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圧縮進む退職給付に係る負債
金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
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退職給付債務は従業員に対する負債で、将来支払いが見込まれる退職給付額のうち、期末までの労働の対価として発生が認められる額の現在価値として計算される。現在価値に割引く際に適用される割引率は、国債、政府機関債及び優良社債などの安全性の高い債券の決算期末における利回りを基礎として決定することとされ、10年国債や20年国債の利回りを基準に割引率を決める企業が多い。
このため、日銀によるマイナス金利政策の導入により10年国債利回りがマイナスとなった2016年には、退職給付債務や退職給付に係る負債の増大が企業財務を圧迫することが懸念された。以下では、確定給付企業年金を導入する企業を対象として、退職給付が企業財務に与える影響を振り返る。
図1は、過去5年度における退職給付債務、年金資産、退職給付に係る負債の推移である。年度間の比較可能性を高めるため、2013年4月から2018年3月までの5年間、日本の会計基準に従って連結財務諸表を公表し、退職給付債務・年金資産が計上され、厚生年金基金がない、上場企業938社の合計値をグラフ化している。退職給付債務は、2015年度にかけて大幅に増大した。日銀による異次元金融緩和政策、特に2016年1月に決定されたマイナス金利政策を受け、割引率の基礎となる10年国債利回りがマイナスゾーンへと急激に低下したことが影響した。しかし、10年国債利回りを0%近辺にコントロールする政策転換により、10年国債利回りのマイナスが解消された2016年度以降は、退職給付債務の増大に歯止めが掛かっている。
他方、年金資産は、世界的な金利低下や株高、円安を背景に、2014年度に前年度比で大きく増大した。2015年度には、中国ショックなど市場環境の不安定化を受け減少したが、その後は、市場環境の好転により、年金資産は増大基調となっている。
この結果、退職給付債務と年金資産の差額である退職給付に係る負債は、2015年度を境に減少している。純資産に対する退職給付に係る負債の比率も、2015年度の6.27%から2017年度には4.63%に低下しており、連結貸借対照表における退職給付の影響は軽減されつつある。
退職給付に係る負債は、企業の連結損益計算書にも影響する。決算期末の退職給付に係る負債のうち、年金資産の運用収益が想定を下回ったり、割引率の低下により退職給付債務が増大する等により前期から増加する部分は未認識債務とされ、その後の一定の年数で費用処理することが求められる。
対象企業の費用処理年数の平均は8.4年で、2017年度の未認識債務を費用処理年数で割った1年当たりの費用処理額は584億円。経常利益17兆6489億円の約0.3%で、2015年度の1.4%から低下している。この間、経常増益となっていることもあるが、未認識債務の減少が大きく寄与した結果であり、企業利益への影響という面でも、退職給付の負担軽減が進んだ。
以上のように、対象企業を合算したベースで見れば、足元、退職給付が企業財務に与える影響は限られる。しかしながら、個別にはバラツキがあり、割引率を高めに設定していたり(図表2参照)、純資産に対する退職給付に係る負債の比率や経常利益に対する費用処理額の比率が高めの企業においては、退職給付が企業財務に与える潜在的なインパクトは大きい。保護主義政策の強まりや中国経済の減速懸念など、金融市場が転機を迎える可能性もあるなか、10年国債で0.1%程度まで上昇した利回りが再び低下しないとも限らない。退職給付が企業財務に与える潜在的なインパクトが大きい企業においては、こうしたリスクをも意識しつつ、企業財務への影響を考慮した確定給付企業年金の運営が求められよう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年11月30日「研究員の眼」)
03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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