- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 年金 >
- 企業年金 >
- 企業年金とESG投資-ESGを意識した経営の広がりで見直されるESG投資
企業年金とESG投資-ESGを意識した経営の広がりで見直されるESG投資

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――企業年金の受託者責任とESG投資
この点に関して、ESG投資を推進するPRI(責任投資原則)は、主要国を対象に行った「投資実務と受託者責任」に関する調査報告書「21世紀の受託者責任(2015年)」のなかで、「多くの国が、機関投資家に対し、投資の意思決定の際にESG問題を考慮することを求める規則や原則を導入してきた。」と指摘した上で、「投資実務において、環境上の問題、社会の問題および企業統治の問題など長期的に企業価値向上を牽引する要素を考慮しないことは、受託者責任に反することである。」としている。英国では2018年に投資規則が改正され、企業年金の受託者は財務的に重要なESG要素を考慮する必要があるとされ、2012年以降続けられてきたESG投資を巡る受託者責任の解釈に係わる議論が決着している。米国のように、企業年金の運用でESG要素を考慮することへの規制当局の見解が政権交代とともに揺れ動き、ESG投資の適否が定まっていない例外はあるものの、主要国の多くでESG投資は推奨されている。
日本では、企業年金運用におけるESG要素の考慮についての法的な定めはない。しかし、企業年金を含む機関投資家のための行動指針であるスチュワードシップ・コードは、ESG 要素を含むサステナビリティに関する課題を投資プロセスに組み込むことは有益との考えに基づき、諸原則が改定されている。海外の主要国と同様、企業年金の運用にESG要素の考慮を推奨する度合いは強まっている。
2――企業年金でESG投資が広がらない要因
しかし、企業年金でESG投資が低調となっている要因はそれだけではないだろう。むしろ、ESG投資に懐疑的なことがESG投資の拡大を阻んでいると推測される。つまり、「ESG課題への対応にはコストがかかる」といった側面が強く意識され、ESG投資によって生み出される経済的なリターンに対して強い確信が持てないことが、企業年金でESG投資の採用が進まない要因となっている可能性である。ESGに対するネガティブな意識は、企業が社会的責任を果たすために経営に組み込むCSR活動、つまり企業によるESG課題への取り組みが、「利益を目的とせずに取り組む社会貢献」、あるいは、「本業を犠牲にして行う慈善活動」として捉えられ、企業価値向上のための企業戦略として認知されるに至っていない、もしくは認知されるのに時間を要していたことが、影響しているものと思われる。
いずれにしても、企業年金の運用にESG投資を導入することが、受託者責任上、明らかな違反ではないとしても、ESG要素を考慮した運用によってリスク・リターンの改善が期待できるとの認識が広がらなければ、企業年金の運用でESG投資が拡大することはないであろう。
3――当面はESG投資の拡大が見込まれる

背景には、異常気象の頻発、人権問題に対する意識の高まりなどを受け、世界的にESGに対する関心が高まっていることや、ESG投資やサステナブル金融が定着している金融機関とのエンゲージメントを通じてESG課題への取り組みが企業にもようやく浸透しつつあることがある。脱炭素や人権問題といった課題に取り組まなければ、資金調達や事業活動に支障が生じかねないとの意識や、ESGを企業経営における制約やコストではなくビジネス機会と捉えて、経営計画にESGを組み込む動きが広がったことで、ESG課題への取り組みと企業の中長期的な成長の方向性が重なることへの理解が進み、ESG投資のメリットが見直されたことが寄与していると考えられる。

日本政府は昨年、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言し、脱炭素化を経済成長に繋げる方針を打ち出している。6月に公表された上場企業に向けた規範・行動原則であるコーポレートガバナンス・コードの改訂版では、サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る基本的な方針を策定し、取り組みを適切に開示するべきとされるなど、中長期的な企業価値の向上に向けてサステナビリティに取り組むことの重要性が強調されている。こうした中、企業のESGに対する取り組みは今後一段と強化される方向にある。企業年金においても、ESGを重要視する母体企業の方針を踏まえて、ESG投資を検討する動きが強まることが見込まれる。
4――目的に合致するESG投資の採用が重要
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年10月14日「基礎研レター」)

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
梅内 俊樹のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/03 | 資産配分の見直しで検討したいプライベートアセット | 梅内 俊樹 | ニッセイ年金ストラテジー |
2025/02/28 | 日本版サステナビリティ開示基準を巡る議論について-開示基準開発の経過と有価証券報告書への適用の方向性 | 梅内 俊樹 | 基礎研レター |
2024/09/06 | 持続的な発展に向けて-SDGsの先を見据えた継続的な取組が必要か? | 梅内 俊樹 | 基礎研マンスリー |
2024/09/05 | 持続的な発展に向けて-SDGsの先を見据えた継続的な取組が必要か? | 梅内 俊樹 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【企業年金とESG投資-ESGを意識した経営の広がりで見直されるESG投資】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
企業年金とESG投資-ESGを意識した経営の広がりで見直されるESG投資のレポート Topへ