コラム
2022年12月22日

バランスと協調-地球温暖化の原因と対応から考える

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹

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1――地球温暖化は人為起源

WMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)は、気候変動に関する科学的知見をとりまとめた報告書を作成し、各国政府の気候変動に係る政策に科学的な基礎を与えることを目的として、1988年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)を設立した。その後IPCCでは、世界中の第一線の研究者が寄与した地球温暖化問題に関する研究成果についての評価が行われ、それらの結果をまとめた報告書として、1990年に第1次評価報告書(First AssessmentReport 1990)が発表された。

同報告書では「人為起源の温室効果ガスが大気中に排出され続ければ、生態系や人類に重大な影響を及ぼす気候変化が生じる恐れがある」ことが示されており、こうした警告が1992年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の採択を強力に後押し、世界の地球温暖化防止政策の推進に多大な影響を及ぼすこととなったとされる。

IPCCが公表した最新の報告書である第6次評価報告書には、2011~2020年の世界の平均気温が、1850~1900年の気温よりも1.09℃高いことが示されている。その上で、気候の現状に関して「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」ことや、「人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしている」ことが明記されている。

第1次評価報告書が発表された1990年から30年余りの時を経て、地球温暖化は人為起源であるとの確信は一段と高まっている。

2――頻出する異常気象

WMOが公表した「2021年地球気候の現状に関するWMO報告書」には、IPCCの報告を裏付けるように、2021年に発生した異常気象の実例が挙げられている。

洪水に関しては、中国河南省が洪水によって多額の経済的損失を被ったことや、西ヨーロッパでは観測史上最悪の洪水が発生し、ドイツでは経済的損失だけでなく人命の損失も甚大となったことが示されている。

干ばつが世界の多くの地域に影響を与えたことも示されており、南米の亜熱帯地方では干ばつによって農業に大きな損失が発生し、エネルギー生産と河川輸送が混乱したこと、アフリカ北東部では過去40年間で経験したことがない長さの干ばつに見舞われていることなどが記されている。IPCCが1990年の報告書で指摘した警告は現実となりつつある。

3――バランス回復には協調が不可欠

温室効果ガスには文字通り、地表面から放出された熱を吸収し、地球を暖める効果がある。この効果によって、地球の平均気温は14℃前後に温められている。温室効果ガスが存在しなければマイナス19℃になると言われており、地球上の生物にとって不可欠な存在である。

それにも拘らず、温室効果ガスが悪者扱いされるのは、本来地球に備わっている炭素循環という二酸化炭素の排出と吸収のバランスを図る機能が、人間活動によって歪められているからである。産業革命以前においては、生物や海洋からの排出される二酸化炭素と森林の光合成や海洋などによって吸収される二酸化炭素のバランスが保たれていた。ところが産業革命以降は、工業化や森林伐採などの人間活動によって、排出と吸収のバランスが崩れ、大気中の二酸化炭素の蓄積が進んでいる。その結果、温室効果が高まって地球温暖化という事態を招いているのである。バランスの乱れが崩壊を招きかねない事例の一つと言えるだろう。

1994年の発効以降、国連気候変動枠組条約に基づき、毎年開催されている気候変動枠組条約締約国会議(COP)で、大気中の温室効果ガス濃度の安定化を究極的な目的とする気候変動対策にかかわる協議が進められている。2022年11月開催のCOP27では、洪水や干ばつといった地球温暖化に伴う災害によって「損失と被害」を受けた途上国を支援する基金の創設が決定された。人為起源とされる地球温暖化を招いたのは工業化が進んだ先進国であることや、気候変動対策が引き続き途上国を含めた全世界的な協調体制のもとで推進されることを踏まえると歓迎されるべき決定と言える。

しかし、肝心の地球温暖化対策についてはほとんど進展を見ないままCOP27は閉幕した。各国の立場には相違が見られ、容易に合意されるような課題ではない。しかし、IPCCの分析に基づけば、極端な温暖化を回避できるかどうかの瀬戸際にいる。世界の分断が懸念される中、締約国には、カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出と吸収のバランス回復)に向けて、利益追求と環境配慮、自国優先と国際協調のバランスを図りつつ、責任を果たすことが期待される。
 
 

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金融研究部   企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
企業年金、年金運用、リスク管理

経歴
  • 【職歴】
     1988年 日本生命保険相互会社入社
     1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
     2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
     2009年 ニッセイ基礎研究所
     2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
     2013年7月より現職
     2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
     2021年 ESG推進室 兼務

(2022年12月22日「研究員の眼」)

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