2021年02月12日

マレーシア経済:20年10-12月期の成長率は前年同期比▲3.4%~活動制限措置の強化で経済が再び縮小

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2020年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比3.4%減1(前期:同2.7%減)と悪化して4期連続のマイナス成長となったほか、Bloomberg調査の市場予想(同3.1%減)を下回る結果となった。

なお、2020年通年の成長率は前年比5.6%減(2019年:同4.3%増)と急減した。これはアジア通貨危機後の1998年以来最大の減少幅である。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の悪化が成長率低下に繋がった(図表1)。

GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比3.4%減(前期:同2.1%減)と減少幅が拡大した。また政府消費は前年同期比2.7%増(前期:同6.9%増)と低下した。

総固定資本形成は同11.9%減(前期:同11.6%減)と、3期連続の二桁減少となった。建設投資が同13.1%減(前期:同12.9%減)、設備投資が同9.0%減(前期:同8.3%減)と低迷した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の4分の3を占める民間部門が同7.0%減(前期:同9.3%減)、公共部門が同19.8%減(前期:同18.6%減)とそれぞれ減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.7%ポイント(前期:+1.5%ポイント)と縮小した。まず財・サービス輸出は同1.8%減(前期:同4.7%減)と減少幅が縮小した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同55.7%減)と大幅減少が続いた一方、財貨輸出(同8.6%増)が2期連続で増加した。また財・サービス輸入は同3.3%減(前期:同7.8%減)となり、輸出以上に減少幅が縮小した。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、主に第三次産業の悪化が成長率低下に繋がった(図表2)。

第一次産業は同0.7%減(前期:同0.5%減)と低迷した。天然ゴム(同10.4%減)や漁業・養殖業(同5.2%減)が低迷したほか、パーム油(同2.6%減)がマイナスに転じた。一方、畜産(同2.9%増)とその他農業(同4.7%)は増加傾向を維持した。

第二次産業をみると、まず製造業は同3.0%増(前期:同3.3%減)と底堅い成長が続いた。内訳を見ると、石油製品(同7.2%減)や化学製品(同2.6%減)、動植物性油脂(同18.2%減)など減少した業種もあるが、主力の電気電子機器(同9.4%増)や輸送用機器(同8.3%増)などが2期連続で増加したほか、ゴム製品(同66.5%増)の好調が続いた。一方、建設業は同13.9%減(前期:同12.4%減)、鉱業は同10.6%減(前期:同6.8%減)と悪化した。

GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比4.9%減(前期:同4.0%減)と悪化した。情報・通信(同7.1%増)や金融・保険(同5.8%増)、政府サービス(同4.9%増)など成長を支えた業種もあるが、宿泊・飲食業(同35.4%減)や運輸・倉庫(同23.1%減)、不動産・ビジネスサービス(同21.5%減)が悪化したほか、卸売・小売(同1.5%減)も低迷した。
 
1 2021年2月11日、マレーシア中央銀行が2020年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。

10-12月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化した。4-6月期は新型コロナの封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響が本格的に現れて成長率が▲17.1%と急減した。しかし、早期にウイルスの抑え込みに成功すると、5月にはそれまでの厳格な活動制限令(MCO)から条件付き活動制限令(CMCO)に移行、6月には回復活動制限令(RMCO)に移行した。経済活動の再開が進むなか、7-9月期は成長率が▲2.6%と大きく持ち直した。このようにマレーシアは順調に景気回復の道を辿るかにみられたが、10-12月期の成長率は▲3.4%と再び悪化した。

10-12月期の景気悪化は、10月以降に活動制限措置が再び強化されたことによる影響が大きい。マレーシアでは、9月26日に投開票が行われたサバ州議会選挙における選挙活動で人の移動が増えたことをきっかけに、新型コロナの感染第3波が到来、11月には1日当たりの新規感染者が1,000人を上回るまでに増加した(図表3)。政府は感染対策として、10月7日から感染リスクの高い地域に条件付き活動制限令(CMCO)を再び実施したものの、感染拡大に歯止めがかからず、11月上旬~12月上旬にかけてはCMCOをほぼ全国で実施、店舗の営業時間制限や買い物や旅行などの移動制限が加えられ、消費を中心に内需が減退した。

もっとも今回は政府が全業種の操業を認めたため、昨年3~5月の活動制限令(MCO)の際にみられたような混乱は起こらなかった。11月の失業率は4.8%に上昇したものの、最悪期の5月の5.3%の水準を下回っている(図表4)。10月に給与補助金の第2弾が開始するなど、政府が景気刺激策(総額3,050億リンギ、GDPの20%)を拡充したこともコロナ禍の経済への悪影響を軽減したものとみられる。
(図表3)マレーシアの新規感染者数の推移/(図表4)マレーシア雇用統計
(図表5)マレーシア輸出の伸び率(品目別) また輸出の改善は引き続き経済を下支えた。新型コロナの感染拡大や在宅勤務の普及などから世界的に医療用手袋や電気・電子製品の需要が増えており、10-12月期は電気電子製品が前年比+15.4%、ゴム手袋が同+124.2%を記録するなど輸出全体を牽引した(図表5)。

先行きのマレーシア経済は、ワクチン普及が広がるなかで回復ペースが安定するとみられるが、短期的には感染再拡大に伴う外出の自粛や活動制限の影響により景気低迷が続きそうだ。年明け以降も新型コロナの感染拡大が続き、国内の医療体制が限界に達したため、政府は1月中旬から(一部地域を除く)全国で厳格な活動制限令(MCO 2.0)を再実施し、昨年3~5月に全土で敷かれたMCO1.0と同様、外出や経済・社会活動に対して厳しい制限が課されることとなった。今回は製造や建設、サービスなど経済に不可欠とされる一部のセクターは操業が認められており、昨年のMCO1.0よりも経済への影響は小さいとみられるが、10-12月期よりも景気の冷え込みが強まる可能性がある。

1日あたりの新規感染者数は1月末に一時5000人台後半まで増加したが、足元では3000人前後まで減少している。MCO2.0は2月5日に延長されたものの、現在はほとんどの企業活動が認められており、経済の活動水準は再び上向きつつある。また2月中には国内でワクチン接種が始まる予定であり、今後は民間部門のマインドの改善が期待できる。当面はMCO 2.0が期限を迎える2月18日に更なる制限措置の緩和が実施されるかどうかに注目したい。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年02月12日「経済・金融フラッシュ」)

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