%減)が低迷したが、食料・飲料(同2.2%増)と通信(同6.2%増)、住宅・水道光熱(同0.3%増)が増加傾向を維持すると共に保健(同4.8%増)と教育(同0.3%増)が4四半期ぶりのプラスに転じた。

政府消費は同16.1%増となり、前期の同5.1%増から上昇した。

総固定資本形成は同20.2%減(前期:同30.0%減)と大幅な減少が続いた。建設投資が同27.2%減(前期:同36.0%減)、設備投資が同13.8%減(前期:同24.5%減)と、それぞれ低迷した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の約半分を占める輸送用機器(同25.1%減)と一般工業機械(同16.2%減)が大幅に減少した一方、特定産業機械(同12.9%増)が9四半期ぶりのプラスとなった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.6%ポイントとなり、前期から4.6%ポイント縮小した。まず財・サービス輸出は同9.0%減(前期:同10.2%減)と低迷した。輸出の内訳を見ると、財輸出(同2.4%増)がプラスに転じたものの、サービス輸出(同21.0%減)は大幅な落ち込みが続いた。また財・サービス輸入は同8.3%減(前期:同20.2%減)となり、輸出と同様に落ち込む結果となった。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、引き続き第二次産業と第三次産業が落ち込んだ(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同4.4%減(前期: 同8.0%減)と減少幅が縮小したものの、4期連続のマイナスとなった。宿泊・飲食業(同20.6%減)をはじめとして、運輸・倉庫業(同18.8%減)や不動産業(同13.2%減)、専門・ビジネスサービス業(同6.5%減)、卸売・小売(同3.9%減)がそれぞれ減少した。一方、情報・通信業(同6.3%増)と金融・保険業(同5.2%増)、行政・国防(同7.5%増)が増加傾向を維持すると共に、保健衛生・社会活動(同11.7%増)がプラスに転じた。

第二次産業は同4.7%減(前期: 同10.6%減)とやや持ち直したが、引き続き全体を上回る減少率となった。まず製造業(同0.5%増)は食品加工や石油製品など幅広い産業が減少したが、主力のコンピュータ・電子機器と化学製品が増加して製造業全体ではプラスの伸びとなった。また建設業(同24.2%減)と鉱業・採石業(同1.0%減)は減少した一方、電気・ガス・水道(同1.9%増)は増加傾向を続けた。

第一次産業は前年同期比1.2%減(前期:同2.5%減)と2期連続で減少した。コメ(同8.6%増)やトウモロコシ(同6.4%増)の生産は大きく伸びたが、アフリカ豚熱や昨年上陸した大型台風の影響を受けた家畜(同23.2%減)の生産が落ち込んだ。
 
 
1 2021年5月11日、フィリピン統計庁(PSA)が2021年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化した。4-6月期は新型コロナの封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響が本格的に現れて成長率が▲17.0%と落ち込んだ。その後は7-9月期が▲11.6%、10-12月期が▲8.3%、21年1-3月期が▲0.74%と、経済は緩やかに持ち直しているが、4期連続のマイナス成長となっている。

フィリピン政府が昨年3月にルソン島全域で実施した広域隔離措置は、5月から段階的に緩和されたが、医療逼迫を受けて8月から外出・移動制限措置を一時的に再強化すると、マスクやフェースシールドの着用義務化等の感染対策が機能し始めて感染状況が漸く改善に向かった。新規感染者数は今年1月には1日1,000人台前半まで減少したが(図表3)、3月には変異ウイルスや感染対策疲れなどから感染が再び広がって第2波到来した。マニラ首都圏が3月15日から夜間外出禁止令を始めるなど各自治体は制限措置の再強化に舵を切り、同月29日には首都圏と周辺4州において外出・移動制限措置が最高水準に引き上げられることとなった。

足元の景気低迷は、こうした国内で実施された活動制限措置や自粛行動による内需の落ち込みが続いている影響が大きい。1-3月期は3月中旬に制限措置を再強化するまでは感染状況が比較的落ち着いていたため、実質GDPは前期から増加したものの、コロナ前の水準には戻っていない。結果として、民間消費(同▲4.8%)と総固定資本形成(同▲20.2%)は依然としてマイナス成長が続いており、回復の動きは鈍い。

また海外送金(ペソ建て)が減少したことも民間消費を下押ししたとみられる(図表4)。コロナ禍でフィリピン人海外出稼ぎ労働者の失業や帰国が増えるなかでも、今年1-2月の在外フィリピン人からの送金額(ドル建て)は小幅に増加したが、ドル安・ペソ高が進んだためにペソ建ての送金額は前年比3.8%減となり、10-12月期に続いて減少した(図表4)。フィリピンは海外出稼ぎ労働者による送金がGDPの10%弱の規模に相当し、本国で暮らす家族の食料品や衣類、医療、教育など基本的な需要を満たす役割を果たしているだけに、消費市場に及ぼす影響は大きい。

先行きのフィリピン経済は引き続き新型コロナの感染状況に左右される。4-6月期は一転して高成長に転じるものと予想されるが、これは前年の大幅な落ち込みからの反動増による影響が大きい。マニラ首都圏と周辺4州で実施されている厳格な外出・移動制限措置は4月12日に1段階緩和され、現行措置は5月14日まで続く予定であり、4-6月期は内需の回復ペースが失速しそうだ。また足元の新規感染の増加ペースはピーク時と比べて4割程度まで減少するなど落ち着き始めているが、インド型変異株の国内感染が確認されるなど感染再拡大のリスクは依然として高い状況にある。フィリピン政府は外出・移動制限措置が厳格化されたマニラ首都圏と周辺4州の住民に対して現金給付を実施しているが、GDPの約7割を占める民間消費の落ち込みは避けられない。フィリピン経済がコロナ前のGDP水準を回復するにはなお時間がかかるものとみられる。
(図表3)フィリピンの新規感染者数の推移/(図表4)フィリピン 海外労働者送金額
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年05月11日「経済・金融フラッシュ」)

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