2024年09月06日

持続的な発展に向けて-SDGsの先を見据えた継続的な取組が必要か?

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.330]

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹

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1―5つの「P」

5つの「P」で、どのようなワードを思い浮かべますか。資産運用にかかわる業務経験をお持ちの方であれば、運用評価において重要な要素となる、Philosophy(投資哲学)、People(人)、Process(投資プロセス)、Portfolio(ポートフォリオ)、Performance(運用パフォーマンス)を想像されるかもしれません。ただ本コラムでは、People(人)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、Peace(平和)、Partnership(パートナーシップ)に象徴されるSustainableDevelopment Goals(持続可能な開発目標)を取り上げ、目標達状況や取組継続の必要性について確認することとしたい。

2―SDGsとは

2015年9月、国連サミットでは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。そのアジェンダに盛り込まれたのが、SDGs(持続可能な開発目標)である。世界をより良くするための国際社会に共通の目標で、2030年までの15年間に目指すべき17の目標と169のターゲットで構成されている。

目標1「貧困をなくそう」、目標2「飢餓をゼロに」からも理解されるように、SDGsでは「誰一人取り残さない」という原則のもと、主には開発途上国の課題に焦点が当てられている。しかしながら、経済、社会、環境という三側面における課題がバランスよく組み込まれており、先進国においても取り組みが求められる目標も少なくない。途上国への様々な支援を含め、先進国には積極的な関与が求められている。

3―全世界におけるSDGsの達成状況

SDGsが発効してから8年半が経過しようとしている。期限までの中間地点を既に通り過ぎていることを踏まえると、2030年の目標達成に向けて相応の進捗が期待される時期と言えるかもしれない。しかしながら、全世界の進捗状況は必ずしも順調とは言えないようだ。

SDGトランスフォーメーションセンターによって公表された「Sustainable Development Report 2024」によれば、2030年までに世界的な達成が見込まれるターゲットは16%に過ぎず、残りの84%は進捗が停滞している、もしくは、後退しているそうだ。目標達成に向けた進捗状況は地域によって異なり、北欧諸国は目標達成に向けて世界をリード。BRICS諸国においてもここ数年で大きく進展している一方で、低所得国などでは停滞が見られる状況である。世界全体の進捗の遅れ、地域による格差の拡大には、新型コロナウイルス感染症の拡大などが大きく影響した点は否めないが、こうした状況を受けて、2030年の目標達成は危機的な状況にあるというのが現状だ。

4―日本の達成状況

「Sustainable Development Report 2024」によれば、17の全目標の達成率を示すスコアのランキングで、日本は国連加盟国193カ国中18位。ただし、SDGsが発効した2016年と同じ順位であることを踏まえると、スピード感のある課題対応が実施されてきたとは言い難い。

大きな課題が残る目標とされているのは、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標12「つくる責任、つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対応を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさを守ろう」。OECDの2022年の報告書でも、ジェンダー平等を巡る課題目標5)、一般廃棄物の回収・リサイクル率の低さ(目標12)や、生物多様性の著しい損失(目標15)が指摘されており、更なる進展が求められている。

5―持続的な発展に向けて

ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化、国際社会の分断といった困難に直面するなか、2030 年のSDGsの達成は極めて厳しい状況にある。ただ仮に、目標を達成できないとしても、課題対応が不要になるということはない。ポストSDGs、或いはESGの枠組みの下で、各国は引き続き取り組みの推進を求められることになろう。

その点、国内ではSDGs発効以降、企業や個人において心強い変化が見られている。帝国データバンクの2024年調査によれば、SDGsに積極的な企業が増加傾向にあり、その割合は50%を超える。アンケート対象に経営体力に乏しい中小企業が多数含まれることを勘案すれば、SDGsの浸透がうかがえる数値と言える。また、各種調査によれば、次代を担うZ世代は社会課題に関心を持ち、消費を通じて課題解決に貢献しようとする意識が高い。学校教育などを通じて幼少期からSDGsを学んだり、生活の中でSDGsを実践したりする機会が増えつつあることも含め、国内では長期的かつ持続的な取り組みが可能な素地は整いつつある。

将来世代により良い社会を引き継ぐためにも、経済、社会、環境という三側面における課題対応を継続する必要がある。政府主導のもとで、若者や企業の行動を促しながら、長きにわたって取り組みが推進されることが期待される。

(2024年09月06日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
企業年金、年金運用、リスク管理

経歴
  • 【職歴】
     1988年 日本生命保険相互会社入社
     1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
     2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
     2009年 ニッセイ基礎研究所
     2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
     2013年7月より現職
     2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
     2021年 ESG推進室 兼務

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