2021年10月12日

ASEANの貿易統計(10月号)~8月は感染防止策により経済活動が抑制されたが、商品価格の高騰が輸出を後押し

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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21年8月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比16.4%増(前月同16.3%増)と、好調を維持した(図表1)。輸出は昨年4月に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して急減した後、経済活動の再開やテレワーク需要の増加に伴う電気・電子製品の出荷増、商品市況の改善を受けて増加傾向が続いている。8月は各国の感染拡大防止に伴う経済活動の抑制によりベトナムやタイで輸出の勢いが鈍ったが、商品価格の高騰によりインドネシアやマレーシアの輸出が好調だった。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、8月は前年の落ち込みの大きい東南アジア向け(同22.1%増)が反動増により高い伸びとなったが、東南アジア各国が実施した感染防止策により経済活動が鈍ったため増勢は鈍化している(図表2)。また需要の底堅い東アジア向けが同20.7%増と好調だったほか、北米向けが同9.7%増、EU向けが同8.2%増とそれぞれ増加傾向が続いた。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの21年8月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比1.7%減となり、前月の同11.9%増から急低下し、6カ月ぶりに減少した。輸出は昨年4~5月に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて落ち込んだ後、経済活動の再開と世界的な電子機器の需要拡大により増加傾向が続いたが、足もとでは感染第4波を抑え込みために国内各地で厳格な社会隔離措置を導入したことで減少に転じている。また輸入額も前年同月比20.4%増(月:同31.8%増)と鈍化した結果、貿易収支は▲1.1億ドルの赤字となり、前月から11.4億ドル改善した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、これまで輸出全体を押し上げてきた電気製品・同部品が同0.9%増(前月:同9.1%減)と小幅の増加に転じたものの、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比4.0%増(前月:同10.3%増)と鈍化した(図表4)。またアパレル関連では、織物・衣類が同10.8%減(前月:同1.8%増)、履物が同39.5%減(前月:同2.3%増)とそれぞれ二桁減少となった。農林水産物を見ると、コメ(同19.9%減)や水産物(同26.6%減)、野菜(同16.9%減)が減少したものの、コーヒー(同22.0%増)やカシューナッツ(同13.9%増)、天然ゴム(同13.5%増)などが好調だった。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同3.3%増(前月:同14.4%増)と鈍化すると共に、地場企業が同3.3%減(前月:同14.4%減)と減少した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの21年8月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比8.9%増(前月:同20.3%増)と鈍化した。輸出は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した昨年4~6月に大きく減少した後、経済活動の再開と世界的な電子機器の需要増加を受けて増加傾向が続いたが、足もとでは感染再拡大による仕向け先の需要減退や昨年の落ち込みからの反動増の影響が剥落して輸出の伸び率が低下しつつある。また輸入額が前年同月比47.9%増(前月:同45.9%増)と高水準が続いた結果、貿易収支は▲12.2億ドルとなり、前月から14.0億ドル悪化した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同21.2%増(前月:同27.7%増)と6カ月連続の二桁増となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、在宅時間が増加した影響で電子機器(同14.5%増)や家電製品(同5.7%増)が増加したほか、機械・装置(同12.5%増)や石油化学製品(同41.2%増)、自動車・部品(同19.0%増)などの主要輸出品も好調だった。また鉱業・燃料は同116.5%増(前月:同69.8%増)となり、石油製品(同126.2%増)を中心に大きく上昇した。このほか、農産物・同加工品は同22.6%増(前月:同26.5%増)と10ヵ月連続で増加した。加工食品(同1.0%減)が若干減少したものの、天然ゴム(同98.8%増)やゴム製品(同9.3%増)、果物(同124.8%増)の好調が続いたほか、コメ(同25.4%増)が9カ月ぶりにプラスに転じるなど、総じて増加した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの21年8月の輸出額(ドル建て換算、通関ベース)の伸び率は前年同月比17.4%増(前月:同6.5%増)と上昇した。輸出は昨年4~5月に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰を追い風に増加傾向が続いている。また輸入額が前年同月比11.6%増(前月:同25.7%増)と二桁増が続いた結果、貿易収支は+50.7億ドルとなり、前月から18.0億ドル改善した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同6.7%増(前月:同11.0%減)となり、主力の電気・電子製品(同6.0%増)を中心に2カ月ぶりに増加した(図表8)。また鉱物性燃料は同52.4%増(前月:同58.8%増)と好調だった。原油(同4.7%減)は減少したが、石油製品(同68.9%増)と天然ガス(同108.6%増)がそれぞれ大幅に増加した。このほか、ゴム手袋(同26.0%増)と化学製品(同59.1%増)、動植物性油脂(同33.8%増)も二桁増となった。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの21年8月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比64.1%増(前月:同29.4%増)と大きく上昇した。輸出は昨年3~5月にかけて新型コロナの感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や商品市況の改善により増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比55.3%増(前月:同44.4%増)と上昇した結果、貿易収支は+47.4億ドルとなり、前月から21.5億ドル黒字が拡大した(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同63.4%増(前月:同28.3%増)、石油ガス輸出が同77.9%増(前月:同50.3%増)となり、それぞれ好調だった(図表10)。品目別にみると、動植物性油脂(同167.2%増)や鉱産物(同131.9%増)、鉄・鉄鋼(同115.0%増)、自動車・同部品(同29.5%増)、電気機械(同27.3%増)、ゴム製品(同16.2%増)などが大幅に増加したほか、機械類(同1.3%増)がプラスに転じた。一方、天然又は養殖真珠、貴石、半貴石(同46.9%減)は引き続き低迷した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの21年8月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て換算、通関ベース)は前年同月比3.7%増(前月:同15.3%増)と鈍化し、一桁台の伸びに止まった。輸出は昨年コロナ禍でも増加傾向で推移し、今年は世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により好調が続いていたが、8月は感染再拡大による工場の休止や物流の停滞などが影響して輸出が鈍化した。なお、総輸出額が同18.6%増(前月:同19.0%増)、総輸入額が同24.1%増(前月:同24.8%増)と、それぞれ増加した結果、貿易収支は+53.5億ドルとなり、前月から26.0億ドル拡大した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同17.9%増(前月:同17.6%増)と好調を維持して9カ月連続の二桁増となった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同21.5%増)やPC(同15.6%増)、ダイオード・トランジスタ(同36.9%増)の大幅な増加が続いた一方、ディスクメディア(同1.2%減)が2カ月連続で減少した。また全体の約3割を占める化学品は同18.3%増(前月:同45.8%増)は増勢が鈍化した。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同32.2%増)が大きく増加したものの、医薬品(同11.5%減)が3カ月ぶりに減少した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表11)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの21年8月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比17.6%増(前月:同13.8%増)と上昇して6カ月連続の二桁増となった。輸出は昨年3月に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の回復を追い風に増加傾向にあるが、足もとでは昨年の落ち込みからの反動増の影響が剥落して輸出の増勢は鈍化しつつある。また輸入額も前年同月比30.8%増(前月:同29.5%増)と大幅な増加が続いた結果、貿易収支は▲35.8億ドルの赤字となり、前月から0.8億ドル改善した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同16.5%増(前月:同10.1%増)と好調だった(図表14)。電子製品の内訳を見ると、消費者向け電子製品(同8.5%減)が減少したものの、主力の半導体デバイス(同14.9%増)と電子データ処理機(同31.6%増)がそれぞれ大幅に増加した。その他9品目については、製錬銅(同162.5%増)や電子機器・部品(同41.8%増)、ココナッツオイル(同31.8%増)、その他鉱物製品(同30.2%増)、イグニッションワイヤーセット(同29.6%増)、その他製造品(同26.1%増)、化学品(同13.6%増)、金属部品(同12.8%増)、機械・輸送用機器(同0.8%増)がそれぞれ増加した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年10月12日「経済・金融フラッシュ」)

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