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- 成熟度の高まりを考慮したDB運営
2019年02月05日
世界的な金融危機時に多額の運用損失を被り、深刻な状況に陥った確定給付企業年金(以下、DB)の財政は、その後の運用環境の好転により大きく改善した。2008 年度末に100%を大きく割り込んだ積立比率は2017 年度末には120%を超える水準まで上昇し、大半のDBで積立不足が解消されている。しかしながら、良好な財政状況が実現する一方で、DB運営において慎重さが求められるような変化も見られる。成熟度の高まりである。
成熟度を測る指標には様々なものがあるが、大きく分けて人数ベースと金額ベースの二つがある。人数ベースの指標で一般的なのは、加入者数に対する受給者数の比率である。加入者一人あたりの負担を人数ベースで測る指標だが、将来の受給者予備軍である受給待期者を受給者数に加算することで、成熟度を保守的に測るなどの応用も考えられる。
一方、金額ベースでは、給付支払額の掛金収入金額に対する比率が一般的で、掛金収入金額を標準掛金のみとするか、特別掛金などを含めるかによって、幾つかのバリエーションがある。この他、加入者の責任準備金に対する受給者の責任準備金の比率によっても成熟度を測ることもできる。これら金額ベースの指標には、人数ベースに比べ、年金財政の状態を把握しやすいという特長がある。
幾つかある指標のうち、給付支払額の掛金収入額に対する比率として成熟度の推移を示したのが、下の図表である。2013 年度から2017 年度までDBを導入する上場企業677 社を対象として、連結財務諸表で開示される「年金資産の期首残高と期末残高の調整表」における「退職給付の支払額」の「事業主からの拠出額」に対する比率として計算した結果である。
成熟度を測る指標には様々なものがあるが、大きく分けて人数ベースと金額ベースの二つがある。人数ベースの指標で一般的なのは、加入者数に対する受給者数の比率である。加入者一人あたりの負担を人数ベースで測る指標だが、将来の受給者予備軍である受給待期者を受給者数に加算することで、成熟度を保守的に測るなどの応用も考えられる。
一方、金額ベースでは、給付支払額の掛金収入金額に対する比率が一般的で、掛金収入金額を標準掛金のみとするか、特別掛金などを含めるかによって、幾つかのバリエーションがある。この他、加入者の責任準備金に対する受給者の責任準備金の比率によっても成熟度を測ることもできる。これら金額ベースの指標には、人数ベースに比べ、年金財政の状態を把握しやすいという特長がある。
幾つかある指標のうち、給付支払額の掛金収入額に対する比率として成熟度の推移を示したのが、下の図表である。2013 年度から2017 年度までDBを導入する上場企業677 社を対象として、連結財務諸表で開示される「年金資産の期首残高と期末残高の調整表」における「退職給付の支払額」の「事業主からの拠出額」に対する比率として計算した結果である。
これによると、DBの合算平均(対象DBの給付支払額合計/対象DBの掛金収入額合計)ベースで、2013年度に96.5%であった成熟度は、2017年度には110.9%まで上昇している。また、成熟度が100%を超えるDBの割合は、2013年度の29.5%から2017年度には40.9%まで増加している。
こうした傾向は、世界的な金融危機時に生じた積立不足の償却が進み、特別掛金が減少してきたことが一因と推測される。また、一時金受給の増加により、比率が押し上げられている可能性も考えられる。これら以外にも、様々な要因によって当該比率は左右されるため、ここ数年の推移の解釈には注意が必要だろう。しかしながら、2017年度末に平均的な成熟度が100%を超えている事実に変りはない。
もちろん、DBは給付支払額を掛金収入額と運用収益で賄うのが原則であり、給付支払額が掛金収入額を上回ることはごく自然なことである。計画通りに運用収益を確保できるのであれば、財政上問題となることもない。しかしながら、運用には不確実性が伴い、時として多額の損失を被ることもある。成熟度が高いほど、不測の事態に遭遇した際に、財政の健全性を維持・回復することの難しさが増すことについては、改めて確認しておく必要がある。
成熟度が100%を下回る資産積み立て期においては、運用で損失が生じたとしても、給付支払い後に残った掛金収入で損失がカバーされるため、運用損失前の資産額の回復はそれほど難しくない。しかし、成熟度が100%を超える資産取り崩し期では、それが適わず、損失を取り返すことは一般に難しい。
また、資金回収までに長期間要するような低流動性資産に投資する場合、資産の積み立て期であれば、そうした投資が後々問題となる可能性は高くない。しかしながら、取り崩し期においては、流動性の高い資産が優先的に取り崩される結果として、低流動性資産の構成割合が高まり、流動性確保や適切な資産構成の維持に支障が生じる危険性は高まる。
ちなみに、良好な運用成績で知られる米大学基金では、プライベート・エクイティなどの低流動性資産の構成比率が金額加重平均で50%を超える。流動性資産に多額の資金を投じることができるのは、返済の必要がない寄付金などを元手とし、長期的な視点に立った運用が可能なためである。給付支払いのためにキャッシュアウトが常態化するDBで、とても真似できる運用ではない。
ここ数年、DB運用では、超低金利環境を背景とする利回り追求の一環で、国内債券からリスクが高めの資産へのシフトが進められている。しかしながら今後、成熟度が高まるとすれば、こうした投資対象のシフトにおいても、どのようなリスクをどの程度負担することになるかについて、今まで以上に慎重な見極めが必要になろう。回復基調を続ける世界経済に変化の兆しが見られるなか、個々のDBにおいては、財政の健全性が損なわれるリスクが想定を超えて高まることがないように、将来的な成熟度の推移を十分に考慮しながら、リスクバッファーとしてのリスク対応掛金の設定を含めた慎重な年金運営が求められる。
こうした傾向は、世界的な金融危機時に生じた積立不足の償却が進み、特別掛金が減少してきたことが一因と推測される。また、一時金受給の増加により、比率が押し上げられている可能性も考えられる。これら以外にも、様々な要因によって当該比率は左右されるため、ここ数年の推移の解釈には注意が必要だろう。しかしながら、2017年度末に平均的な成熟度が100%を超えている事実に変りはない。
もちろん、DBは給付支払額を掛金収入額と運用収益で賄うのが原則であり、給付支払額が掛金収入額を上回ることはごく自然なことである。計画通りに運用収益を確保できるのであれば、財政上問題となることもない。しかしながら、運用には不確実性が伴い、時として多額の損失を被ることもある。成熟度が高いほど、不測の事態に遭遇した際に、財政の健全性を維持・回復することの難しさが増すことについては、改めて確認しておく必要がある。
成熟度が100%を下回る資産積み立て期においては、運用で損失が生じたとしても、給付支払い後に残った掛金収入で損失がカバーされるため、運用損失前の資産額の回復はそれほど難しくない。しかし、成熟度が100%を超える資産取り崩し期では、それが適わず、損失を取り返すことは一般に難しい。
また、資金回収までに長期間要するような低流動性資産に投資する場合、資産の積み立て期であれば、そうした投資が後々問題となる可能性は高くない。しかしながら、取り崩し期においては、流動性の高い資産が優先的に取り崩される結果として、低流動性資産の構成割合が高まり、流動性確保や適切な資産構成の維持に支障が生じる危険性は高まる。
ちなみに、良好な運用成績で知られる米大学基金では、プライベート・エクイティなどの低流動性資産の構成比率が金額加重平均で50%を超える。流動性資産に多額の資金を投じることができるのは、返済の必要がない寄付金などを元手とし、長期的な視点に立った運用が可能なためである。給付支払いのためにキャッシュアウトが常態化するDBで、とても真似できる運用ではない。
ここ数年、DB運用では、超低金利環境を背景とする利回り追求の一環で、国内債券からリスクが高めの資産へのシフトが進められている。しかしながら今後、成熟度が高まるとすれば、こうした投資対象のシフトにおいても、どのようなリスクをどの程度負担することになるかについて、今まで以上に慎重な見極めが必要になろう。回復基調を続ける世界経済に変化の兆しが見られるなか、個々のDBにおいては、財政の健全性が損なわれるリスクが想定を超えて高まることがないように、将来的な成熟度の推移を十分に考慮しながら、リスクバッファーとしてのリスク対応掛金の設定を含めた慎重な年金運営が求められる。
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経歴
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
(2019年02月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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【成熟度の高まりを考慮したDB運営】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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