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- マレーシア経済:21年4-6月期の成長率は前年同期比+16.1%~都市封鎖下の厳しい状況も、5四半期ぶりのプラス成長に
2021年08月13日
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2021年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比16.1%増1(前期:同0.5%減)と急上昇し、市場予想2(同13.9%増)を上回る結果となった(図表1)。
4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の拡大が成長率上昇に繋がったことが分かる。
GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比11.6%増(前期:同1.5%減)と上昇して5四半期ぶりに増加した。
また政府消費は前年同期比9.0%増(前期:同5.9%増)と上昇した。
総固定資本形成は同16.5%増(前期:同3.3%減)と上昇して、2018年7-9月期以来のプラス成長となった。建設投資が同20.2%増(前期:同10.4%減)が増加に転じると共に、設備投資が同15.1%増と、前期の同10.3%増に続いて上昇した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の4分の3を占める民間部門が同17.4%増(前期:同1.3%増)、公共部門が同12.0%増(前期:同18.6%減)と、それぞれ急増した。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.8%ポイント(前期:+0.0%ポイント)から拡大した。まず財・サービス輸出は同37.4%増(前期:同11.9%増)と急上昇した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同40.2%増)が一段と上昇したほか、大幅な減少の続いたサービス輸出(同9.8%増)が増加した。また財・サービス輸入は同37.6%増(前期:同13.0%増)となり、輸出同様に大きく上昇した。
供給側を見ると、第二次産業と第三次産業の回復が成長率上昇に繋がったことが分かる(図表2)。
まずGDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比13.4%増(前期:同2.3%減)と大きく上昇してプラスとなった。運輸・倉庫(同37.2%増)をはじめとして、宿泊・飲食業(同9.1%増)や不動産・ビジネスサービス(同1.2%増)がそれぞれ増加に転じたほか、金融・保険(同23.3%増)や卸売・小売(同20.9%増)、情報・通信(同5.9%増)、政府サービス(同5.6%増)が増加傾向を続けた。
第二次産業をみると、まず製造業は同26.6%増(前期:同6.6%増)と一段と上昇した。内訳を見ると、動植物性油脂(同16.9%減)こそ減少したものの、主力の電気電子機器(同27.9%増)やゴム製品(同46.8%増)、輸送用機器(同41.3%増)、化学製品(同15.8%増)が大幅な増加を続けたほか、石油製品(同34.0%増)が増加に転じた。また建設業は同40.3%増(前期:同10.4%減)、鉱業は同13.9%増(前期:同5.0%減)となり、それぞれプラス成長となった。
一方、第一次産業は同1.5%減(前期:同0.2%増)と減少した。畜産(同6.3%増)やその他農業(同6.0%増)、漁業・養殖業(同1.5%増)、天然ゴム(同0.9%増)が増加したものの、主要産品であるパーム油(同10.9%減)の落ち込みが響いた。
1 2021年8月13日、マレーシア中央銀行が2021年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
まずGDPの6割弱を占める第三次産
第二次産業をみると、まず製造業は同26.6%増(前期:同6.6%増)と一段と上昇した。内訳を見ると、動植物性油脂(同16.9%減)こそ減少したものの、主力の電気電子機器(同27.9%増)やゴム製品(同46.8%増)、輸送用機器(同41.3%増)、化学製品(同15.8%増)が大幅な増加を続けたほか、石油製品(同34.0%増)が増加に転じた。また建設業は同40.3%増(前期:同10.4%減)、鉱業は同13.9%増(前期:同5.0%減)となり、それぞれプラス成長となった。
一方、第一次産業は同1.5%減(前期:同0.2%増)と減少した。畜産(同6.3%増)やその他農業(同6.0%増)、漁業・養殖業(同1.5%増)、天然ゴム(同0.9%増)が増加したものの、主要産品であるパーム油(同10.9%減)の落ち込みが響いた。
1 2021年8月13日、マレーシア中央銀行が2021年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
4-6月期GDPの評価と先行きのポイント
マレーシア経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、4-6月期は新型コロナの封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響が本格的に現れて成長率が▲17.2%と急減した。その後は感染状況に応じて行動制限の緩和を進めたことで今年1-3月期には成長率は▲0.5%と次第に持ち直し、今回発表された4-6月期の成長率は前年同期比+16.1%と急増した。
4-6月期の成長率の急上昇はベースの効果の影響が大きい。マレーシアでは今年に入って新型コロナの感染拡大が続いている。感染状況は2月をピークに第2波が沈静化したものの、4月に第3波が到来した(図表3)。政府は5月12日から全国で3回目となる厳格な活動制限令(MCO 3.0)を実施して州をまたぐ移動を禁止したが、ハリラヤ・プアサ(断食明け大祭、5月13~14日)後に感染ペースが加速したため、6月から全国規模の都市封鎖を実施、政府が指定する生活に不可欠な業種以外の社会・経済活動を禁止した。しかし、その後も変異株の蔓延や規制疲れなどによって感染拡大が続き、足元の新規感染者数は1日あたりの2万人台に達している。現在、東南アジア各国は感染拡大傾向にあるが、人口100万人当たりの新規感染者数(7日間移動平均)はマレーシアが606人と、タイ(295人)やインドネシア(113人)の倍以上の水準にあり、マレーシアの感染状況がいかに深刻化しているかがうかがい知れる。こうした感染状況の悪化と全国的な都市封鎖により、4-6月期はマレーシア経済に急ブレーキがかかることとなったが、前年の実質GDPが大幅に減少した反動による影響で大幅なプラス成長となった。実際、小売・娯楽関連施設への人流は6月にかけてコロナ前の6割の水準に落ち込んだが、前年同期の最大8割減と比べて減少幅は抑制されている(図表4)。結果として内需は、前期比(季節調整値)でみると民間消費が▲10.7%、総固定資本形成が▲7.5%と落ち込んだが、それぞれ前年同期比でみると+11.6%、+16.5%となり、見かけ上は内需が大きく伸びることとなった。
4-6月期の成長率の急上昇はベースの効果の影響が大きい。マレーシアでは今年に入って新型コロナの感染拡大が続いている。感染状況は2月をピークに第2波が沈静化したものの、4月に第3波が到来した(図表3)。政府は5月12日から全国で3回目となる厳格な活動制限令(MCO 3.0)を実施して州をまたぐ移動を禁止したが、ハリラヤ・プアサ(断食明け大祭、5月13~14日)後に感染ペースが加速したため、6月から全国規模の都市封鎖を実施、政府が指定する生活に不可欠な業種以外の社会・経済活動を禁止した。しかし、その後も変異株の蔓延や規制疲れなどによって感染拡大が続き、足元の新規感染者数は1日あたりの2万人台に達している。現在、東南アジア各国は感染拡大傾向にあるが、人口100万人当たりの新規感染者数(7日間移動平均)はマレーシアが606人と、タイ(295人)やインドネシア(113人)の倍以上の水準にあり、マレーシアの感染状況がいかに深刻化しているかがうかがい知れる。こうした感染状況の悪化と全国的な都市封鎖により、4-6月期はマレーシア経済に急ブレーキがかかることとなったが、前年の実質GDPが大幅に減少した反動による影響で大幅なプラス成長となった。実際、小売・娯楽関連施設への人流は6月にかけてコロナ前の6割の水準に落ち込んだが、前年同期の最大8割減と比べて減少幅は抑制されている(図表4)。結果として内需は、前期比(季節調整値)でみると民間消費が▲10.7%、総固定資本形成が▲7.5%と落ち込んだが、それぞれ前年同期比でみると+11.6%、+16.5%となり、見かけ上は内需が大きく伸びることとなった。
一方、財貨輸出(前年同期比+40.2%)は前期比でみても+5.0%と順調に拡大した。コロナ禍で世界的に医療用手袋や電気・電子製品の需要が増えており、4-6月期は電気電子製品の出荷が前年同期比+34.9%、ゴム製品が同+183.1%と、前期に続いて二桁増となった。
マレーシアは新型コロナウイルスで受けた打撃からの復興の道のりとして示した「国家回復計画」の下、段階的な制限緩和を進めようとしているが、現在のところ感染第3波の収束が見通せない状況にあり、当面は厳しい経済情勢が続きそうだ。4-6月期のGDP統計は見かけ上、高い伸びとなったが、今後は前年からの反動増の影響が剥落するだろう。一方、ワクチン接種は人口の3割が完全接種を完了(部分接種は5割完了)しており、年内の集団免疫獲得が見通せる状況になってきたことは明るい材料と言える。しかしながら、感染力の強い変異株を抑え込むには至らない可能性もあり、経済の早期正常化は難しそうだ。
マレーシアは新型コロナウイルスで受けた打撃からの復興の道のりとして示した「国家回復計画」の下、段階的な制限緩和を進めようとしているが、現在のところ感染第3波の収束が見通せない状況にあり、当面は厳しい経済情勢が続きそうだ。4-6月期のGDP統計は見かけ上、高い伸びとなったが、今後は前年からの反動増の影響が剥落するだろう。一方、ワクチン接種は人口の3割が完全接種を完了(部分接種は5割完了)しており、年内の集団免疫獲得が見通せる状況になってきたことは明るい材料と言える。しかしながら、感染力の強い変異株を抑え込むには至らない可能性もあり、経済の早期正常化は難しそうだ。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年08月13日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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