2021年08月10日

フィリピン経済:21年4-6月期の成長率は前年同期比11.8%増~6四半期ぶりのプラス成長も、感染再拡大で経済の先行きは不透明

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2021年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比11.8%増1(前期:同3.9%減)と急上昇し、市場予想2(同10.0%増)を上回る結果となった(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の拡大が成長率上昇に繋がった。

まず民間消費は前年同期比7.2%増(前期:同4.7%減)と上昇して6四半期ぶりに増加した。民間消費の内訳を見ると、レストラン・ホテル(同24.5%増)と交通(同20.4%増)、衣服・履物(同39.9%増)、家具・住宅設備(同14.5%増)、住宅・水道光熱(同6.7%増)がプラスに転じたほか、食料・飲料(同2.8%増)と通信(同14.3%増)、保健(同14.3%増)、教育(同10.4%増)がそれぞれ上昇した。

政府消費は同4.9%減となり、前期の同16.1%増から減少した。

総固定資本形成は同37.4%増(前期:同18.0%減)と大幅なプラス成長となった。建設投資が同33.4%増(前期:同25.3%減)、設備投資が同89.2%増(前期:同10.3%減)と、それぞれ大きく上昇した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の約半分を占める輸送用機器(同154.2%増)と一般工業機械(同23.9%増)がプラスに転じたほか、特定産業機械(同80.9%増)が一段と上昇した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲4.9%ポイントとなり、前期の+0.1%ポイントから大きく低下した。まず財・サービス輸出は同27.0%増(前期:同8.8%減)と5四半期ぶりに増加した。輸出の内訳を見ると、財輸出(同35.4%増)とサービス輸出(同17.3%増)がそれぞれ大きく上昇した。一方、財・サービス輸入は同37.8%増(前期:同7.0%減)と、輸出を上回る増加率となった。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側
供給項目別に見ると、主に第二次産業と第三次産業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。

GDPの約6割を占める第三次産業は同9.6%増(前期: 同4.1%減)と大きく上昇して5四半期ぶりにプラス成長となった。宿泊・飲食業(同53.4%増)をはじめとして、運輸・倉庫業(同23.4%増)や不動産業(同16.7%増)、専門・ビジネスサービス業(同11.7%増)、卸売・小売(同5.4%増)がそれぞれ増加に転じたほか、情報・通信業(同14.2%増)や金融・保険業(同4.2%増)、行政・国防(同4.0%増)、保健衛生・社会活動(同12.1%増)が増加傾向を維持した。

第二次産業は同20.8%増(前期: 同4.4%減)となり、第三次産業と同様に大幅に増加した。まず製造業(同22.3%増)は主力のコンピュータ・電子機器と化学製品に続いて食品加工や石油製品など幅広い産業が増加し、製造業全体としては大きく上昇した。また建設業(同25.7%増)がプラスに転じたほか、電気・ガス・水道(同9.8%増)と鉱業・採石業(同0.8%増)は増加傾向が続いた。

第一次産業は前年同期比0.1%減(前期:同1.3%減)と3期連続で減少した。トウモロコシ(同6.3%増)やバナナ(同1.8%増)、コメ(同1.2%増)は順調な成長が続いたが、アフリカ豚熱発生の悪影響を受けた家畜(同19.5%減)や漁業・養殖業(同1.0%減)の生産が落ち込んだ。
 
1 2021年8月10日、フィリピン統計庁(PSA)が2021年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、4-6月期はウイルスの封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響が本格的に現れて成長率が▲17.0%と落ち込んだ。その後も感染第1波の長期化によりフィリピン政府が外出制限を延長したため、実質GDPは今年1-3月期までマイナス成長が続いたが、今回発表された4-6月期の成長率は前年同期比+11.8%の大幅なプラス成長に急上昇した。

今回の成長率の大幅な上昇はベースの効果の影響が大きいとみられる。フィリピンでは今年3月から変異ウイルスの流行や感染対策疲れなどによって感染が再び広がって第2波が到来(図表3)、マニラ首都圏では3月15日から夜間外出禁止令を開始するなど各自治体は制限措置の再強化に舵を切り、同月29日には首都圏と周辺4州において外出・移動制限措置が最高水準に引き上げられることとなった。首都圏を中心とする厳しい規制は4月半ばから段階的に緩和されたが、4-6月期は人流が減少した(図表4)。このため、民間消費は大幅に落ち込んでいた前年同期と比べて急上昇(+7.2%増)したものの、前期比では0.9%減と低迷する結果となった。一方、総固定資本形成(前年同期比+37.4%)は顕著な財輸出の回復(同+35.4%増)や遅れていた政府のインフラ支出の拡大(同63.2%増)を受けて好調だった。

フィリピン経済が緩やかな回復軌道にあることには変わりないとみられるが、足元では経済の先行き不透明感が高まっている。フィリピンは感染第2波が十分に落ち着かない状況が続くなか、7月半ばから感染が再び拡大、8月6日には1日あたりの新規感染者数が約3カ月半ぶりに1万人を超えた。マニラ首都圏・周辺州では同日から20日まで外出・移動制限措置が最も厳しい水準に引き上げられており、人流が再び減少する局面を迎えている。マニラ首都圏では、低所得層を対象に現金給付が実施される予定だが、GDPの約7割を占める民間消費の低迷は避けられないだろう。フィリピン経済がコロナ前のGDP水準を回復するにはなお時間がかかるものとみられ、フィリピン政府の2021年の成長率目標(+6.0~7.0%)の達成は危ぶまれる状況にある。
(図表3)フィリピンの新規感染者数の推移/(図表4)小売・娯楽施設への移動量
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年08月10日「経済・金融フラッシュ」)

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