2025年04月03日

資産配分の見直しで検討したいプライベートアセット

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹

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国内では昨年3月に金融政策の枠組みが見直されて以降、10年国債金利は大きく上昇しており、3月上旬には2009年6月以来、15年9か月ぶりに1.5%台を回復。日銀の経済・物価見通しに沿った推移が続けば、更なる金利上昇も想定される状況となっている(図表1)。
 
しかしながら、海外に起因する不確実性が世界経済に暗い影を落としている点には注意が必要だろう。経済政策の不確実性を論じる新聞記事の割合から各時点の不確実性の度合いを定量的に示す「グローバル経済政策不確実性指数」によれば、トランプ氏が米大統領選で勝利した昨年11月以降、不確実性が高まっていることが示されている(図表2)。
 
トランプ政権が誕生して2カ月強が経過するが、その政策には依然として不透明感があり、政策次第では、米国経済はもとより、国内経済や金融市場は大きく左右されかねない情勢だ。海外で財政規律の緩みへの警戒感が高まっていることの影響も含め、国内経済については日銀が想定するシナリオから大きく上下に振れる可能性を意識せざるを得ない状況と言える。
 
こうした不確実性の高い環境を年金運用で乗り越える上では、米年金運用におけるプライベートアセットへの積極的な投資スタンスは参考になろう。プライベートアセットは未公開資産であるが故に流動性に制約があるなど、留意すべき点は多く、取り組む上で克服しなければならない課題は多岐にわたる。ただ、総じて伝統的資産との低相関性という特徴があり、リスク・リターン特性やリターン源泉の異なる多様な投資対象が存在するといった魅力があるためだ。
図表1 10年国債金利の推移/図表2 グローバル経済政策不確実性指数
Pensions&Investmentsの調査によれば、資産額上位200位に入る年金基金においては、オルタナティブの構成比率が2017年の22%から2022年には36%まで上昇しており、伝統的資産からのシフトが鮮明化している。オルタナティブの中でも、近年、投資拡大が目立つのがプライベートアセットで、その構成比率は2022時点で3割程度にまで達している(図表3)。
 
年金基金を公的年金と企業年金に区分すると、オルタナティブの構成比率が高いのは公的年金であり、公的年金がオルタナティブ投資をけん引してきたことが窺える。ただし、企業年金においてもオルタナティブの構成比率は2022年時点で27%と3割近くに達しており、少なくとも約20%はプライベートアセットに配分されている模様だ(図表4)。
 
国内でも確定給付企業年金(以下、DB)の運用では、オルタナティブへの投資は増加傾向にあり、企業年金連合会の調査によれば、オルタナティブの構成比率は2023年度に20%となっている。ただし、オルタナティブ投資の多くは、ヘッジファンドなどの非伝統的手法で占められており、プライベートアセットへの投資スタンスでは、米国の企業年金との間に格差があるような印象を受ける。
 
DBは個々に資産規模や年金財政上の事情が様々で、母体企業の方針を含めた違いによって年金運用の考え方は異なる。そもそも図表3・4の調査対象となっている米国の企業年金とは資産規模に大きな格差があり、日米間では年金運用を取り巻く環境にも違いがある。このため、米国の企業年金と同様の資産配分がDBに共通の最善策となる訳ではない。
 
ただ、プライベートアセットへの投資でリターン源泉を多様化できる点に違いはなく、伝統的資産と上手に組み合わせることで、リターンの安定化や運用効率の向上を図ることも可能だ。10年国債金利の上昇によって資産配分を見直す機運が高まっている。この機会を捉えて、プライベートアセットの採用や拡充の是非を検討することは、不確実性の高まる運用環境を乗り越え、中長期的な年金運用の安定化を目指す上で、決して無駄にはならないだろう。
図表3 米国年金基金の資産配分/図表4 米国の公的/企業年金の資産配分

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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金融研究部   企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
企業年金、年金運用、リスク管理

経歴
  • 【職歴】
     1988年 日本生命保険相互会社入社
     1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
     2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
     2009年 ニッセイ基礎研究所
     2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
     2013年7月より現職
     2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
     2021年 ESG推進室 兼務

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