- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 環境経営・CSR >
- バランスと協調-地球温暖化の原因と対応から考える
バランスと協調-地球温暖化の原因と対応から考える

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――地球温暖化は人為起源
同報告書では「人為起源の温室効果ガスが大気中に排出され続ければ、生態系や人類に重大な影響を及ぼす気候変化が生じる恐れがある」ことが示されており、こうした警告が1992年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の採択を強力に後押し、世界の地球温暖化防止政策の推進に多大な影響を及ぼすこととなったとされる。
IPCCが公表した最新の報告書である第6次評価報告書には、2011~2020年の世界の平均気温が、1850~1900年の気温よりも1.09℃高いことが示されている。その上で、気候の現状に関して「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」ことや、「人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしている」ことが明記されている。
第1次評価報告書が発表された1990年から30年余りの時を経て、地球温暖化は人為起源であるとの確信は一段と高まっている。
2――頻出する異常気象
洪水に関しては、中国河南省が洪水によって多額の経済的損失を被ったことや、西ヨーロッパでは観測史上最悪の洪水が発生し、ドイツでは経済的損失だけでなく人命の損失も甚大となったことが示されている。
干ばつが世界の多くの地域に影響を与えたことも示されており、南米の亜熱帯地方では干ばつによって農業に大きな損失が発生し、エネルギー生産と河川輸送が混乱したこと、アフリカ北東部では過去40年間で経験したことがない長さの干ばつに見舞われていることなどが記されている。IPCCが1990年の報告書で指摘した警告は現実となりつつある。
3――バランス回復には協調が不可欠
それにも拘らず、温室効果ガスが悪者扱いされるのは、本来地球に備わっている炭素循環という二酸化炭素の排出と吸収のバランスを図る機能が、人間活動によって歪められているからである。産業革命以前においては、生物や海洋からの排出される二酸化炭素と森林の光合成や海洋などによって吸収される二酸化炭素のバランスが保たれていた。ところが産業革命以降は、工業化や森林伐採などの人間活動によって、排出と吸収のバランスが崩れ、大気中の二酸化炭素の蓄積が進んでいる。その結果、温室効果が高まって地球温暖化という事態を招いているのである。バランスの乱れが崩壊を招きかねない事例の一つと言えるだろう。
1994年の発効以降、国連気候変動枠組条約に基づき、毎年開催されている気候変動枠組条約締約国会議(COP)で、大気中の温室効果ガス濃度の安定化を究極的な目的とする気候変動対策にかかわる協議が進められている。2022年11月開催のCOP27では、洪水や干ばつといった地球温暖化に伴う災害によって「損失と被害」を受けた途上国を支援する基金の創設が決定された。人為起源とされる地球温暖化を招いたのは工業化が進んだ先進国であることや、気候変動対策が引き続き途上国を含めた全世界的な協調体制のもとで推進されることを踏まえると歓迎されるべき決定と言える。
しかし、肝心の地球温暖化対策についてはほとんど進展を見ないままCOP27は閉幕した。各国の立場には相違が見られ、容易に合意されるような課題ではない。しかし、IPCCの分析に基づけば、極端な温暖化を回避できるかどうかの瀬戸際にいる。世界の分断が懸念される中、締約国には、カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出と吸収のバランス回復)に向けて、利益追求と環境配慮、自国優先と国際協調のバランスを図りつつ、責任を果たすことが期待される。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年12月22日「研究員の眼」)

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
梅内 俊樹のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/02/28 | 日本版サステナビリティ開示基準を巡る議論について-開示基準開発の経過と有価証券報告書への適用の方向性 | 梅内 俊樹 | 基礎研レター |
2024/09/06 | 持続的な発展に向けて-SDGsの先を見据えた継続的な取組が必要か? | 梅内 俊樹 | 基礎研マンスリー |
2024/09/05 | 持続的な発展に向けて-SDGsの先を見据えた継続的な取組が必要か? | 梅内 俊樹 | 研究員の眼 |
2024/04/03 | 私的年金の拠出枠組みについての更なる検討が必要 | 梅内 俊樹 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年03月28日
OPECプラスの軌跡と影響力~日本に対抗策はあるのか? -
2025年03月28日
トランプ2.0でEUは変わるか? -
2025年03月28日
韓国における最低賃金制度の変遷と最近の議論について -
2025年03月28日
新NISAの現状 -
2025年03月28日
トランプ政権2期目の移民政策-強制送還の大幅増加は景気後退懸念が高まる米経済に更なる打撃
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【バランスと協調-地球温暖化の原因と対応から考える】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
バランスと協調-地球温暖化の原因と対応から考えるのレポート Topへ